グローバルスタディーズ専攻 研究クローズアップ

戦争という国家の物語に隠れた「越境する人々」の歴史とは?

研究

人やモノ、文化が国境を越えてどのように移動し、交わってきたのか。歴史を国という枠組みを越えて捉えるのが「トランスナショナル・ヒストリー」という分野です。なかでも私は、10カ国以上で暮らしてきた自身の経験も重ねながら、アジア太平洋地域の歴史を「移動」と「移民」の観点から研究しています。現在の研究の中心は、アジア太平洋戦争を「移動」という視点から再検討する試みです。戦争は国民国家の物語として語られがちですが、実際にはもっと多様で複雑な側面があります。「移動」する人々の視座に立つことで、歴史に埋もれていた事実が浮き彫りになるのです。めざすのは政治史や経済史ではなく、普通の人々の歴史を描き出すこと。そして、国や地域を越えて「人としてどうあるべきか」を考えるきっかけを提示することです。過去に起きた「事実」は、現代の諸課題への大きなヒントとなり、歴史は今と未来を考える手掛かりにもなるのです。

ゼミ

ゼミではアジア太平洋地域の歴史について、グローバリゼーションや脱植民地化などの視点から論じた英語圏の文献を読み進めます。2025年度は、オーストラリアの人類学者ガッサン・ハージの『White Nation』を取り上げ、日常に潜む白人中心主義や、多文化主義が抱える矛盾について意見交換を行いました。議論を意義あるものにするため、事前に全員が文献を読み、要旨と考察をまとめたレポートを提出するのが本ゼミのスタイルです。特に大切にしてほしいのは「自分の関心と結びつけて考える」こと。書籍・論文と自らの問題意識を関連づけることで、研究課題も一層明確になるでしょう。歴史は「暗記の学問」ではありません。重要なのは、得た情報をもとに批判的・論理的に考え、自らの主張を展開する力を養うことです。これこそが歴史学を学ぶ意義であり、変化の激しい社会を生き抜くための、確かな指針になるでしょう。

小林ハッサル柔子 教授

オーストラリア国立大学大学院アジア・太平洋研究学部アジア史専攻博士課程修了(Ph.D.)。立命館大学グローバル教養学部准教授などを経て、2024年より現職。専門はアジア太平洋地域における移民および移動のトランスナショナル・ヒストリー。