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2010年度活動報告

武蔵大学経済学部経営学科 高橋徳行

1.2010年度の活動実績の概略
今年度(2010年度)は、現地ヒアリングを6か所(沖縄県読谷村、福島県南相馬市、長野県下諏訪町、高知県四万十市、熊本県南小国町、そして青森県青森市)、講演会・シンポジウムを3回、講習会を2回、そして研究発表会を1回行った。

現地ヒアリングは、昨年度同様に、今までの調査・研究成果の集大成としての出版を視野に入れて行った。

特定地域の経営資源を活用し、特定地域をマーケットとするような企業や産業、そして特定地域より広い市場を対象にするにしても特定地域の経営資源に依存するような企業や産業は、その地域独自の発展を目指さなければならない。ほとんどの商店街、そしてほとんどの観光地が経験してきたように、全国一律の政策や方針に従った企業や地域は独自性を失い、ほぼ当時に活力も奪われてきた。

しかし、地域独自の企業や産業の創出もまた決して容易なことではなく、これもまた、数多くの地域が挑戦して失敗してきた事実が、そのことを雄弁に物語っている。

地域独自の企業や産業が育たなければ、当面、地域を維持していくために、公共事業や企業誘致に依存しなければならない。しかし、企業誘致の可能性は、1970年代後半から困難となり、また公共事業も財政赤字の影響を受け、環境は急激に悪化している。

結局、困難な道を歩まざるを得ない状況に追い込まれたということが、多くの地域の偽らざる現状なのである。退路を完全に断たれたのである。

本研究会では、地域の問題を解決するビジネスをコミュニティ・ビジネスと考え、一般の定義よりも幅広い捉え方をしている。しかし、規模の大小を問わず(最初から大きくなることを目指している起業家の数もそもそも少ない)、本研究会で定義するところのコミュニティ・ビジネスを育成できるかどうかが、地域が生き残れるかどうか、または地域の生活水準を向上できるかの鍵を握っていることは確かである。

地域独自の発展は、昭和40年代後半、高度成長が行き詰まりを見せ始めた時から言われてきたことである。しかし、その提言がほとんどの地域で実を結ばなかった理由の一つは、公共事業に依存するという選択肢がまだ残されていたからであり、もう一つの理由は、その地域に起業家が育たなかったからと考える。新しい事業を立ち上げることは容易なことではなく、まして、地域単位で行うとなれば、その困難は「企業」単位の比ではない。

いずれにしても、公共事業という財政に依存できなくなった現在、残された選択肢は一つしかなく、そのために、起業家をいかに地域で育成していくかが課題となる。しかし、ある意味では、これほど大変なことはない。道路がないのであれば作れば良いし、(商店街に)アーケードがないのであればアーケードを作れば良い。ハードの整備は、予算があれば容易に実現できる。しかも、短期間で行うことができるが、人材、そしてその人材が作り出すビジネス、新規事業となると、そうはいかないからである。

以上のような問題意識に立って、本研究会では、現地調査を継続した。そのために、現在注目されている「コト」と「ヒト」だけではなく、それらがどのようなネットワークによってつながっているのか(横糸)、そしてどのような背景で生まれてきたのか(縦糸)についてより詳しく調べることとしてきた。

その中で、明らかになってきたことは、現在活躍している人材は、「育てられていた」という事実であり、また現在成功している事業は、さまざまな人たちに「支えられてきた」という事実である。つまり、どのように育てられ、また支えられてきたかを知ることは、それをそのまま模倣することはできないにしても、今後、地域で独自の発展を目指す場合に、非常に重要な視点になると思われる。

ある事業が成功したのは「あの人」がいたから、では他の地域にとって何も参考にならない。しかし、「あの人」もまた育てられた人材であるとなれば、少しは希望も生まれる。また、地域で展開される事業が軌道に乗るためには、さまざまな支援者が必要になることがわかれば、安易に、他の地域で成功した事業を模倣しようとする地域も減り、無駄なエネルギーを使わなくても済むかもしれない。

