社会学部ゼミブログ

2022.11.24

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災い転じて

ブログ投稿者:社会学科 教授 矢田部圭介

私が担当する3年生のゼミ(社会学専門ゼミ)の授業では、スケジュールを組んで、日替わりで3つのことを実施しています。
ひとつが卒業論文の準備。学期に1~2回、4年次の卒業論文を見据えて、各自の構想や資料の報告の機会をつくっています。これを積み重ねていって、翌年の卒論執筆につなげてもらいます。ふたつめはミニレポートの合評会。学期に2~3回、テーマやテキストを指定して、小さなレポートを書いてもらい、それを相互に読みあってコメントしあいます。論理的な文章を日常的に書く練習であるのと同時に、人の考えを理解してそれをもとに建設的に議論する練習のつもりです。
みっつめは輪読。共通のテキストを決めて、それをゼミのメンバーで一緒に読んでいきます。毎回、担当者を決めて、テキストについて報告してもらい、これをもとに議論します。ゼミのメンバーで協働しながら、論理的な文章を精確に理解し、批判的に検討し、それを自分の考えを紡ぐ糧にする。個人的には、これがゼミのメインイベントだよなあ、と思っています。
さて、ときどきゼミでも、体調不良などで欠席者が出ることがあります。もちろん、授業そのものは出席者だけで実施して、欠席者には後から個別にフォローすれば、大抵の場合は問題ありません。ただ、輪読の授業で、報告担当者が欠席、となると話は違います。テキストについての担当者の報告が当日の授業の大前提になるので、授業そのものが成りたたなくなってしまうのです。
先日、輪読を予定していた3年ゼミの当日、授業開始の1時間ほど前に、テキスト報告担当者から、メールで連絡が入りました。「家を出るときに怪我して出血してしまった」「処置はできそうだけど、ゼミには間に合いそうにない」。
メールを読んで、怪我、大丈夫だろうかと思いつつ、しょうじきちょっと焦りました。今日のゼミ、どうしよう。
でもつづきがありました。「なので、今日の自分の担当の報告、オンラインでできないでしょうか」。
ということで、急遽、教室に私のノートパソコンを持ちこんで、Zoomで自宅にいる報告担当者とつないでゼミを実施することにしました。
報告担当者の姿と声は、ノートパソコンから教室のモニタとスピーカーにつないで教室に届きます。教室ではみんなマスク姿なんですが、モニタに大写しになっている報告担当者だけ素顔で、ちょっと新鮮。
教室の様子はノートパソコンのカメラとマイクでひろって自宅の報告担当者に届きます。ただし、ノートパソコンのカメラの画角が狭くて、教室全体が映らないので、授業中は、発言者が変わるごとに、自動追尾(つまり、その都度、教員〔=私〕が、手動で、発言者の方にパソコンのカメラを向け直す…)。
報告担当者の怪我も、授業開始までには無事処置できたようで、授業はつつがなく終了しました。
 
当日のオンライン報告の様子
いまの3年生は、新型コロナウィルス感染症が流行し始めた年に大学に入学して、オンラインを活用して授業を受けることにすっかり慣れた学年です。この間の、望んだわけではないオンライン授業化は、学生にとっても教員にとっても、とてもとても悔しいことでした。
ただ、結果的に、それは、この日のような対応がごくあたりまえにできる私たちの環境や態度を整えることにもなりました。ほんの3年前には、自宅にいる学生さんとオンラインでつながって自分のゼミができるなんて、私には想像すらできていませんでしたから…。
こうした環境や態度を、せめて、こんどは、望ましい授業のあり方に、活用していきたいものだと思っています。