2014年度の活動報告

武蔵大学経済学部経営学科 高橋徳行

1 2014年度の活動実績の概略

 今年度も、昨年度と同様に大きく分けて3つの活動を行った。
 第1は、練馬区産業振興公社(練馬ビジネスサポートセンター)からの受託事業として実施している「コミュニティビジネス入門講座」と「コミュニティビジネス実践講座」である。
 この2つの講座に関しては、企画、場所の確保、当日運営のサポートを大学と練馬区が協働し、講座そのものは外部講師に依頼するという形を取っている。
今年度の特徴は次の通りである。
まず、受託先が練馬区から練馬区産業振興公社(練馬ビジネスサポートセンター)に変更されたことである。運営がより機動的になった点はあるが、これにともなって実質的な大きな変化はなかった
 次に、入門講座のウエートをやや軽くして、実践講座のウエートを重くしたことである。これは、限られたリソースの中で、受講生のニーズにできるだけ応え、また最終的な目的(実践者の輩出)に近づけようとしたためである。
 すなわち、入門講座を昨年度の3回から2回に減らし、実践講座を昨年度の5回から6回に増やした。詳細は表1表2のとおりである。
 さらに、昨年度は大雪とも重なったこともあり、発表者以外の参加者がほとんどなかった実践講座の最終発表会が盛況であったことである。この大きな理由は、練馬区産業振興公社(練馬ビジネスサポートセンター)が別途取り組んでいる、一般の創業(コミュニティビジネスではない創業という意味)を対象とした講座の受講生が参加したことによる。実際問題として、一般の創業とコミュニティビジネスによる創業に関して、厳密に境目をつけることが難しいところもあり、また無理に線引きする必要もないので、このような交流が活発になることの効果は大きい。
 入門講座、実践講座の内容、および参加人数は表1から表4のとおりである。実践講座は、作年度から有料(全5回で3,000円)とし、受講料は受講生が直接に練馬区産業振興公社(練馬ビジネスサポートセンター)に支払うようにしている。
 また、昨年度の実践講座で最終報告会まで残った5名の中から、数名が、フルタイムではないものの、すでに起業しており、講座の効果が徐々に形になっていることも、今年度の明るいニュースの一つである。
 実践講座の第5回であるビジネスプラン発表会(中間発表会)には、武蔵大学の2年生のゼミから2組が参加し、社会人に交じって、学生目線で発見した練馬区の課題をいかにビジネスを通して解決するかという発表を行った。
 いずれにしても、表3表4にもあるように、入門講座と実践講座、計8回のうち、6回において定員を上回る参加者があり、この練馬区と大学が協働しながら実施してきた入門講座と実践講座に関してはかなり定着してきたという評価ができる。

表1 コミュニティビジネス入門講座の実施内容

 

開催日時

内 容

1

平成26819()
18
30分~2030

事例から学ぶソーシャルビジネス

2

平成26826()
18
30分~2030

初歩からのソーシャルビジネス
起業ノウハウ

※リード講師は、特定非営利活動法人コミュニティビジネスサポートセンター 代表理事 永沢映が務め、開催場所は、武蔵大学1号館1101教室である。

表2 コミュニティビジネス実践講座の実施内容

 

日 程

内 容

1

99()
18
30分~2030

経営者になることの意味を考える

2

916()
18
30分~2030

対象者とニーズを明確にする

3

930()
18
30分~2030

商品・サービスをかたちにする

4

107日(火)
18
30分~2030

商品・サービスをどのようにつくり、どのように買ってもらうのか

5

1025日(土)
13
00分~1700

ビジネスプラン発表会

6

平成27110日(土)
1300分~1700

成果発表会
ビジネスプランコンテストの優秀者による発表

※リード講師は、株式会社エンパブリック代表取締役広石拓司が務め、開催場所は、武蔵大学1号館1203教室(第1回~4回)と1101教室(第5回と6回)である。

表3 参加人数【入門編】(定員60名)

実施日

8/19

8/26

参加人数

78

62

表4 参加人数【実践編】(定員30名)