講演会は、高知県馬路村のゆず産業をゼロから年商30億円規模の産業に育てた馬路村農協の東谷理事長によるもの(練馬区との共催)、起業家教育の世界的権威であるバブソン大学の名誉教授であるウィリアム・バイグレイブ氏によるもの(全信連等との共催)、そして練馬区の小規模なコミュニティ・ビジネス経営者3名とのパネルディスカッションを含む講演会(練馬区まちづくりセンターとの共催)の計3回を実施した。講演会は、企画そのものに加えて、集客という問題があり、今までは後者がネックになっていたが、昨年度より集客力の持つ機関との共催ができるようになり、実施が容易になり、かつ参加人数も増えている。

講習会は、昨年度同様に、NPO法人コミュニティ・ビジネスサポートセンター代表理事の永沢映氏を講師に、練馬区在住の人を対象に、2回実施した。

また、これらの他に、本研究会の発表会を1回行った。これは各調査担当者の調査報告を中心に実施した。
 
いずれにしても、公共事業という財政に依存できなくなった現在、残された選択肢は一つしかなく、そのために、起業家をいかに地域で育成していくかが課題となる。しかし、ある意味では、これほど大変なことはない。道路がないのであれば作れば良いし、(商店街に)アーケードがないのであればアーケードを作れば良い。ハードの整備は、予算があれば容易に実現できる。しかも、短期間で行うことができるが、人材、そしてその人材が作り出すビジネス、新規事業となると、そうはいかないからである。

以上のような問題意識に立って、本研究会では、現地調査を継続した。そのために、現在注目されている「コト」と「ヒト」だけではなく、それらがどのようなネットワークによってつながっているのか(横糸)、そしてどのような背景で生まれてきたのか(縦糸)についてより詳しく調べることとしてきた。その中で、明らかになってきたことは、現在活躍している人材は、「育てられていた」という事実であり、また現在成功している事業は、さまざまな人たちに「支えられてきた」という事実である。つまり、どのように育てられ、また支えられてきたかを知ることは、それをそのまま模倣することはできないにしても、今後、地域で独自の発展を目指す場合に、非常に重要な視点になると思われる。ある事業が成功したのは「あの人」がいたから、では他の地域にとって何も参考にならない。しかし、「あの人」もまた育てられた人材であるとなれば、少しは希望も生まれる。また、地域で展開される事業が軌道に乗るためには、さまざまな支援者が必要になることがわかれば、安易に、他の地域で成功した事業を模倣しようとする地域も減り、無駄なエネルギーを使わなくても済むかもしれない。

講演会は、高知県馬路村のゆず産業をゼロから年商30億円規模の産業に育てた馬路村農協の東谷理事長によるもの(練馬区との共催)、起業家教育の世界的権威であるバブソン大学の名誉教授であるウィリアム・バイグレイブ氏によるもの(全信連等との共催)、そして練馬区の小規模なコミュニティ・ビジネス経営者3名とのパネルディスカッションを含む講演会(練馬区まちづくりセンターとの共催)の計3回を実施した。講演会は、企画そのものに加えて、集客という問題があり、今までは後者がネックになっていたが、昨年度より集客力の持つ機関との共催ができるようになり、実施が容易になり、かつ参加人数も増えている。

講習会は、昨年度同様に、NPO法人コミュニティ・ビジネスサポートセンター代表理事の永沢映氏を講師に、練馬区在住の人を対象に、2回実施した。

また、これらの他に、本研究会の発表会を1回行った。これは各調査担当者の調査報告を中心に実施した。


2.2011年度の活動計画の概略
現地ヒアリング調査は、今年度は、出版を優先して候補地を決めていきたい。出版の中で取り上げる地域は、すでに確定しているものとして、(1)青森県板柳町(リンゴの高付加価値を通して農家の経営が成り立つ仕組みの構築)、(2)岩手県花巻市(草の根的なインキュベーション活動)、(3)福岡県豊後高田市(昭和をコンセプトとした商店街の活性化)、(4)沖縄県読谷村(地域資源(伝統工芸や農産物)を活かした地域の活性化)の4地域がある。

