日本・東アジア文化学科 研究クローズアップ
「地球」に「ほし」とルビを振る。こうした表記はいつ生まれた?
【研究】身近な日本語の文字・表記。その意外な歴史とは
日本語は、漢字・ひらがな・カタカナという3つの文字体系を持つ、世界的にも珍しい言語。ゆえに、表記の仕方にもさまざまなバリエーションや特徴が見られます。私の研究では、そんな日本語の「文字」や「表記」がたどってきた歴史を明らかにすることをめざしています。現在取り組んでいるテーマは、誰にとっても身近なルビ(振り仮名)に関するもの。例えば、J-POPの歌詞で「瞬間」と書いて「おもいで」と読ませたり、漫画の必殺技に漢字とは全く異なるルビが振られたりする例は、皆さんも目にしたことがあるでしょう。ルビの主な役割は漢字の一般的な読みを示すことですが、時として漢字とルビの間には自由な対応関係が見られます。歴史をさかのぼると、実はこうした表記が広く用いられ始めたのは江戸時代のことでした。私は当時の庶民向けの読み物であるげさく戯作の調査を通して、このような対応関係がいつ生まれ、どのような変遷を経て現在に受け継がれてきたのかを突き止めようとしています。
一方、日本語学の分野では近年「コーパス」と呼ばれるデータベースを用いる研究手法が発展してきています。膨大な言語資料を収録したコーパスを活用すれば、用例を効率的に集められるほか、定量的な分析に基づく研究も可能です。私は過去に古典資料を集めた『日本語歴史コーパス』の構築に関わった経験から、授業やゼミでは各種コーパスの活用を進めており、個人的にもデータの収集や拡張を行って自身の文字・表記の研究に使用しています。
【ゼミ】「握る」と「つかむ」はどう違う?客観的なデータから分析
ゼミでは、音声・文法・語彙・表記など、日本語に関することなら何でも研究対象です。2・3年次の「日本の言語文化演習」では、まず日本語を研究するとはどういうことかイメージを持ってもらうことから始めます。春学期は『土佐日記』などを題材に、古典語の基礎的な研究手法を学習。秋学期は現代の日本語を取り上げ、「握る」と「つかむ」、「恐ろしい」と「怖い」といった類義語の違いを考察します。そして、卒業論文の準備・執筆を行う3・4年次のゼミでは、各自が個人研究に着手。平安時代の日本語から「エモい」などの最近の流行語、小説の読点の打ち方から漫画のオノマトペやJ-POPの歌詞に至るまで、扱うテーマは実に多様です。流行語など身近な言葉を扱う場合は、学生同士の議論の中で実態に即した鋭い指摘が多く見られ、刺激を受けることもたくさんあります。ただし日本語研究において重要なのは、これらの言葉を感覚的に捉えて論じるのではなく、「データに基づく客観的な論証」を行うことです。本ゼミにおいても、文献資料を見て用例を探すほか、コーパスをはじめとするデータベース・SNSなどのインターネット上の資料、アンケートなどを活用してデータを集め、論理的に結論を導くことをめざしています。そうしたプロセスを経て、普段何気なく使っている言葉の背後にある規則性や特徴を明らかにできることが、日本語研究の醍醐味だといえるでしょう。
言葉は個人的なものであると同時に、社会的なものでもあります。一つひとつの日本語の意味や背景を深く掘り下げた経験は、自分自身が発する言葉、さらには文学作品やSNSの言葉への向き合い方も変えるはず。ゼミ生の皆さんには、ぜひ日常のあらゆる場面で、自覚的に言葉を使うことができる人になってほしいと思います。
片山 久留美 助教
慶應義塾大学大学院文学研究科国文学専攻博士課程単位取得退学。国立国語研究所言語変化研究領域プロジェクト非常勤研究員、慶應義塾大学・明治大学・駒澤大学非常勤講師などを経て、2025年より現職。専門は日本語学、コーパス言語学。