生物学ラボワーク

 生物学ラボワークでは、武蔵大学構内の自然を観察材料に、興味あるテーマを設けて調査、観察しています。4年間通う大学構内の自然に親しみを持つことが科目目標の一つです。
 
武蔵大学がある「江古田校地に生えている木は180種あまり、そのうち約70種は高木です。高木の数は約900本で、低木は数えられていませんが数千株あるでしょう」(パンフレット「武蔵学園の樹木について」から引用)
 
ケヤキが実をつける年と実を付けない年では、落ち葉の大きさが違っているのに気が付いたことはありますか?結実年には葉は小さく、小枝ごと落ちて種子が風に散布されていきます。実をつけず成長する非結実年には、葉は大きく、成長と蓄積の年に対応しているのです。
 3号館と図書館に囲われた中には「武蔵の大ケヤキ」と呼ばれている大木があります。100年前に武蔵を創設したときにも大木として生えていたことが最初期の写真に写っています。
 
沢山の種類の木々一つ一つが、それぞれ違う生き方をしています。その違いを比較すれば、色んなことが分かってきます。多種類の生物の多様性そのものと多種類の植物の共存のあり方を知ることは、現代の地球人の生き方にも、何かのヒントをもたらすに違いありません。
建設のため伐採されたケヤキの年輪解析用の写真。年輪数がいくつあるか数えてみてください。武蔵が秋を迎えると、沢山の落ち葉が降り注いできます。
 建設工事のため切られてしまったケヤキの年輪幅の変化を調べてみました。明瞭な周期があるわけではありませんが、数年から5年おきに非常に年輪幅が狭い年があります。きっとこの年は、種子が大量に実ったのでしょう。こんな風に、生き物を調べるにも時間のなかで考えれば、生き物の進化の秘密の一端に触れることができます。それぞれの学生が、卒業まで4年間、自分の樹をみつけ見守ってくれることを願っています。
  
ドングリ結実量調査も毎年継続しているテーマです。日本列島には多様なブナ科植物が生育しています。どんぐりタイプの種子生産をする植物の分類群です。
 
ドングリを生産するブナ科の植物は、日本の代表的な植物で、誰でも見知っている植物です。でもいったいこの木に何個のドングリが実るのだろうと、生物学ラボワークで調べています。ドングリが頭にあったと話してくれた学生もいました。毎年継続調査をしているのですが、ドングリの結実量には年変化が非常に大きく、その進化について考えるデータを集めているのです。ドングリトラップが設置されているのを見て、生物実験で調査が始まったなあと季節の変化を感じてもらえればありがたい。 
  • シラカシの結実。10月中は緑だったドングリも秋となってドングリ色に変身し、季節の変化を追うようにどんどん落下します。シラカシのドングリは、食べてみると渋み=タンニンが大変多いドングリです。そのためでしょうか、長期に保存していても虫がほとんどわきません。
  • 木の下に見えている白いのがトングリトラップです。木の周りに4個設置して、位置ごとの違いや全体数を推定しています。木の樹冠の面積とトラップの面積とを用いて落下全数を推定しています。結実数には大きな年変化があり、動物による種子散布が関係しています。
 ラボワークでは、植物化石を調べることもあります。栃木県塩原で産出する葉っぱ化石を材料にしています。これまで地球には途方もない数の生命が生き、死んできました。その長く膨大な生物の営みを垣間見ることができる手がかりが、化石です。恐竜の化石をみれば誰でもその巨大さと、生命の多様性に目を見張ります。
 
生物学実験では、化石を含む岩石から、植物化石を見つけてみようという実験項目もあります。資料は、栃木県の那須塩原の博物館から送ってもらった塩原湖成層の教材「木の葉石」です。放射性年代測定によるとおよそ30万年前のものとのことです。大きな火山が爆発してできたカルデラ湖の底で、植物遺骸が泥や土砂に挟まれて出来上がりました。過去の環境が封じ込められているタイムカプセルみないなものでしょうか?
 
薄いバームクーヘンのようになった岩石をハンマーで叩いて探します。層の間に化石が入っていれば、割れやすくなります。幸運だったら、突然、葉っぱの化石が出現します。30万年の時を瞬時に越えて、皆さんの目の前に現れるのです。細かい泥と特別な化石形成条件のため、まるで今年の落ち葉のように、驚くほどの保存状態です。こうした植物化石を現代の植物と比較して、種類を同定してみようというわけです。自分で化石を見つける楽しみを味わってください。時には昆虫の化石も混じっていることがあるそうです。
  • 薄い層が水平に見事に積み重なっている間に化石が入っていることがある。この薄い層は毎年積み重なって堆積した「年縞」かもしれません。
  • 葉が挟まれていると叩いたときに割れやすくなっていて、見事な化石を発見できることもある。数十万年前の化石なので今の植物と同じ特徴を確認することができます。葉脈も見事に残されています。
 3号館中庭のケヤキ下で、植物にとっての生息環境調査を行っています。生物実験では通称HOBOと呼んでいる、気温と照度が測定できる機器(データロガー)を使って計測したものです。皆さんも冬になって日向ぼっこをすると暖かいと感じますが、このHOBOは、葉の表面環境を測定しているのです。直射日光が当たれば、この機器の温度も急激に上昇します。実際の森林ではサンスポットと呼ばれていますが、一日に短時間だけ、木漏れ陽が当たります。そのとき、葉では日光照度も強く温度も上昇しますので、この希なチャンスに一生懸命に光合成をするのです。
  • 武蔵の大ケヤキの下で微気象を測定している写真です。棒の先に付けているのが測定器で温度と光の強さを1分ごとに記録することができます。
  • 2015年10月10日から23日までの測定記録です。下段が温度変化、上段が光強度の変化です。雨や曇りの日では温度も光強度も変化があまりありません。ケヤキ下のケヤキの実生や稚樹数の分布と光強度との関係をテーマとし、ケヤキの芽生え条件を調べています。
 最後に武蔵で見かけた花と果実の写真をいくつか紹介します。皆さんも季節ごと学内散策しながら探してみてください。
  • 【ヤマボウシ】
  • 【ユリノキ】
  • 【ヤマモモ】