2025年度の活動報告
踊 共二(研究会代表)
活動の実績
〈例会〉
2025年6月20日(金)16時より第11回例会「キリスト教と東アジア:日欧の宗教と文化の相克・融合」が開催された。参加者は22名であった。Ahran Ellie Bae 氏 (武蔵大学専任講師)による“Pro-Japanese” Women in Korea under Japanese Rule: A Reassessment of Helen Kim's Activities(日本統治下の朝鮮における「親日派」女性:ヘレン・キムの活動の再検討)と題する発表が行われた。Bae氏は今日にも続く「親日派問題」について触れた後、朝鮮総督府の支配下にあった朝鮮において、高度な学歴をもち梨花大学の校長もつとめた女性教育の先駆者ヘレン・キムの活動に注目し、当時多くの朝鮮女性たちが日本による植民地的抑圧だけでなく朝鮮男性による社会的抑圧を受けていたことを指摘した。ヘレン・キムが「親日派」として朝鮮総督府に協力的であったと非難されたことについては、彼女が日本への抵抗運動よりも女性教育の推進を優先していたことがその背景であるとの見解を述べた。ヘレン・キムは朝鮮社会における女性の地位向上に挑み、日本人および朝鮮人男性の家父長制的な抑圧の伝統や慣習と闘う道を選択したのだと結論づけた。コメンテーターの松谷基和氏(東北学院大学教授)は、韓国キリスト教史研究の視点から、ヘレン・キムの活動には当時ほぼすべての女性指導者に共通する面があると述べ、彼女ならではの特徴があるのか、メソジストとしての立場、また家庭内での地位はどのようなものだったかを明らかにする必要もあると指摘した。同じくコメンテーターの岡安儀之氏(東北大学史料館公文書室学術研究員)は、日本留学研究の視点から、東北大学におけるヘレン・キムと同時代の女子留学生の存在をあげ、ほとんどが梨花大学出身であると指摘した。
2025年9月13日(土)16時より第12回例会「知と技術の交流と融合:アジア世界で起きたこと」が開催された。参加者は31名であった。ファシリテーターの李東宣氏(東京都立大学准教授)による報告者・コメンテーターの紹介の後、Ross Moncrieff 氏(オックスフォード大学歴史学部・オールソウルズカレッジフェロー)による“The reception of Confucianism in eighteenth-century Britain”(18世紀イギリスにおける儒教思想の受容)の発表が行われた。Moncrieff 氏は、18世紀ブリテンにおける儒教受容を分析し、孔子が理性によって真理に到達した存在として複数の類型的解釈のもとに理解されていたことを指摘した。その際、こうした理解はイエズス会士を媒介とした明末中国の知的文脈に根差しており、単なる幻想ではなかったと述べた。そしてブリテンでは儒教が一貫して「自然理性の象徴」として肯定的に評価され、フランス啓蒙のように進歩の観点から否定されることはなかったと結論づけた。コメンテーターの新井洋子氏(大東文化大学准教授)は、Moncrieff 氏の報告に関連してイエズス会士による中国思想の翻訳・伝達が道統論や歴史編纂、程朱学といった中国内部の知的枠組みに依拠しており、『資治通鑑』や朱子学的解釈を利用して聖書の父祖の系譜と中国史を結びつけるなど、欧州での儒教理解の枠組みを形作ったことを指摘した。さらに明清期における孔子祭祀の宗教化や偶像崇拝をめぐる議論が18世紀ヨーロッパにおける儒教理解に直接的な影響を与えたことを強調した。もう一人のコメンテーター、上村剛氏(関西学院大学准教授)は、近年流行している西洋中心的な「グローバルヒストリー」の問題点と限界について指摘した上で、東洋から西洋への知識伝播を扱う本報告の意義を論じた。この前提のもと、はたして儒教思想がブリテン啓蒙思想の中核にどれだけ影響を与えたのか、また儒教思想が当時どのような経路でブリテンに広まったのかという論点を提示し、東西文化交流の実態に迫る議論を展開した。
