社会学部ゼミブログ

2023.06.09

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  • メディア社会学科

お金という「メディア」からみえてくるもの

ブログ投稿者:メディア社会学科 准教授 宇田川 敦史

社会学部では3年生になると「専門ゼミ」に配属されます。私のゼミでは「デジタル社会のメディア・デザインとメディア・リテラシー」というテーマで、社会におけるさまざまな問題を「メディア」というレンズをとおしてとらえなおし、解決のためのデザインを「自調自考」できる素養を養うことを目指しています。
専門ゼミでは、卒業論文に向けたさまざまな調査・実習や、文献購読などを通じた発表や議論によって社会学的な知の素養を身につけていきますが、そのような学修だけでなく、実社会でさまざまな組織や企業がどのような活動を実践しているか、その現場の知を体感することも重視しています。
というのも、3年生はまさに就職活動に向けて、自身が将来社会とどのような接点をもち、どのような貢献をするのか、具体的に考えなければならない時期。しかし多くの場合、学生にとって企業での活動はあいまいなイメージでしかなく、それぞれの職種の日々の現場がどのようなものなのか、具体的なことを知る機会は極めて限られています。
そのような機会のひとつとして、先日縁あって保険会社の第一生命保険(株)からライフプロフェッショナル職の方々にご来校いただき、「金融リテラシー」をテーマとしたゲーム教材を用いたワークショップを実施しました。
 
企業ゲストによるレクチャー
実社会で働いているプロフェッショナルの方々のファシリテーションで、「ライフサイクルゲーム」という人生の「お金」にまつわるイベントを擬似体験し、貯蓄や保険、年金やローン、投資商品などの金融商品全般について、基礎的な「リテラシー」を身につけることができます。この「ライフサイクルゲーム」は高校生や大学生でも十分楽しめるようにデザインされており、学生たちは普段とはちがった刺激を受け楽しんで学ぶことができたようです。
教材となったライフサイクルゲーム
専門ゼミで企業の方に協力いただいてこのような「ゲーム」を取り入れた理由は2つあります。
まず1つは、実社会のプロフェッショナルの方々との接点をもつことで、漠然とした「業種」や「職種」に対するイメージを、具体的な現場感覚に変換することです。今回のワークショップでは、単に用意した「ゲーム」を楽しんで終わりではなく、「ゲーム」での体験を契機に、社会の中での金融業界や保険業がどのような活動によってどのような価値を提供しているのか、現場で働く方々は日々どのようなことにやりがいを感じているのかなど、直接お話を伺い議論することで学生たちは多くの示唆をえていました。
もう1つは、「メディア」というレンズで実社会のことを考え、行動するための訓練です。メディア社会学が対象とする「メディア」は、単にテレビや新聞などの「マスメディア」だけを指す概念ではありません。社会におけるコミュニケーションを媒介する中間にある事物とその仕組みは、すべて「メディア」とよぶことができますし、卒業論文のテーマにもなりえます。そのように考えると当然「ゲーム」もデザインされた「メディア」ですし、今回のテーマである「お金(貨幣)」も「メディア」の一種といえるのです。「お金」はそれ自体が「コンテンツ」にはなりえませんが、「コンテンツ」を交換するための媒介となる事物であり、仕組みであるからです。
 
ライフサイクルゲームに取り組む様子
ワークショップを終えた学生たちからは、「お金がメディアだとは考えたことがなかったが、自分が興味のあるメディアとは何なのか、視野を広げて考える機会になった」「さまざまな観点から業界を見なおすことで、自分の本当の関心、新たな関心を掘り起こせると感じた」などさまざまな発見が聞かれました。
このワークショップは、まさに社会における「メディア・デザイン」と「メディア・リテラシー」の生きた教材として、「ゲーム」をメタな視点でとらえなおし、多面的な解釈を学ぶことができる良い機会となりました。参加した学生たちも「メディア」という概念の射程の広さと、その仕組みやデザインのあり方に目を向けることのおもしろさ、さらには「金融」という業種と「メディア」の意外な近さに改めて気づくことで、視野を広げるきっかけになったようです。
 
※ご協力いただいた第一生命保険株式会社のみなさまにこの場を借りて御礼を申し上げます。