また、その他の候補地である程度の情報を蓄積した地域として、(1)北海道帯広市(屋台村を活用した中心市街地の活性化)、(2)青森県青森市浅虫温泉(コミュニティレストランを中核事業とした地域の活性化)、(3)長野県下諏訪町(ものづくりを取り入れた商店街の活性化)、(4)高知県四万十市(トンボ公園を核にした自然を守ることを通した地域の活性化)、(5)愛媛県内子町(中山間地域の農産物の自主販売を通した地域の活性化)、(6)熊本県南小国町(28の小さな温泉宿が統一したコンセプトに基づいた活動を通しての地域の活性化。黒川温泉はすでにかなりのメディアで取り上げられているが、メディアでカバーされていない事実等に着目する)などがあり、これらの中からいくつかを出版事例として取り上げる場合、取材候補先とする。

さらに、このテーマでは、成功例だけを取り上げるのではなく、必ずしもうまくいかなかった事例や岐路に立っている事例も必要であることから、(1)鹿児島県奄美大島(大島紬の衰退への対応、公共事業への依存と環境破壊の悪循環)、(2)大分県湯布院(成功が招いた外部資本の導入への対応)などが候補として考えられる。現状についての情報は十分ではないが、昭和50年代に初期の成功を収めた長野県妻籠宿や大分県大山町の現状の把握も必要になってくるかもしれない。

都内のコミュニティ・ビジネスについては、練馬区や他の団体と連携して、ヒアリング等を行っていく。

講座については、今年度からは、実践者を生み出す方向にさらに一歩前進するために、密度の濃いプログラムを実施する。具体的には、次のような内容を計画しており、これは練馬区とNPO法人コミュニティ・ビジネスサポートセンターの協力のもとに行っていく。

 (23年度コミュニティ・ビジネス講座)

 1 8月24日(水) コミュニティ・ビジネス総論 2時間
   18:30~20:30
 2 8月31日(水) 経験者からの講義 1時間×2回=2時間
   18:30~20:30
 3 9月7日(水) グループ討議 3~4のグループでテーマごとに協議する 
   2時間 18:30~20:30
 4 9月10日(土)事業計画書の策定方法 4時間 9時半から13時半
 5 9月28日(水)中間発表 2時間(20分×5組+コメント)
 6 10月~11月 個別指導 適宜
 7 12月3日(土) 最終発表 10:00~16:00(昼1時間含)
*大学施設の夏季使用の制限により、計画が変更される場合がある。

講演会については、練馬区からの助成金を今年度はすべて講座関係に振り分ける予定であることに加えて、1号館建て替えの影響と東日本大震災の影響による計画停電等の不確実性の問題から、今の時点では計画していない。ただし、本研究会としての成果発表会は一般参加も募って、今年度も実施する予定である。
表 2010年度活動実績一覧
日時 テーマ主な内容
1 2010年5月27日~30日現地調査
(場所)
沖縄県読谷村
(テーマ)
地域活性化
出版のための再取材
 
同地域の活性化の中心となっている「新風(かぜ)の目会」(1992年結成)のメンバーを中心に取材。当時のメンバーであり、現村長の石嶺氏からも話を聞くことができた。読谷村のさまざまな立場の人たち(行政関係、商工会関係、商店街関係など)の信頼構築という意味で大きな役割を果たしてきたことを確認できた。
2 2010年6月12日研究会発表会
(場所)
武蔵大学8504教室
(テーマ)
昨年度の現地調査の報告
 
下諏訪町、豊後高田市、花巻市、読谷村、そして板柳町の調査報告が行われた。
3 2010年9月25日講演会
(場所)
東洋大学
(テーマ)
起業家教育
 
信金中金と日本中小企業学会と協力して、起業家教育では世界的権威であるバブソン大学のバイグレイブ名誉教授による講演会と公開ディスカッションを行った。アントレプレナーをいかに育成するかは本研究会のテーマであり、その意味で、起業家教育では全米で第1位の評価を得ている取組事例は非常に参考になった。武蔵大学および本研究会関係も10名ほど参加した。
4 2010年10月1日講演会
(場所)
武蔵大学8603教室
(テーマ)
ゆず市場開拓から始まった地域づくり
 