2025年11月28日(金)16時より第13回例会「戦争と平和の東西+キリスト教と東アジア」が開催された。参加者は19名であった。片野淳彦氏(酪農学園大学・札幌大学等講師/日本メノナイト福住センター)による「修復的正義のキリスト教的起源:理論と実践」の発表が行われた。片野氏は16世紀の宗教改革期に誕生した再洗礼派とその系譜にあるメノナイトの歴史的背景を概説し、彼らが一貫して掲げてきた「非暴力」「和解」「共同体性」という価値観を確認した。続いてクリス・マーシャルが強調する「神の正義とは、罰の応報ではなく傷ついた関係を癒し共同体を回復へ導く力である」という視点を紹介し、さらにハワード・ゼアの修復的正義の理論、すなわち被害者と加害者の間に生じた損なわれた関係を対話と責任の履行によって修復するという考え方をとりあげ、その思想的基盤に関する整理を行った。そして現代の刑事司法制度と比較することで、メノナイトが提唱してきた「修復的正義」概念の核心とその実践的意義を明確にした。コメンテーターの踊共二氏は1957年にアメリカのオハイオ州で起きたアーミッシュ農夫ポール・コブレンツ殺害事件をとりあげ、アーミッシュの共同体が加害者の死刑中止を嘆願し、遺族自身も加害者に赦しの言葉を伝えるなど、徹底した「ゆるし」と和解の実践を行った事例を紹介した。またこの赦しの姿勢が加害者の更生につながり、結果として「修復的正義」の成功例となったことを示した。
〈成果公表〉
2025年度は踊共二の訳書、S・ノルト著『アーミッシュ全史:宗教改革時代から現代まで』(明石書店);片野淳彦の共著書(清末愛砂編)『北海道をひらく平和学』(法律文化社);皆川卓「“棲み分ける”領邦と神聖ローマ帝国:「宗派化」の国制史的意義について」『エクフラシス:ヨーロッパ文化研究』15号(2025年);岡安儀之「東北大学と留学生」『東北大学史料館研究報告』20号(2025年);李東宣 The Significance of the 1650s in English Religious History: Religion and Morality during the Interregnum, in The East Asian Journal of British History, no.9 (2025);根占献一「フィチーノ、プロティノス、プラトン」『京都大学学術出版会月報』17号(2026年)、踊共二「Religionはどうして宗教になったか—明治初期日欧関係史の視点から」『武蔵大学リベラルアーツ&サイエンス学会雑誌』3号(2026年)など。
2025年度は踊共二の訳書、S・ノルト著『アーミッシュ全史:宗教改革時代から現代まで』(明石書店);片野淳彦の共著書(清末愛砂編)『北海道をひらく平和学』(法律文化社);皆川卓「“棲み分ける”領邦と神聖ローマ帝国:「宗派化」の国制史的意義について」『エクフラシス:ヨーロッパ文化研究』15号(2025年);岡安儀之「東北大学と留学生」『東北大学史料館研究報告』20号(2025年);李東宣 The Significance of the 1650s in English Religious History: Religion and Morality during the Interregnum, in The East Asian Journal of British History, no.9 (2025);根占献一「フィチーノ、プロティノス、プラトン」『京都大学学術出版会月報』17号(2026年)、踊共二「Religionはどうして宗教になったか—明治初期日欧関係史の視点から」『武蔵大学リベラルアーツ&サイエンス学会雑誌』3号(2026年)など。
〈出版事業〉
