経済学科 研究クローズアップ

スラムからテロ対策まで 開発途上国の「なぜ」を分析する

【研究】途上国のリアルをデータと現地調査から紐解く

私の研究テーマは、開発途上国における差別や偏見が「どう生まれ、どうすれば減らせるのか」です。特にアフリカの都市部では、植民地時代に引かれた国境線や急速な都市化の影響で、異なる民族や宗教の人々が混在し、少数派が社会の発展から取り残されてしまうことがあります。こうした背景が、貧困や犯罪、さらにはテロ行為への参加につながるケースもあり、その改善策を経済学の手法を応用し模索しています。現在は、ケニアにおける宗教間の分断とその解消方法を調査しています。キリスト教徒が多数の国ですが、都市のスラムにはムスリムの若者も多く、双方の間に距離があるのが現状です。そこで、現地のNGOと協力し、政策介入実験を行っています。職業訓練プログラムを実施し経済的な機会とスキルを学んでもらうことでコミュニティの分断を越えた経済活動を行うようになるか。また、異なる宗教の若者が一緒に職業訓練を受けることで、分断を和らげる後押しになるのではないか、といった仮説を、大規模なデータに基づいて検証しています。最終的には1,500人規模の若者を調査する計画です。ソマリアでは、宗教的過激派のテロ組織に加わった経験を持つ人々の脱過激化と社会復帰について研究しています。自身の持つ過激思想や社会が自分を受け入れてくれるかという不安など、元テロ組織構成員の社会復帰には多く困難が待ち受けています。再びテロ組織に戻らないためには何が必要なのか。こうした問いに対し、本人たちの声とデータの双方に向き合いながら、解決につながる知見を探っています。差別や偏見、紛争といったテーマは一見すると経済学とは結びつきにくいかもしれません。しかし、経済学のフレームワークを使い定量的に分析することで、人間の行動原理に迫ることが可能となり、問題の解像度が格段に高くなります。そこに経済学の面白さがあるでしょう。私の研究の根底にあるのは「差別や偏見、争いで苦しむ人を減らしたい」という情熱です。複雑に絡み合った社会の課題を、情熱を持ちながら客観的に捉えること。それこそが、今の国際社会で求められている姿勢だと考えています。

【ゼミ】情熱×冷静のマインドを持って 世界の現状を分析する

ゼミでは、開発途上国が抱える貧困、汚職、教育などの課題を、データ分析で解き明かしていきます。2年次では、まず基礎的なデータ分析力を身につけることを重視しています。グループでデータ分析の課題に取り組み、議論しながら進めることで、知識の修得だけでなく実践的な思考力も向上。また、毎週の持ち回り発表では、途上国の最新ニュースを紹介し、世界の動きを主体的にキャッチする姿勢を養っています。3年次からは、学生自ら卒業論文のテーマを決め、主体的に研究を進めます。必要な統計手法や分析の方法についてはアドバイスをしますが、学生自身が自分の関心を掘り下げ、世界の課題に向き合っていくプロセスを大切にしています。私がゼミで最も育てたいのは、「情熱を持ちつつ、冷静に現実を分析する力」です。世界の課題は一筋縄ではいきません。だからこそ、データ分析の専門性を高めつつ、自分の持つ問題意識に対し主体的に行動できる学生に成長してくれることを期待しています。

原 朋弘 准教授

メリーランド大学カレッジパーク校博士(Ph.D. Economics)。武蔵大学専任講師を経て、2025年より現職。2023年より、東京大学政策評価研究教育センター招聘研究員。専門は開発経済学・政治経済学。