2021年度の活動報告

武蔵大学経済学部 高橋徳行

2021年度の活動実績の概略

今年度も、昨年度に続き、COVID-19の感染拡大がなかなか収束の気配を見せず、秋までは、2年ぶりに研究講座を対面で実施する計画を立てていたが、それも断念し、5回ともZoomでの実施となった。

 現地調査も感染拡大が少し落ち着きを見せた3月に2か所において実施したが、これも例年と比べると半分以下の回数にとどまった。

 このように、昨年度同様、活動環境が制約された中での実績を次に示す。

 第1は、コミュニティビジネス「研究」講座の実施である。2012年度から継続して実施しているこの研究講座は、コミュニティビジネスをより深く学習したい人やすでにビジネスを始めている人を対象に、コミュニティビジネスを取り巻く環境や周辺のホットな話題を取り上げ、関心だけある人、自分では始めるつもりはないがサポートすることに興味のある人、これから始めることを検討している人、そしてすでに始めている人たちなど、幅広い人たちを対象としていることに特徴がある。最終的な狙いは、コミュニティビジネスにかかる「コミュニティ」の形成である。今年度の講座は、5回実施した。今年度のテーマは地域の「コミュニティビジネスの新たな展開」と「コロナ」とした。ほぼ2年にわたるコロナ禍の中で、コミュニティビジネスの担い手や支援者の新たな取組みを語っていただいた(表1、表2、表3を参照)。

 また、各回の主な内容は次のとおりである。

 第1回の畦地履正氏は、四国の四万十川流域の地域おこし、コミュニティビジネス活性化の中心人物として一定の評価を受けている人である。また、数少ない「道の駅」の成功事例としても「四万十ドラマ」は興味深い事例である。今回は、コロナ禍の中で、実際に地域を訪れる人が少なくなる中でも、過去の情報発信の中で培った財産を活かして、オンラインによって新たなつながりを作り出している状況を伺った。

2回の舩越英之氏は、第3回に登場する西岡孝幸氏が創業エコシステムの基礎をつくった後、その後を引き継ぐ形でその基礎の上に、さらにシステムを発展させている。最近は、県外からの人流増加を目標に、さまざまな取組みに新奇性を加えることで、その目標実現に向けて前進している。例えば、琵琶湖に甲板の面積が大きな船を浮かべ、湖上でテレワークを行うという試みなどをしている。そのようなことができる背景には人材が育っていることがあり、今回はどのように人材が育成されているのかを中心にお話しを伺った。

3回の西岡孝幸氏が務める滋賀県立大学は、地域共生論という科目を全学部の1年生必修科目とするなど、地域に根差した教育プログラムに力を入れている。その中で、西岡氏は、都市銀行勤務26年勤務、滋賀県産業支援プラザ11年勤務の経験と人脈を生かして、同県立大学にソーシャルアントレプレナーコースという副専攻を立ち上げ、地域経済の担い手を育成しており、そのプログラムの内容等を中心にお話しを伺った。

4回の川畑裕徳氏は、奄美大島で大島紬を扱う呉服屋の跡取りとして育ったものの、大島紬の将来性に不安を持ち、単に大島紬を着物として販売するのではなく、皮革製品の中に大島紬をアクセントとして使う方法を考え、地域の個性を具現化した商品開発に成功した。今回は、コロナ禍の中で、SNSなどのメディアを事業の中に組み込み、多様なマーケティング手法を使って地方から東京などの大都市圏に情報発信を行う試みを中心にお話しを伺った。

5回の中井照大郎氏は、東京外国語大学でインドネシア語を学んだ後、林業の可能性に目覚め、岡山県西粟倉村で林業が儲からない原因の一つが、森林の所有権の複雑さにあるとして、ドローンやICT技術を使い、森林(木々)の可視化を行い、森林伐採、所有者への還元の効率化を図り、地元の木材関連産業の発達も相まって、事業化に成功し、地域コミュニティの発展に大きな貢献を行った。今回は、中井氏が設立した別会社での事業展開を中心に、伐採した後の植林に焦点を当てて、お話を伺った。

表1 コミュニティビジネス研究講座コンセプト

今年度は地域の「コミュニティビジネスの新たな展開」と「コロナ」をテーマにしています。コミュニティビジネスはコロナ禍の中でさまざまな影響を受けており、また受けました。さまざまな形でコミュニティビジネスとの接点がある人たちに最近の状況を報告いただきます。

表2 コミュニティビジネス研究講座の実施内容

日 時
タイトル(テーマ)
講 師
第1回
2021年6月7日(月)
18:00~19:30
道の駅「四万十ドラマ」
‐成功要因とコロナ禍における新たな取組み‐
畦地履正氏
株式会社四万十ドラマ
代表取締役
第2回
2022年3月5日(土)
18:30~20:30
滋賀県の創業エコシステムの構築について
舩越英之氏
滋賀県産業支援プラザ
創業支援課長
第3回
2022年3月8日(火)
10:00~11:30
地域のための、地域による実践的プラグラムについて
西岡孝幸氏
滋賀県立大学地域共生センター
特任准教授
第4回
2022年3月10日(木)
19:00~20:30
大島紬を活かした商品開発の新展開
川畑裕徳氏
川畑呉服店 紬レザー かすり
第5回
2022年3月18日(金)
18:30~20:00
日本の森林を守るためには
中井照大郎氏
株式会社GREEN FORESTER代表取締役・
株式会社百森代表取締役

表3 受講人数

第1回
第2回
第3回
第4回
第5回
受講者総数
12名
5名
11名
9名
7名
内 学生数
10名
2名
5名
1名
4名

第2は、地域のコミュテニィをベースとする活性化の取り組みに関する現地調査である。

今年度は、感染が少し落ち着いてきた20221月と3月に1回ずつ実施した(表4)。

表4 現地調査の概要

日程
テーマ等
主な内容
2022年
1月25日
現地調査
富山県高岡市
能作
能作はオリジナリティあふれる錫製品のメーカーとして有名であるが、メーカーとしてだけではなく、工場見学、併設されたレストランでの食事、製作体験などをセットにした、いわゆる産業観光にも力をいれている。今回は、その産業観光が少しずつ回復している状況などをヒアリングした。
2
2022年
3月26日~28日
現地調査
沖縄県石垣市
貴クラフト陶
民宿「海すずめ」など
2013年に新石垣島空港が開港した後、石垣島に訪れる観光客数は、それまでの年間70~80万人から2倍近い数となり、一部の企業は潤ったが、多くのコミュニティビジネスは大量に押し寄せる「新しいタイプの」観光客に翻弄された。今回はコロナ禍で、ある意味考え直す時間を得た地元企業が、これから再び増加に転じる観光客への対応をどのように考えて実行しようとしているのかをヒアリングした。
以上