練馬区と共催で行った。練馬区は都内23区の中で、最も農地面積の大きな区であり、農産物を通して地域活性化にも興味を持っていることから、高知県馬路村の成功例を直接練馬区民に話してもらうという企画となった。今回は、立ち上げの苦労に加えて、立ち上げた事業をどのように維持していけばよいかについても突っ込んだ話が展開された。
5 2010年10月13日
2010年10月20日
講習会
(場所)
武蔵大学8504教室
(テーマ)
コミュニティ・ビジネス予備軍の育成
 
NPO法人コミュニティ・ビジネスサポートセンター代表理事の永沢映氏を講師に、練馬区と共催で計2回の講習会を練馬区民対象に実施。昨年度よりもより実践に近い次元での講習を実施した(2011年度は事業計画書の作成レベルまで高める予定)。
6 2011年2月11日講演会・シンポジウム
(場所)
武蔵大学8603教室
(テーマ)
地域でつながる仕事とくらし
 
練馬区内で小規模な地域密着型のビジネスを展開する3人をパネラーに招いたシンポジウムと本研究会代表の高橋による講演会の2部構成で行った。当日は、大雪にも関わらず、盛況であった。地域の人たちの交流の場としての重要性などが会場から指摘された。
7 2011年2月12日~13日現地調査
(場所)
福島県南相馬市
(テーマ)
地域密着型の起業家育成
 
伝統的な箱型のインキュベータではなく、いわゆる「貸し部屋」はほとんど持たないで、施設の外でのソフトな支援を中心に実績をあげている事例として取材。地元に人脈を有する人が中心になることによって一定の成果を上げている(取材後、南相馬市は東日本大震災によって大きな被害を受け、取材後のフォローが困難になっている)
8 2011年3月12日~13日現地調査
(場所)
高知県四万十市
とんぼと自然を守る会
(テーマ)
川という外部不経済を最も受けやすい自然が、地域経済にとっての要である場合、いかにその自然を維持することができるのか
高知県西部を流れる四万十川は「最後の清流」として知られているが、それはこの地域の経済を支えている貴重な公共財でもある(中流では鮎やウナギの漁、下流では青のりの養殖、そして観光資源)。しかし、直接的な経済メリットを受けにくい上流では、大量の砂利の採取が相当前から行われていた。その結果、川幅が狭くなり、川底が深くなり、中流や下流の経済活動にも支障が生じ始め、また観光資源としての価値も低下している。その要因と背景に関する取材。仮説としては、地域におけるアントレプレナーの不在、さまざまな活動主体間におけるコミュニティの問題を掲げている。
9 2011年3月18日~19日現地調査
(場所)
長野県下諏訪町
(テーマ)
商店街活性化
出版のための再取材
 
長野県下諏訪町御田商店街は、街道の要衝、産業の中心地として栄えていた当時の面影をなくしつつあったが、おかみさん会の尽力や商店街にモノづくりの場を設けるなどして、活気を取り戻しつつある。そのプロセスを取材。昨年度実施した調査のフォロー調査。
10 2011年3月24日~26日現地調査
(場所)
熊本県南小国町
(テーマ)
中央の画一的な政策や公共事業に依存しないで、地域を活性化し、かつその成功を維持する仕組みを構築していること
黒川温泉は、地域活性化の事例としては全国区の知名度がある。一般には、後藤哲也氏というカリスマの存在が強調されているが、彼の成功を地域に広めた若い人たちの存在(昭和50年代)、そして今の若い世代を育成する取組、さらに約5年前の大ブームが地域に与えた影響などは、必ずしも明らかにされていない。成功の「継続」という視点からの取材。また、初期の成功に大きな影響を与えた小笠原和男氏への取材も行った。
11 2011年3月28日~29日現地取材
(場所)
青森県青森市浅虫
(テーマ)
過疎化が進む中でのコミュニティレストランの経営
青森市から30分ほどの距離にある浅虫温泉は青森市の中にあるものの、地勢的にも特徴のあるひとつの地域である。そこで、コミュニティレストランを始め、年商も900万円近くまで伸ばしたNPO法人が取材の対象。過疎化のスピードは想像以上に速く、ビジネスモデルとしては一定の成功を収めたにもかかわらず、人口減と高齢化の影響への対応を迫られている。一定の成功を収めた後の課題を考えることも取材のテーマの一つである。
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