ヨーロッパ文化学科 研究クローズアップ
ルネサンス期に描かれた絵画から当時のリアルな社会が見えてくる?
【研究】一枚の絵が映し出す社会の動きや人々の思いを追って
美術館で有名な絵画を見ると、多くの人が「美しい」と感じるでしょう。しかし、「その絵がどのような社会背景のなかで描かれたのか」に着目すると、また違った姿が見えてくるかもしれません。私は作品が制作された時代の政治・宗教情勢を手掛かりに、ルネサンス期の絵画を新たな視点で捉え直す研究に取り組んでいます。例えば、ティツィアーノをはじめとする16世紀のヴェネツィア派の画家たちの作品。今日でも高く評価されているこれらの作品には、注文主であるカトリック教会や、教会と結びつきが深い神聖ローマ皇帝の意向が強く反映されているものが少なくありません。当時はルターに端を発する宗教改革により、プロテスタントとの対立が激化していた時代。皇帝の肖像画のなかには、カトリックの象徴である赤が印象的に用いられたものや、異教徒と戦う古代ローマ皇帝の姿を模したものがあります。歴史的経緯や図像伝統を知らずに鑑賞すれば、単に「美しい」とのみ感じる作品であっても、当時の史料と照らし合わせてみると、制作者や注文主による政治的・宗教的な意図が浮かび上がってくることもあるのです。
研究に取り組む上で、もうひとつ意識しているのは、イタリア美術史やドイツ美術史といった「国」ごとの枠組みにとらわれない視点です。現在のような国民国家の形成が進んだのは、近代以降のこと。ルネサンス期のヨーロッパの国境線は今よりも曖昧で、都市ごとに多様なネットワークを築き、芸術家たちも盛んに行き来していました。そうした豊かな国際性に目を向けることで、文化交流の軌跡や作品の新たな側面を明らかにしたいと考えています。
【ゼミ】異なる時代・文化への「共感」と「想像力」が生む深い学び
ゼミでも、美術的観点から作品を分析するだけでなく、「美術と社会のつながり」を意識して考察することに重きを置いています。ルネサンス美術に関し、そうした切り口で網羅的に論じた書籍はまだ国内に多くないため、3年次の春学期には英語の文献を講読して議論を行います。テキストで扱われている問題や美術作品を丹念に読み解くのは大事ですが、「その作品を見て自分は何を感じ、どのように考えたのか」という自分なりの問いも、見失わないようにしてほしいと語っています。先行研究をすべて鵜呑みにするのではなく、自分なりの見解を持つことで、議論に深みや独創性が生まれるからです。
秋学期は卒業論文を見据え、各自がテーマを決めて個人発表を行います。独自の切り口で突き詰めて探究するには、外国語の書籍や論文を参照する必要が生じることも少なくありません。3年次の春学期にまとまった量の英文に触れることは、その第一歩としても意義があると考えています。研究には、史料に基づく客観的・論理的な分析が求められる一方で、「その背後にどのような社会が広がり、人々はどのような日々を生きていたのか」に思いを巡らす姿勢も欠かせません。いにしえの人々への共感や、異なる時代・文化への想像力が垣間見えると、考察の厚みは格段に増すからです。隠れた背景や見えない課題を読み解く力は、社会に出てからもあらゆる場面で活きるはずです。ぜひ本ゼミで、豊かな想像力と、独自の視点で考察を練り上げる力を育んでほしいと思います。
久保 佑馬 助教
東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了。イタリア・ピサ高等師範学校人文哲学部博士課程修了(Ph.D.)。ロベルト・ロンギ美術史学財団研究員、日本学術振興会特別研究員PD(京都大学)などを経て、2024年より現職。専門は西洋美術史、ルネサンス美術史。