サイエンスラボ講座(生物学)

 生物とは、動物や植物、目で見えない微生物などの「生命」を備えているものの総称です。サイエンスラボ講座(生物学)では、身の回りの生き物や食品を観察・測定材料とし、生命科学の実験を通じて生命の仕組みを調べます。人間と自然の関係を科学的に理解することが本授業目標の一つです。
 武蔵大学の構内には180種あまりの木が繁栄しています。この緑豊かな環境のおかげで、都心部に位置しているのにもかかわらず、私たちは常にきれいな空気をいただいています。身の回りの植物は、二酸化炭素を利用して、光合成により生命体を構成する有機物と酸素を作ります。十分な酸素が全身の細胞に届けられると、人は元気になって学習の効率も高まるでしょう。
  植物は大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)も吸収することが知られており、地球環境を守る役割を担っています。大気汚染の調査では、身の回りの環境はどうなっていますかについて、学内外の数カ所でサンプリングし、研究室で大気汚染物質を計測します。
図1.大気汚染調査
 植物を材料とする実習・実験には、藍染体験や植物細胞の顕微鏡観察、および腐植物質の検出などの項目があります。腐植物質とは、落ち葉や生物の死骸などが微生物によって分解・再合成された有機物です。土壌中の有機物は微生物の働きで二酸化炭素に変わり、再び植物に利用されます。
 
 このように、地球上の炭素の一部は、自然→植物(→動物)→微生物→自然の間を循環しています。二酸化炭素は温室効果ガスの一つです。人間活動、特に工業化の加速につれて、大気中に放出される二酸化炭素の量が過剰になり、森林伐採により炭素固定が著しくに減少しています。このようなことで、地球の炭素循環が崩れ、地球温暖化につながるでしょう。
図2.植物の利用ー藍染
図3.大学構内のすすぎ川周辺の土壌調査
生物の基本単位である細胞は、タンパク質、脂質、核酸(DNAやRNA)などの生体分子から構成され、生命維持と活動に必要な反応が行われる場所です。細胞は肉眼で見えないマイクロメータスケールの微小構造ですが、光学顕微鏡を用いることで内部を覗くことができます。生物学ラボの実験では、植物の葉緑体、細胞分裂、細胞の構造と挙動などを顕微鏡で観察し、生命の仕組みを調べます。
図4.植物細胞の顕微鏡観察
生物の遺伝情報は、DNA(デオキシリボ核酸)と呼ばれる生体分子にコードされています。DNA は細胞分裂するたびに複製され、遺伝情報が確実に娘細胞に分配されます。この仕組みにより、遺伝情報が子孫に受け継がれ、生物の基本的な機能が集団内で保存されることが可能になります。PCR検査や遺伝子検査、遺伝子治療など、現代医学において病気の診断と治療の対象ともなっています。DNA複製は生命と生物多様性を維持するのに重要な機序ですので、講義科目や演習科目でDNAの構造とはたらきをしっかり理解しましょう。
図5.DNA抽出実験
図6.マイクロピペット
 分子細胞生物学などの研究では、微量な液体サンプルを扱います。例えば、PCR 検査や生化学検査では、数百〜数マイクロリットルの試薬と検体を操作することが一般的です。微量の液体を操作するには、マイクロピペットを使います。テレビや新聞記事で、実験台の側に白衣を着た医学研究者が何かを操作している姿を印象に残ったことがあるでしょうか。その操作するものは、マイクロピペットである場合が多いです。マイクロピペットは、生命科学の研究に最も基本的なツールですので、生物学ラボでその使い方を学びましょう。そしてマイクロピペットを用いて、生化学検査の一般的な操作を実践しましょう。
サイエンスラボ講座(生物学)の一部の内容を紹介しましたが、いかがでしょうか。分子から細胞を創り、細胞から個体を構成する生命の仕組みは複雑ですが、生命科学の基本的な研究方法を通じて、科学的な考え方を身につけることで、現代社会が直面しているSDGs問題や、生物と環境の関係について深く議論することができるではないかと思います。