ヨーロッパ文化学科 ゼミの学び

ウクライナについて書かれた 100年前の新聞記事から見えてくるもの

文学作品の中にある 歴史や文化まで読み解く

オーストリア・東欧の文化や歴史をドイツ文学から読み解く 専門ゼミナール(文学と文化)
ロシアのウクライナ侵攻のニュースが毎日のように報道されますが、私たちはこれらの国のことをどれほど理解しているでしょうか。    20世紀前半に活躍したドイツ語作家でありジャーナリストでもあったヨーゼフ・ロートは1920年に、ロシアからの独立と内戦により分断されたウクライナについての記事をベルリンの新聞に寄せました。この記事でロートは、当時のドイツでウクライナのバレエやサーカスがブームになっていることを紹介しつつ、ウクライナ民族の伝統文化が西側世界で金儲けに利用され、歪曲・強調されている現状についても伝えました。この記事のあとにロートが書いた長編小説『果てしなき逃走』は、ロシアの収容所からの脱走兵が主人公。長い放浪のなかで、ウィーンの婚約者への彼の想いは、次第に西側世界そのものへの憧れへと転じます。しかしその憧れも宙に浮き、自分が「余計な者」だと悟ります。
実はロート自身がオーストリア=ハンガリー君主国の辺境出身であり、西側の人間の無理解にさらされるウクライナ人や、自身を「余計な者」と感じる小説の主人公と同じ立場にありました。文学を通じて、このような偏見や無理解にさらされた名もなき人々の声を聞き取ることができるのです。同時に私たちが日々の報道からロシアやウクライナについて知りうることは、ごく一面に過ぎないと気づかされます。

読み、調べ、議論して 「批判的に読む力」を育む

本ゼミでは、ドイツ語圏の詩やエッセイ、小説などを原文で読み、内容について議論します。春学期では短めのテクストから読み始めます。たとえば、ヘルマン・ヘッセの短編集『メルヒェン』から数ページ程度の作品を選び、作中のモチーフに象徴されるものなどを議論していきます。秋学期には長めの作品も読みますが、学生に希望を聞きつつ興味関心のあるものを選びます。ゼミでは、作品に関連した作家の経歴や関連作品、当時の文化や歴史について、学生自ら調べて発表してもらいます。文学から派生した映像作品を鑑賞することもありますし、ロートの新聞記事を読んだときには、ウクライナの民族舞踏や民族衣装をインターネットで調べたりもしました。そのように多角的に作品を読み、議論することを通じて、学生たちには「批判的に読む力」を育んでほしいと考えています。ドイツ語に限らず、どんな言語のテクストでも立ち止まって考えつつ精読すると、読み方は一つではなく、さまざまな解釈ができると気づくはずです。

桂 元嗣 教授

東京大学文学部卒業。同大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。東京理科大学、聖心女子大学などで非常勤講師、武蔵大学人文学部准教授を経て、2018年より現職。専門は中欧文化論、近現代ドイツ語圏文学。