経営学科 研究クローズアップ

会計情報から読み解く日本のM&Aの実態とは

【研究】アメリカに比べ、日本では 「安く買われる」会社が多い?

動画配信サービスやSNS、ゲームなど、身近なサービスを提供する企業のなかには、買収や合併を重ねることで成長してきた例も少なくありません。こうした「企業結合(M&A)」に関する会計が私の専門分野で、なかでも「負ののれん」が生じるケースに着目して研究を進めています。企業が他社を買収する際は、ブランド力などの「見えない価値」も考慮し、純資産相当額を上回る金額を支払うのが一般的です。しかし、逆に買収金額が純資産相当額を下回る場合もあり、その差額を「負ののれん」といいます。売り手にとっては低い値段で売ることになるため、こうした事例は一見起こりにくいように思われます。ですが、実はアメリカに比べ、日本では負ののれんが生じるケースが多い傾向にあるのです。その理由を明らかにできれば、より日本の実情に即した会計ルールづくりのヒントが見えてくるかもしれません。この研究の難しさはデータ収集に労力がかかることで、M&Aの詳細な情報は財務諸表本体には記載されておらず、注記と呼ばれる文章情報から手作業で拾っていく必要があります。地道な収集・分析の結果見えてきたのは、売り手企業が買い手企業に安く買いたたかれているというよりは、評価額の定まりにくい資産を売り手企業が多く保有していることと、売り手企業の株価水準が低いこと。さらに、業績が低迷している業種でのM&Aで負ののれんが生じやすいことがわかってきました。引き続き研究を進め、M&Aにおける日本企業の取引や意思決定の特徴を解明していきたいと思います。

【ゼミ】実際の会計情報をもとに テーマを決めて企業を分析

ゼミで主に取り組んでいるのは「会計情報を用いた企業分析」です。2年次では、上場企業が開示している有価証券報告書を読み解くための専門知識を学んだ後、グループに分かれて分析に着手。2025年度は、「赤字企業」または「ビジネスモデルの変化」のいずれかのテーマを選び、具体的な研究課題と分析する企業を自分たちで決めて研究を行いました。過去には、学校法人やNPO法人、海外のスポーツチーム運営企業など、一般的な企業分析とは一味違うテーマにチャレンジしたこともあります。そして3年次には、より会計制度に焦点を当てた専門性の高い分析を行い、4年次の卒業研究へとつなげていきます。実際の会計情報を見ると、「テキストで学んだ内容と違う」「開示内容が企業によって異なる」などの理由により、思うように分析が進まないことも少なくありません。そんな「想定外」の事態こそ、会計学を実践的に学ぶ醍醐味であり、知識や情報を駆使して解決していく力を育むチャンスです。そのためにも、日々の指導では、私自身が学生と一緒にさまざまな気づきや疑問を楽しみながら探究する姿勢を大切にしています。会計というと、「ルールに沿って機械的に数値を導き出すもの」というイメージが強いかもしれません。しかし、実際は経営者の意図や判断が反映される人間的な行為であり、なかにはルールそのものが決まっていない取引も存在します。ぜひそうした会計学の幅広さや面白さに触れながら、実社会で役立つ確かな知識を身につけてほしいと思います。

髙橋 由香里 准教授

一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。首都大学東京(現東京都立大学)都市教養学部経営学系助教を経て、2015年より現職。専門は財務会計で、特に企業結合に関する会計を研究。