教育評論社から出版する『動く人形から考えるロボットへ』の原稿・図表等を整理し、2026年中の出版を確実なものにした。この出版物は本研究会が取り組んでいたテーマのひとつ「東西の人造人間:古代神話から先端のロボット工学まで」に基づいており、人文科学と人工知能学・機械工学を架橋する文理融合型のものである。そのため執筆者にはオートマタ段階の動く人形・時計・オルゴールに詳しい専門家や人工知能学者、現場のロボット開発者を加えている。
教育評論社から出版する『動く人形から考えるロボットへ』の原稿・図表等を整理し、2026年中の出版を確実なものにした。この出版物は本研究会が取り組んでいたテーマのひとつ「東西の人造人間:古代神話から先端のロボット工学まで」に基づいており、人文科学と人工知能学・機械工学を架橋する文理融合型のものである。そのため執筆者にはオートマタ段階の動く人形・時計・オルゴールに詳しい専門家や人工知能学者、現場のロボット開発者を加えている。
〈その他〉
会員による資料の購入および研究出張を実施した。それらはすべて上記の研究と関連するものである。なお11月の研究出張は「戦争と平和の東西」のテーマに沿ったものであり、非暴力主義・平和主義を信条とするメノナイトの共同体(農場を含む)の調査を札幌市と長沼町で行った。長沼町の農場の経営者(アメリカ人)の祖先はポーランド、ウクライナを経由してカナダに渡ったドイツ系移民であり、聞き取りによってその家族史に触れることができた。3月末の研究出張は「キリスト教と東アジア」のテーマに沿ったものであり、豊後竹田市のキリシタン資料および史跡(キリシタンの文化と習合した摩崖仏など)を調査する目的で行われ、同市のキリシタン資料館の館長および竹田市長との懇談も行われて新たな研究交流の展望が開けた。
会員による資料の購入および研究出張を実施した。それらはすべて上記の研究と関連するものである。なお11月の研究出張は「戦争と平和の東西」のテーマに沿ったものであり、非暴力主義・平和主義を信条とするメノナイトの共同体(農場を含む)の調査を札幌市と長沼町で行った。長沼町の農場の経営者(アメリカ人)の祖先はポーランド、ウクライナを経由してカナダに渡ったドイツ系移民であり、聞き取りによってその家族史に触れることができた。3月末の研究出張は「キリスト教と東アジア」のテーマに沿ったものであり、豊後竹田市のキリシタン資料および史跡(キリシタンの文化と習合した摩崖仏など)を調査する目的で行われ、同市のキリシタン資料館の館長および竹田市長との懇談も行われて新たな研究交流の展望が開けた。
今後の展開
2026年度は4月上旬に総会を行い、共通テーマ「知と技術の交流と融合:アジア世界で起きたこと」「キリスト教と東アジア」「戦争と平和の東西」に沿って以下の例会を開催する予定である。すなわち2026年4月25日(土)15時から「近世のグローバリゼーションと奴隷制の東西:ものいう家畜か技能者か」(第14回例会)、同年9月25日(金)16時から「日露間の人的交流と広瀬武夫:世紀転換期の国際ネットワーク」(第15回例会)、同年11月20日(金)16時からアメリカから招くゲスト講師による「ペンシルヴァニア・ジャーマンの世界:寛容と多様性の原風景(仮題)」(第16回例会)である。なお11月21日に外部の会場で第16回のゲスト講師によるフォーラム「メノナイトとアーミッシュの戦争体験:非暴力主義者の試練」(仮題)も計画する。例年と同じく、それぞれの例会の前にホームページで詳細を公表し、オンライン参加の申し込みができるようにする。そのほか2026年3月にも追加の例会(第17回)を行う見込みである。これについては「東西の人造人間」の枠組みで「からくり時計」「オルゴール」「オートマタ」に関連するものを検討している。加えて、新たな共通テーマにしたい「庭園・緑・自然環境の東西」に関連する調査を予定している。
なお会員による研究出張は欧米・東アジアを見込んでいる。研究成果の公表については書籍の出版に加え、『武蔵大学総合研究所紀要』に本会の会員による論文等を掲載する予定である。なお『動く人形から考えるロボットへ』(仮題)の出版後には別の共通テーマに沿った新たな出版計画をたてる。