イタリア語学習の手引き

イタリア語を話す地域

EUの公用語にもなっているイタリア語は、公式にはイタリア本国(人口は日本の約半分で5700万人)とスイス南部(ロカルノ、ルガーノなどの都市があるティチーノ地方)で話されています。その他、旧植民地であるアフリカのソマリアでもインテリ層に好んで使われる公用語の一つになっています。しかし、実際にイタリア語が通用する地域は、実はもっと広いのです。それは多くのイタリア人たちが、世界各地に移民として渡った歴史があるからです。たとえば、アメリカ合衆国、アルゼンチン、オーストラリアの人ロに占めるイタリア系の割合はかなり高いと言われています。

最初にこれらの地域に住み着いた1世ばかりではなく、2世、3世といった子孫たちにも故国の言語や文化の伝統は継承されているようです。そのため、上記の国の一部にはイタリア語による放送や新聞、出版物が存在します。また、時代が下るとドイツや北欧などヨーロッパ各地に移民して行ったイタリア人も多いので、そうした地域でもイタリア語が通じることが多いのです。なお、ヨーロッパの中学、高校、専門学校、大学では、イタリア語が第2、第3外国語となっているところはたくさんあります。こうしてみると、イタリア語が使える地域は一般に信じられているよりも意外と多いことがわかります。

イタリア語を学ぶ意義

ローマのコロッセオ
ローマのコロッセオ
ヴェネツィアの商人マルコ・ポーロがその著『東方見聞録』のなかで日本のことを「黄金の国ジパング」と記したのは、はるか昔13世紀末のことです。16世紀後半になると、ヴァリニャーノをはじめとするイタリア人宣教師たちが日本を訪れます。そして、1582年~1590年にかけては、彼らの影響でキリシタンに帰依した九州の諸大名が天正の遣欧使節をローマに派遣し、教皇グレゴリウス13世に謁見させています。その後、明治時代になるといわゆる「お雇い外国人」として、ラグーザなど特に芸術分野で活躍したイタリア人がやってきました。このように、日本とイタリアの間には歴史的に深い関係があります。
ローマのスペイン広場
ローマのスペイン広場
その流れは脈々と今日まで続いていて、音楽、映画、ファッション、芸術、建築などさまざまな分野で、日本はイタリアの影響を受けてきました。たとえば、音楽の世界には、たくさんのイタリア語が外来語として入ってきました。オペラ(opera)、テンポ(tempo)、コンチェルト(concerto)などがそうですし、速度記号はアレグロ(allegro)、アンダンテ(andante)、アダージョ(adagio)などほとんどがイタリア語です。ファッションのブランド名の多くは例をあげるまでもなく、イタリア人デザイナーやイタリアのブティックの名前が目白押しです。
また、最近ではイタリア料理の人気が高まり、食品や食材関係の言葉が多くなりました。パスタ(pasta)、ジェラート(gelato)、カップチーノ (cappuccino)、エスプレッソ(espresso)などは、すっかり定着した感があります。スポーツでも、サッカーを意味するカルチョ (calcio)や日本でも導入されたトトカルチョ(totocalcio)、一番上級のAリーグを言うセリエA(serie A)などが知られてきました。F1で活躍している自動車メーカーであるフェッラーリ(Ferrari)の名前も有名です。

イタリア語を学ぶ動機は、かつては音楽、芸術、建築等に限定されていましたが、最近ではそれらのほか、料理、スポーツ、ファッション、工芸、観光などとても幅広い分野にわたっています。また、世界遺産の8割を有し、美味しい料理が味わえ、人々が陽気なイタリアは旅行先としていつも安定した人気があり、旅行を契機に言葉の勉強を始める人も増えました。すぐれたデザインやファッションの発信地であるイタリアと日本とのビジネス交流も増えています。また、食品関係、旅行業界、文化交流などの分野においても、イタリア語が堪能な人は求められているのです。

イタリア語ってどんな言葉?

