2019.07.26

Category:メディア社会学科

メディア社会学科 教授 中橋 雄

雑誌記事を制作して学べることは何か?

ナカハシゼミの3年生は、4月に「人物を紹介した雑誌記事(自分で自分を取材して記事にします)」を制作する実習をします。雑誌記事を作るといっても、出版社に就職するためのスキルを身につけることが目的ではありません。何のために雑誌記事を制作する学習活動を行うと思いますか?写真や文章による表現力を高めるためでしょうか?それとも、コンピュータでデザイン・レイアウトができるようになるためでしょうか?たしかにそうした能力は身につきますし、その後も役立つとは考えられます。しかし、この活動の主たる目的は別のところにあります。

学生が行う具体的な作業なのですが、まずはじめにプロが作った人物紹介の雑誌記事を自分で探し、ゼミの時間にもってきます。次に、その雑誌記事をスキャナという機器を使ってコンピュータに画像ファイルとして取り込みます。そして、Adobe Illustratorというソフトを使い、取り込んだ画像を下絵にして雑誌記事のデザインを模倣します。見出し、リード文、本文の文字の大きさや書体、文字数、行間や文字の間隔まで1ミリもずれないようにピッタリとあわせます。ただし、模倣するのはデザインのみです。記事の内容は、自分が取材を受けて雑誌に掲載されるという設定で、自分に関することを書き込みます。写真も本物に近づけるように、服装、ポーズ、表情、ライティングなどを真似します。完成したらカラーでプリントアウトします。また、下絵として取り込んだ雑誌記事も同じようにプリントアウトします。


【写真 コンピュータでレイアウト】

ここからが重要です。本物と模倣した雑誌記事をよく見比べます。そうすると完璧に真似したつもりでも、再現できていないところや印象が異なるところが見つかります。その上で、次のような問について考えていきます。なぜ、プロの文章は、このような内容をインタビューして掲載したのか。なぜ、このような語り口にしたのか。なぜ、この写真をこの大きさで配置したのか。なぜこのようなライティングや構図の写真を配置したのか。イラストなどの配置や配色の意図や目的はどのようなところにあるのか。写真や文章の配置について、どこを揃え、どこを揃えていないのか、なぜここには空白があるのか。そして、もしそうでなければ、どういう印象を与えることになると考えられるのか。


【写真 左が本物の雑誌で右が学生の作品】

雑誌は、例えば、「20代の男性向けのファッション誌」というように読者層を絞り込んで、雑誌の内容を企画しています。想定した読者が興味をもちそうな特集のテーマ、言葉遣いや色使いなどを選んでいます。メディアは、送り手の意図によって構成されているのです。しかも、送り手が好き勝手に表現しているのではなく、相手意識、目的意識があります。人を楽しませ、雑誌が売れるにはどうしたらよいか、商業的な意図があることもわかります。


【雑誌について話し合っているゼミの場面】

さて、この学習活動を通じて、学生は何を学ぶことができたか、おわかりいただけたでしょうか。そうです、学生は「メディアとは何か?」ということについて考え、その特性について学ぶことができました。メディアは、社会的・文化的・政治的・経済的な影響のもとで、構成され、メディアによって私達の現実の認識は作りあげられていきます。ただ雑誌を読んでいるだけでは気づくことのできないメディアの特性について、送り手の思考を追体験することによって様々な発見ができるのです。このような、「メディアとは何か?」というものの見方・考え方は、その後に取り組むことになる卒業研究を行う上で活かされるため、ナカハシゼミでは、例年この実践を行っています。

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