2004年度の活動報告

武蔵大学経済学部経営学科 高橋徳行


2004年度に発足した武蔵大学コミュニティ・ビジネス研究会(Community Business Research Center of Musashi University、以下武蔵CBRC)は、コミュニティ・ビジネスを、一般に考えられている範囲*1よりも広く捉え、株式会社や有限会社などの組織形態である一般の中小企業も活動主体として含めたり、市場が広く地域を超えている組織もコミュニティ・ビジネスが発展した形態と考えたりして、その活動を行った。

その大きな理由の1つは、例えば、新大陸という白地図に地域コミュニティを創り上げるプロセスの中で生まれたアメリカのNPOと日本のそれとは同列に議論をすることはできず、活動主体でコミュニティ・ビジネスを定義すると、もともと地域で活動してきた中小企業などの会社組織の役割が過小評価されるからである。
さらに、地域が抱える問題を解決するという視点で考えた時、例えば、今年度の調査対象であった、北海道帯広市の北の起業広場協同組合は非営利法人、青森県八戸市の有限会社北のグルメ都市は営利法人であるものの、活動目的は中心市街地の活性化であり、活動内容は屋台村の運営・管理と全く同じである。
また、同様に今年度の調査対象であった、高知県馬路村の馬路村農業協同組合も愛媛県鬼北町の合名会社高田商店も、ともに地元特産の柚子を「玉だし」(採れたままの形で出荷すること)するだけでは相場に左右され付加価値も上がらず農家の経営が成り立たないという地域の問題を解決するために、柚子加工品を開発・販売し、地域経済活性化に大きな貢献をしている。前者をコミュニティ・ビジネスと定義し、後者は会社組織であることを理由にコミュニティ・ビジネスから除外することは、やや無理がある。

もう1つの理由は、コミュニティ・ビジネスが持つ、企業や地域の「組織の力」の苗床的な機能に注目したいからである。地域の問題を解決しようとすれば、アントレプレナーシップは不可欠である。しかし、アントレプレナーシップが花開くための必要条件は、志を持ったリーダーの存在とそのリーダーを助けるコアメンバーの存在である。もともとそのような人材に恵まれている地域は少なく、さまざまな集団活動の中でリーダーなどが育つケースが少なくない。多様な就業の場として注目されるコミュニティ・ビジネス活動を通し、人材が育ち、そのような人材が中心となって、地域を超えた市場を創造するようなビジネスが展開する場合、それはコミュニティ・ビジネスの地域に対する大きな貢献と考えても良いであろう。

このように、武蔵CBRCは、地域の問題を地域の人たちが中心になって解決するという側面により注目するために、コミュニティ・ビジネスの活動主体を広範に捉え、その役割も幅広く考えている。

今年度の具体的な活動は表のとおりであるが、解説をすれば次のようになる。
つまり、対象とする問題として、①商店街の地盤沈下、②中心市街地の衰退、③地域産業の停滞、④子育て支援機関の不備や不足の4つであった。

①に関しては、2004年5月25日に国民生活金融公庫総合研究所の村上義昭上席主任研究員を招き、地域社会に対して先進的な取組みを行っている商店街の紹介と、そのような取組みが成功するための必要条件についての報告と議論を行った。成功するための条件の一つに、何かの取組みを始める前の段階で、そもそも商店街が地域の人に信頼されているか否かが指摘され、同じ取組みを行っても前提条件が異なると同じ結果が得られないという意見が出された。商店街活動における活動主体の違いに着目した調査は来年度以降の課題となった。

②に関しては、まず2004年10月23日に北の起業広場協同組合専務理事坂本和昭氏を招き、大型店の郊外移転によって賑わいを失った北海道帯広市の中心街を個店の集合体である屋台村によって活性化を図ったプロジェクトの話を聞き、議論を行った。さらに、北海道帯広市の試みに刺激され、青森県八戸市でも同様のプロジェクトが行われていることから、2004年11月22~23日にかけて同地を訪問し、キーマンである有限会社北のグルメ都市と中居食品容器株式会社の社長中居雅博氏にインタビューを行った。両者は、活動組織形態は異なるものの、目的と手段は同じであり、しかも屋台村の運営を始める前に異なった形で地域活性化の試みを行っていたという共通点を発見したことは収穫であった。つまり、いきなり大きなことをやろうとしても誰もついてこないし、協力しない。しかし、リスクの小さいところで実績を積み重ね、その過程で信用、実績、ノウハウ、そして人脈などを蓄積することができると、大きなプロジェクトも成功させることができる。いわゆる「組織の力」の蓄積を前提条件として考えることの重要性、そしてそこにおけるコミュニティ・ビジネスの役割に気がついたことが前進といえる。