実施日
9/9
9/16
9/30
10/7
10/28
1/10
参加人数
36
35
28
23
37
59
  • 1/10は練馬ビジネスプラン公開発表会として、広く聴講生を募集し、実施した。参加者59名の内訳は、受講生15名、聴講生44名
第2は、コミュニティビジネス「研究」講座の実施である。この講座は、2012年度から始めたものである。「入門」講座と「実践」講座は、これから事業を始めようとする人たちに対して、心構えから始まって、ノウハウなどの指導が中心になるが、研究講座の方は、コミュニティビジネスをより深く学習したい人やすでにビジネスを始めている人を対象に、コミュニティビジネスを取り巻く環境や周辺のホットな話題を取り上げ、関心だけある人、自分では始めるつもりはないがサポートすることに興味のある人、これから始めることを検討している人、そしてすでに始めている人たちなど、幅広い人たちを対象としていることに特徴がある。最終的な狙いは、コミュニティビジネスにかかる「コミュニティ」の形成である。そのため、研究講座は、単に講師の人が話しをして「終わり」というのではなく、最後の30分程度を、参加者同士の交流の場にあてている。
今年度は、昨年度の5回から1回分を増やして、計6回実施した。また、本研究会で事例研究先として訪れた滋賀県産業支援プラザの制度を利用して滋賀県で起業された起業家2名を招いて、研究講座を運営した。これは、本研究会の講座事業と調査事業が有機的なつながりを持ってきたことと解釈することができ、このような取組は今後とも続けていきたい。
反省点としては、参加者が定員割れをしていることである。今年度も申込み段階では断るくらいの反応があり、40名以上の申し込みがあったが、無料講座であることでキャンセルがしやすい、また原則6回連続での参加を条件としたこともあり、途中で欠席した受講生が、その後も参加しなくなるという状況も見られた。
この点については、来年度は、歩留まりを考えて大目に受付を行う、特定の1回のみの参加も認めるなどの工夫をしていきたい。

表5 コミュニティビジネス研究講座の実施内容

 

開催日時

テーマ

講師

第1回

平成261021()
18
30分~2030

人生は一度きりだから
~「公益」と「私益」が繋がることを鑑みた挑戦~

中村真理(株式会社ノーブレーク 代表取締役)

第2回

1028()
18
30分~2030

一人でも多くの人に仕事の喜びを
~家庭に眠る人材を生かす企業経営~

五味渕のり子(有限会社YPP 代表取締役)

3

1111()
18
30分~2030

少子化に生き残る子育てビジネス

小西由美枝(プリメックスキッズ株式会社 代表取締役)

4

1118日(火)
18
30分~2030

得意なことを活かして、苦手なことはサポート
~発達障がい支援から学ぶ、効果的に仕事を教えるメソッド~

鈴木正樹(株式会社アットスクール 代表取締役)

5

1125日(火)
18
30分~2030

障害者のためのビジネススクール

佐藤悟(フェスティーナレンテ株式会社 代表取締役)

6

122日(火)
18
30分~2030

好奇心をもった子どもを育てる!
〜15年後を見据えた教育が必要です〜

まつい穣(株式会社くりーふ 代表取締役)

開催場所

 
武蔵大学8号館68603教室(122日のみ8604教室)
         

表6 参加人数【研究編】(定員30名)

実施日

10/21

10/28

11/11

11/18

11/25

12/2

参加人数

25

22

16

17

15

14

第3は、地域のコミュテニィをベースとする活性化の取り組みに関する現地調査である。
今年度は4つの地域に対して、計4回のヒアリング調査を行った。
 日程、テーマ、そして主な内容は、表7のとおりである。このうち、沖縄県読谷村については、数年間、継続調査対象地域として現地調査を継続してきたが、一応、今回の調査でひと段落ということになった。当地域の地域活性化が軌道に乗ったのは、やはり、行政が大きな枠組みを示して制度的なサポートをする一方で、起業家が自らのリスクで資金や運営面で責任を持ち、そのあたりの役割分担が明確であったことなどが大きな要因の一つと考えられる。
 また、高知県四万十市の調査についても、研究成果をまとめることができたので、今年度をもって当地域への調査は一旦終了となる。教育施設とするか、観光施設とするかの議論が決着しない中で、厳しい財政事情が緊急の課題として浮かび上がっており、それに対する根本的な解決策をなかなか見えない。
 また、滋賀県についても、今回調査で一応のまとめができた。こちらは成功例として貴重な資料となった。
 一方、宮崎県都農町の取材は今回が初回である。読谷村の場合は、実施主体が完全な民営企業であったの対して、宮崎県の場合は、運営主体が第三セクターであるという点が対照的である。いずれにせよ、ワインを宮崎県で作り、地元農家に対しての貢献ができたという意味では成功を収めたケースである。しかし、今後、新しい取組(例えば設備投資や農地の確保)を考えたとき、これからも解決しなければならない課題が残っており、これらに対してどのような取組をしていくのかについては、今後も継続的な調査を実施したい。

表7 現地調査の概要

日程
テーマ等
主な内容
2014
5月23日~25日
現地調査
沖縄県読谷村
地域活性化
地域資源を生かした活性化策をさらに発展させるために、あらたに宿泊需要に応えるという取組に関する現地調査。
2014
7月29日~31日
現地調査
宮崎県都農町
地域活性化
第三セクター方式で、当時、台風常襲地区である宮崎県でワインづくりをするという試みが成功を収めることができた背景と、最初の成功から次の発展を目指すための課題等に関する現地調査。
2014
8月20日~22日
現地調査
高知県四万十市
地域活性化
昨年度、報告書を仮完成した後、内容を再確認するために実施した。観光施設とするか教育施設とするかという根本的な議論が決着しない背景などを確認する。
2014
8月28日~30日
現地調査
滋賀県大津市
地域活性化
昨年度に引き続いての調査。今回は、制度を実際に利用して創業した経営者を中心にヒアリングを行う。