中国語学習の手引き

「中国」とは、どんな国?

日本の隣国の中国では、歴史上、さまざまな王朝が興亡しました。
現在の正式な名称は、「中華人民共和国」です。1949年10月1日に建国されました(ちなみに中国では、この日は国慶節と呼ばれています)。
 
面積は、およそ960万平方キロメートルで、ロシア、カナダに次いで世界第3位、日本の約26倍です。約13億人に上る人口を数え、こちらはもちろん世界第1位です。政治的には社会主義体制を採用し、行政区分としては22の省(台湾を除く)、5つの自治区、首都の北京のほか、上海、天津、重慶の4直轄市、香港とマカオの2特別行政区から成り立っています。人口の9割強を占める漢民族(中国では漢族という)をはじめ、55の少数民族からなる多民族国家です。主要言語は中国語で、通貨の単位は元(人民元:1元はおよそ14円)といいます。

「中国語」とは、どんな言葉?

「中国語」とは、どんな言葉?
世界でもっとも広い範囲で使用されている言語は、いうまでもなく英語でしょう。しかし、世界の人口の5人に1人は、実は「中国人」なのです。中国語は、世界の言語のなかで、まぎれもなく最大の使用人口を誇る言葉です。
 
我々が学ぶ「中国語」は、中国では普通、「汉語(漢語)」Hànyŭと呼ばれています。これは、多民族国家の中国のなかでも、元来は、漢民族の言語という意味です。しかし、この「中国語」=「漢語」自体が、一般に7大方言区域に分けられるほど、差異が大きく、多様な方言が存在します。専門的には別の呼び名がありますが、俗に上海語、福建語、広東語、客家語などと呼ばれているものがそれです。そのため、日本の標準語に当たる共通の言葉が、どうしても必要になります。そこで、北京の言葉をもとに作り出されたのが、これから皆さんが学ぶ「普通話」pŭtōnghuàと呼ばれる共通語で、全国的に広く通じるものです(普通話は、元来、清朝の時代に北京の官僚たちが話していた北京官話と呼ばれる言葉にもとづいて作られたといわれています。台湾では、普通、北京語(国語)と呼ばれ、やはり学校教育で広く学習されています)。
 
中国語は、言語学的には孤立語と呼ばれ、原則として漢字の1字=1音節ごとに特定の意味を持ち、それらが一定の語順で組み合わされることで文章が成り立ちます。それは、日本語とも、欧米の言語とも、大きく異なっています。たとえば、英語やドイツ語、フランス語のような活用や格変化、日本語の助詞や助動詞のようなものは存在しません。また、後にくわしく述べますが、「声調」といって、音声の上がり下がりの違いによって意味が異なるなど、発音が複雑なことでも知られています。

中国語を学ぶ意義

先にも述べたように、世界の人口の5人に1人は「中国人」です。「中国語」は、世界最大の使用人口を有する言語です。中華人民共和国のみならず、台湾の人々や海外の多くの在外華人(いわゆる華僑)によっても話されています(方言を含む)。この事実だけでも、中国語を学ぶ意義は、実に大きいといえましょう。
 
さらに現在、中国は、社会主義体制を堅持しながら、社会主義市場経済、改革・開放などと呼ばれる政策のもと、驚異的な経済発展を遂げています。アジアの政治大国であるばかりでなく、世界の工場とも称される中国は、もはや経済的にも無視できない存在です。日本との経済的・社会的・人的な交流も、日増しに増大しています。今後、世界に雄飛される若い皆さんが、実際に中国語を運用する機会は、いやが上にも多くなると考えられます。
 
また、歴史的に見て、日本と中国とは、とりわけ深い関係にあります。先にも述べたように、もともと日本語と中国語は異質な言語ですが、我々は、漢字というメディアを共有しています。日本や韓国・朝鮮などが、ときに「中国文化圏」「漢字文化圏」などと呼ばれるように、文化的にも我が国は中国から多大な恩恵をこうむってきました。日本の歴史や文化を考える上でも、中国語の知識は大いに役立つことでしょう。 加えて、世界の多元化、多様化の趨勢のなかで、英語などの欧米の言語のほかに、アジアの言語を学ぶことの意義も少なくありません。隣人との真のパートナーシップを築くためにも、言葉を学ぶことは最良の方法といえましょう。

「発音と簡体字—声調と拼音(ピンイン)」

中国語の学習の第1段階は、正しい発音をマスターすることから始まります。

日本人の初学者は、あながち漢字が読めてしまうために、ときとしてこの点をおざなりにしがちです。そのため、発音の習得がつまずきの石になってしまうケースさえ見られます。現在の中国では、漢字も「簡体字」jiăntǐzíと呼ばれる簡略化された字体が用いられ、字形は同じでも日本の漢字とは意味が異なるものが少なくありません。当たりまえのようですが、純然たる「外国語」として、「耳」と「声」を大いに活用しつつ、「聞く・話す・読む・書く」のバランスの取れた学習を心がけてください。
声調(四声)
中国語の発音で、まず最初に学ぶのは「4声」と呼ばれる「声調」です。声調とは、音声の上がり下がりの調子のことです。中国語は、一つの文字(音節)は、原則として一定の声調で発音されます。普通話では、4つの声調があることから、これが4声と呼ばれます。4声の違いによって、同じ発音でも意味が異なるので、十分な注意が必要です。