③に関しては、地域の農業問題を解決するために1.5次産業を興し、成功した地域を2つ選んで取材した。特産品の柚子を活かして地域の活性化に貢献している地域が四国に2つ存在しているので、2005年2月23~25日にかけて、高知県馬路村の馬路村農業協同組合専務理事東谷望史氏と愛媛県鬼北町の合名会社高田商店代表社員高田茂氏を尋ねインタビューを行った。それぞれ地域内で雇用を60人、そして30人増やし、地元柚子農家の経営維持に大きな貢献をしている。このように、地域経済に目に見える形でインパクトを与えるには、この2つの事例のように、地域外に広く市場を持つことも必要になる。コミュニティ・ビジネスが発展する過程で、市場が地域を超えて広がること、またコミュニティ・ビジネスの発展そのものを考えることの重要性を確認した。

④に関しては、3月26日の講演の中で取り上げた。ここでの焦点は、15年前に地域で働く母親のニーズに応え、年中無休24時間保育を立ち上げた時は、ほとんどボランティアに近い労働力に頼っていた会社が、経営能力や経営ノウハウを蓄積し、20か所の保育所を経営できるようになり、世間並みの給与が支払い可能になり、優秀な人材の確保や設備投資ができるようになったという点である。つまり、継続的にサービスを提供できる前提条件が完備されたということであり、コミュニティ・ビジネスにおける経営能力の重要性を再認識させるケースとして注目される。

*1 例えば、加藤恵正(2005)「都市生活とコミュニティ・ビジネス」、植田和弘他編『都市経済と産業再生』岩波書店では、コミュニティ・ビジネスの特徴を①非営利組織であること、②経済活動によって社会目的を達成しようとしていること、③利益は個人に分配されない、④組織構成メンバーは同等の権利を有し民主的運営がなされていること、⑤独立組織であり社会的な監査を受けていることなどを特徴としてあげている。

表 2004年度活動実績一覧

日時
テーマ
主な内容
第1回
2004年4月15日
活動内容の計画・打ち合わせ
武蔵大学教員4名と外部参加者1名による議論
第2回
2004年5月25日
地域社会と商店街
国民生活金融公庫総合研究所 村上義昭上席主任研究員による講演と質疑応答。武蔵大学教員3名の他、練馬区職員など外部参加者10名。
第3回
2004年10月23日
屋台村による中心市街地の活性化(1)
北の起業広場協同組合専務理事坂本和昭氏による講演と質疑応答。武蔵大学教員5名の他、外部参加者18名
第4回
2004年11月22~23日
屋台村による中心市街地の活性化(2)
中居食品容器株式会社社長中居雅博(屋台村の中心人物)へのヒアリングと現地視察
第5回
2005年1月29日
NPOで拓く地域社会
予算の補助のみ
第6回
2005年2月23~25日
コミュティビジネスの発展プロセス(地域の人材と資源を活用し、地域をターゲットとしてスタートしたビジネスが経営資源においても市場においても地域を超える企業に成長するプロセス)
愛媛県の私企業と高知県の農業協同組合をヒアリング
第7回
2005年3月26日
コミュニティ・ビジネスモデル事業報告会開催(練馬区と共催)
武蔵大学第2小講堂にて、①基調講演、②経営者による講演、③練馬区モデル事業の報告会、④まとめの④部門からなる報告会を行う。

(注)上記の活動の他、武蔵CBRCの会員である高橋徳行、横田絵理、そして黒岩健一郎は、練馬区が主催する「練馬区コミュニティ・ビジネス研究会」に平成15年度より参加し、計11回の会議に出席し、練馬区コミュニティ・ビジネス調査報告書の作成をした(別添資料参考)。当プロジェクトの一環で実施されたモデル事業の選定委員会には当大学総合研究所所長である小玉教授も委員となり、当大学のプレ専門ゼミの3ゼミ連合チームがモデル事業に選ばれ、江古田ゆうゆうロードで2か月ごとに開催されるナイトバザール(2004年11月開催分)に参加し、商店街で実際にビジネスを行っている。