イタリア語はよくラテン系の言語と言われますが、正確に言うとロマンス系諸語の一つです。文字通り古代ローマの言葉であったラテン語を母胎として生まれた言語で、同系統の言葉としてはフランス語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語があります。なかでもスペイン語とは一番近い縁戚関係にあります。いくつか例をあげてみましょう。
libro
casa
fiore
rosso
buono
西
libro
casa
fior
rojo
bueno
赤い
良い
「本」、「家」は綴りはまったく同じで、発音もほぼ同じです。「花」は綴りが少し違っていますが、よく似ています。名詞ばかりではなく、最後にあげた二つの形容詞の例でも、綴り、音ともに大変よく似ていますね。単語レベルだけではなく、もう少しまとまったフレーズになっても、両者の違いはそう大きなものではありません。
Un caffè, per favore!
Come si chiama?
Mi chiamo Yoko.
西
Un café, por favor!
¿Cómo se llama?
Me llamo Yoko.
コーヒーをください!
あなたのお名前は?
洋子と言います。
ご覧のように、英語のaに相当する冠詞のunは同じです。また2番目の例の文頭に置かれているのは「どのように」を意味する疑問詞ですが、comeとcómoのようによく似たものです。語順も上にあげたすべての例で同じになっています。

スペイン語に限らず、上にあげたロマンス系諸語は基本的には文法構造も似通っています。英語と比べると文法はより複雑です。それは、名詞、冠詞、形容詞に男性、女性の区別があったり、動詞の時制が多く、人称変化が複雑なためです。これはドイツ語をはじめとするゲルマン系の言語も含め、西ヨーロッパの言語の一般的特徴といえます。一方、イタリア語の発音は日本人にとっては親しみやすく、比較的やさしいのです。それは、両者の音韻体系が似たような母音を中心に構成されているためで、このことは学習に際して大きな利点になっています。それでは、イタリア語のアルファベットの読み方を見てみましょう。

アルファベットの読み方

A
[
]

B
[
]

C
[
]

D
[
ディ]

E*
[
]

F
[
エッフェ]

G
[
]

H
[
アッカ]

I
[
]

L
[
エッレ]

M
[
エンメ]

N
[
エンネ]

O
[
]

P
[
]

Q
[
]

R
[
エッレ]

S
[
エッセ]

T
[
ティ]

U
[
]

V
[
]

Z
[
ゼータ]

 

J*
[
イルンゴ]

K*
[
カッパ]

W*
[
ドッピオヴ]

X*
[
イクス]

Y*
[
イプスィロン]


上記の21文字が通常使用する文字です(英語より少ない!)。*の5文字は、発音もちょっと変わっていますが、一部の固有名詞や古語にしか使われません。

日常表現

次に、挨拶などの日常的な表現をほんの少し紹介しておきましょう。発音は、基本的には「ローマ字読み」で大丈夫ですが、いくつか例外もあります。
Buongiorno.
(ブォンジョルノ)
「おはよう」、「こんにちは」
Buonasera.
(ブォナセーラ)
「こんばんは」
Ciao.
(チャオ)
「やあ」、「じゃあね」、「バイバイ」
Grazie.
(グラッツィエ)
「ありがとう」
Arrivederci.
(アッリヴェデルチ)
「さようなら」

辞書と参考書目

辞書

  • 『伊和中辞典・第2版』池田他編(小学館)
    • 重用語には英語訳も付き、用例も多く、初心者にも使いやすい定番の辞書。
  • 『和伊中辞典』西川編(小学館) 上の伊和辞典の姉妹版。
上記2点の辞書については、最近「電子辞書」(両方所収)も出ました。
また、これらのほかにいわゆる小型版の辞書もいくつか出版されています。

参考書目

イタリアを知るための本としては、次のものがよくまとまっています。
  • 『イタリアを知るための55章』村上義和著(明石書店)

検定試験

ヴェネツィアのサンマルコ寺院
ヴェネツィアのサンマルコ寺院
実用イタリア語検定試験1~5級(イタリア語検定協会)

そのほかに、イタリア政府が世界各地で実施している検定試験(レベル4~1)がありますが、こちらは内容的にかなりむずかしくなっています。日本では、イタリア文化会館で受験できます。
武蔵大学外国語学習褒賞・勧奨が適用されます。