さらに、それぞれの漢字の読み方を示す、中国式のローマ字の「拼音(ピンイン)」pīnyīn(拼音字母)の読み方を覚える必要があります。これは、英語の発音記号に相当するものですが、あくまでも中国式のローマ字ですから、日本語のローマ字のつもりで読んではなりません。日本語にはないむずかしい発音もありますが、音楽の勉強のようなつもりで、根気よく練習してください。拼音(ピンイン)が正しく発音できるようになったら、中国語の単語を覚える際には、漢字(簡体字)と一緒に、英語のスペルを暗記したように、この拼音(ピンイン)をセットで記憶するように心がけてください。
単母音
さて、日本語には、アイウエオ(aiueo)の5つの母音しか、存在しません。
 
御存知のように、これと子音との組み合わせで、五十音が成り立っています。これに比べると、中国語の発音は、はるかに複雑です。まず母音には、基本となる「単母音」が7種類ありますが、口の開け方をはじめ、発音は日本語とはだいぶ異なります。さらにこれらを組み合わせた「複母音(複合母音)」と呼ばれるものもいくつか存在します。子音の発音も、日本語とは大いに異なっています。表にもあるように、無気音と有気音の区別、そり舌音(捲舌音)と呼ばれるものなど、マスターしなければならない事項が多々あります。
 
このように、中国語は、ある意味で、非常に音楽的な言語です。そうしたことを指摘した西欧の学者もいます。最初は、少し発音でつまずいても、聞いているうちに、その独特の響きに魅了される人も少なくありません。文法の構造的な理解ももちろん重要ですが、要は「頭」だけではなく、「身体」全体を駆使して習得するのが、中国語ばかりではなく、外国語学習の基本です。

中国語辞典

初級・中級用としては、以下のような中国語辞典、中日辞典があります。

  • 『はじめての中国語学習辞典』(朝日出版社)
  • 『プログレッシブ中国語辞典』(小学館)
  • 『デイリーコンサイス中日辞典』(三省堂)
  • 『クラウン中日辞典』(三省堂)
  • 『標準中国語辞典』(白帝社)
  • 『岩波中国語辞典』(岩波書店)

さらに進んで勉強する場合には、以下のような辞典を備えると便利でしょう。

  • 『中日辞典』(講談社)
  • 『中日辞典』(小学館)
  • 『白水社中国語辞典』(白水社)
  • 『現代中国語辞典』(光生館)
  • 『東方中国語辞典』(東方書店)
  • 『中日大辞典』(大修館書店)
より上級者の場合は、中国語のニュアンスの習得や作文用として、各社で公刊されている日中辞典(岩波書店、講談社、小学館など)のほか、『新華字典』のような漢字字書、『現代漢語詞典』(ともに商務印書館)のような中国発行の辞典なども大いに活用してみてください。

なお、現代中国の情況全般を知るためには、曽子才・西澤治彦・瀬川昌久編 『アジア読本・中国』(河出書房新社)、野村浩一・高橋満・辻康吾編 『もっと知りたい中国』I・II(弘文堂)、橋本萬太郎編 『漢民族と中国社会』(山川出版社)などが参考になります。

主な検定試験・留学制度

  • 実用中国語技能検定試験
    • 財団法人アジア国際交流奨学財団、文部科学省認可(1~5級)
  • HSK・漢語水平考試
    • 北京語言文化学院が、中国語を母語としない外国人学生などの中国語運用能力を測る目的で作成したものですが、日本の文科省に当たる国家教育委員会からも認可され、日本でも受験できます。中国の四年制大学(本科)に留学する際に必要で、英語圏のTOEFL®に相当すると考えてよいでしょう。
  • 華語文能力試験
    • 台湾の華語文能力測験推動工作委員会が行っている漢語の検定試験で、1~4級とあり、台湾のほか日本でも受験できます。英語名TOCFL。台湾の大学で語学研修を受けた学生や、台湾留学を考えている学生にお勧めです。
■実用中国語技能検定試験/HSK・漢語水平考試/華語文能力試験は、合格級によって武蔵大学外国語学習褒賞・勧奨が適用されます。

短期・長期留学

武蔵大学では、2006年度より中国・西安外国語大学との間で協定留学制度が締結され、一年間の交換留学のほか、春季休暇中に行われる短期の語学研修制度が運営されています。また2013年度より、台湾・国立政治大学との間でも協定留学制度が締結され、一年間の交換留学のほか、夏期休暇中に行われる短期の語学研修制度がスタートします。留学先も中国、台湾、期間も長期、短期と選べますので、こうした制度を活用して留学にチャレンジするのもいいでしょう。