2022年度の活動報告

 踊 共二(研究会代表)

2022年度の活動実績の概略

 2022年6月25日(土)に研究会総会・準備会をオンラインで開催した。参加者は11名であったが、委任状提出者(事前に送付された資料について賛意を表し、議事を議長に一任した者)12名を加えて23名で総会は成立した(設立時の会員数は23名である)。総会の冒頭、議長(司会進行役)の選出および書記(RA)の指名が行われ、続いて本会設立の趣旨説明、規約の制定、代表の選出と代表代行の指名、2022年度の活動計画の審議、予算執行に関する説明、設立申請文書の紹介(新規入会の呼びかけを含む)が行われ、最後に研究会メンバーの自己紹介の時間がとられた。
2022年9月23日(祝・金)14時より第1回例会「キリスト教と東アジア:日欧の信仰と文化の相克・融合」が開催された。参加者は35名であった。はじめに本研究会代表・踊共二氏(武蔵大学教授)による新入会員の紹介が行われ、その後神田千里氏(東洋大学名誉教授)による「16世紀日本人のキリスト教受容」、根占献一氏(学習院女子大学名誉教授)による「霊魂不滅:東西の歴史的邂逅から」の発表が行われた。近世とりわけ16世紀の日本人はヨーロッパから伝来したキリスト教(カトリシズム)とどのように向き合い、内面的な変化を遂げたのか、あるいは古い思想や信仰を保ったのかを具体例に即して考察し、日本の地で起きた東西思想の相克と融合の歴史の一端を明らかにした。神田氏は16世紀日本の民衆宗教を基盤としたキリスト教信仰の受容について、根占氏は仏教が明確な立場をとっていなかった「霊魂不滅」の西洋思想(キリスト教と新プラトン主義による再解釈)の影響力について報告し、その後活発な質疑応答がなされた。
2022年12月10日(土)10時より公開研究会(第2回例会)「東西の人造人間:古代神話から先端のロボット工学まで」がオンラインで開催された。参加者は24名であった。踊共二氏(武蔵大学教授)による「ロボットの東西:機械仕掛けの召使いか人間の共生者か」、西村恵子氏(上智大学・武蔵大学講師)による「現代日本のAI・ロボットと倫理:大衆文化と社会的責任」の発表が行われ、パトリック・シュウェマー氏(武蔵大学准教授)がコメントを行った。人工知能と人間の関係を人文・社会科学の立場から、東西文化の融合ないし相克の視点でAI・ロボットの「現在地」について検討を行った。踊共二氏(武蔵大学教授)は東西におけるロボット(自動機械)と人間の関係の歴史、主に宗教とジェンダーの問題について論じ、古代から未来へと続く人間の機械化・ロボットの人間化の問題に関する展望を行った。西村恵子氏(上智大学・武蔵大学講師)は大衆文化におけるロボットの表象とロボット・AI の倫理と社会的責任について論じ、ロボットは人間に「社会的他者」として知覚されること、人間社会の世界観・価値観・法律・倫理がそこには影響を及ぼしていることを論証した。パトリック・シュウェマー氏(武蔵大学准教授)は古今東西における科学技術の変容、またAIが格差や差別を助長する可能性について述べ、AIの浸透した社会においてもどのような共同体が築かれるのかは結局のところ人間次第であるとコメントした。その後活発な質疑応答がなされた。 
 2023年3月7日(水)から10日(金)には本研究会の調査研究の成果を盛り込んだ武蔵大学第75回公開講座「ロボットと人間:交錯する東西文化 —機械に「心」は宿るか—」が対面形式で行われた。本研究会メンバーの踊共二氏(武蔵大学教授)と小山ブリジット氏(武蔵大学名誉教授)が登壇した。第1回(3月7日・火)は踊共二氏(武蔵大学教授)による講演「古代ギリシア神話から最先端のロボティクスまで:召使いか共生者か」、第2回(3月8日・水)は小山ブリジット氏(武蔵大学名誉教授)による講演「ヨーロッパのオートマタと日本のからくり人形:自動人形は何を思う?」と九代玉屋庄兵衛〈からくり人形師〉による実演とトーク、第3回(3月9日・木)にはりんたろう氏(アニメ監督・京都精華大学マンガ学部客員教授)による「1秒間24コマの我が人生:鉄腕アトムからメトロポリスまで」、第4回(3月10日・金)には松原仁氏(東京大学次世代人工知能研究所教授)による講演「“人間化”するロボットたち:汎用AIは実現するか」が行われた。日本と欧米諸国における歴史、美術、人文、工学などの多角的な視点から「ロボット」「機械」「AI」がどのように進化してきたのか、将来いかなる事態が起きるのか、ロボットはかつて依り代としてのヒトガタがそうであったように心(魂)を宿すと考えるべきか、そして人間と同じ社会的存在とみなして共生する道を選ぶべきなのか、それぞれの講演者が持論を展開した。その過程で人間の「心」とは何か、同じような「心」が誰にでも「ある」と本当に考えてよいのか、科学的根拠はないという議論もなされた。なおこの公開講座は170名以上の参加者を得た。初回の講演はJ:comの取材と同ケーブル局によるニュース放送の対象となった。
 2023年3月27日(祝・月)の16時より第3回例会「近世ヨーロッパの日本人像:描かれたアジア人」がオンラインで開催された。参加者26名が集った。はじめに本研究会代表踊共二氏(武蔵大学教授)による新入会員の紹介が行われ、その後小林紫乃氏(武蔵大学総合研究機構専門研究員)による「近世イタリア絵画に描かれた日本人」の発表が行われた。小林氏は、鎖国(1639-1854)ゆえに日本に関する情報が少ないなかイタリアでは日本人についてどのようなイメージが抱かれていたのか、17・18世紀の図像史料(美術作品等)や文献をもとに考察を行った。東アジア人というより西アジア人(アラビア人)に似た風貌(ターバンを巻いた姿もある)、洋装の白人の風貌で描かれた作品が多い一方、黒人にも見える描写や東アジア的特徴を備えた和装の武士を描いた絵画もあるとの報告がなされた。結論として示されたのは、近代的人種論、「黄色」人種論の出現以前に多様な日本人イメージがあったことである。伊川健二氏(早稲田大学教授)によるコメントでは、アジア・日本に関するイメージや作品そのものは絵を描いた画家自身の環境、描かれた場所や状況に依存するとの指摘がなされた。また記録者によって差異の大きい近世の諸情報の整理・体系化は難しいので研究を深めるには対象の絞り込みが必要であるとの助言がなされた。その後、質疑応答がなされた。
※例会の予告は武蔵大学ホームページにニュース記事として配信され、広報部によるプレスリリースも行われた。