社会学部ゼミブログ

2022.09.20

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つくることで学ぶ

ブログ投稿者:メディア社会学科 准教授 宇田川 敦史

「メディア・デザイン」というとどんなことをイメージされるでしょうか。商品パッケージやロゴ、印刷物やWebページなどの「見た目」を美しく整えるような活動を思いうかべる方が多いかもしれません。「デザイン」にはもちろんそのような、見た目(意匠)のデザインという意味もあるのですが、もうひとつ、仕組みや構造の設計という意味も含んでいます。もっとも広い意味での「デザイン」とは、日常生活におけるさまざまな課題を、なんらかの仕組みや構造物によって解決する方法論のことを指します。
 
メディア社会学科2年次のゼミでは、今年度メディア・デザインの方法論をテーマとした調査・演習を実施しています。学生たちは、世の中にある大小さまざまな課題について、その課題をどのように特定し、どのように解決策をデザインしていくかについて、自分たちで考え、「プロトタイプ」とよばれる、解決のための試作品を実際に制作して評価します。
 
最初の関門は、日常的な「不満」から、その課題の本質が何かを突き詰めていく分析作業です。あるグループは、SNSで「いいね!」をした投稿がフォロワーのタイムラインに流れてしまうことが不満だという議論になりました。しかし、学生同士の対話が進むにつれて、それがなぜ不満なのか、「シェア」と「いいね!」は何が違うのか、さらには、SNSというメディアがどのように動作することが理想的で、現状の仕様との間にはどんなギャップがあるのか、などなど、さまざまな問いが派生し、これらをきちんと言語化しようとすると、とても難しいことに気づきます。
 
メディア・デザインの方法論ではこれらの課題を、「ペルソナ」や「ジャーニーマップ」といった手法を用いて可視化していくのですが、大切なのはこれらの手法の使い方ではなく、他者との対話を通して自分の主観的な視点を相対化し、俯瞰的に課題をとらえなおすことです。さきほどの例では、「いいね!」がシェアされてしまうことを不満だと思った理由は、その学生が「いいね!」をあくまで自分自身が後で見返すための印のようなものとして使っており、自分が「いい」と思ったことを他人に知らせたいわけではないからだ、ということが対話の中からわかってきました。他の学生が「それはお気に入りだね」と解釈をすることで、SNSの機能ひとつとっても多義的に使われていること、人によって使い方が異なることが理解できます。ささいなことですが、このような対話を繰り返すことで初めて、メディアの特性や本質が見えてくることもあるわけです。
 
次の関門は、その課題を解決するために、どんなデザインにすればよいのかを考えて実際に試作する「プロトタイピング」です。ゼミでは、「ペーパープロトタイピング」という、手書きのスケッチをつかってスマホの画面をシミュレーションする方法を実践しました。グループ内である程度解決策のイメージが合意できていても、実際に画面を制作するとなると考慮しなければならないことがたくさんあることに気づきます。他の機能との整合性や、迷わないための配置の仕方、新しい機能の動作をどのように説明すべきか、など、これまで考えたことがないことを議論しながら決めていかなければなりません。
 
最後は、他のグループのプロトタイプを実際に操作してみて相互にフィードバックを行うのですが、苦労して作り上げた解決策が「これって他のSNSのあの機能と同じだね」という議論になってしまうこともしばしば。いわゆる「車輪の再発明」です。もちろん、新しい解決策を提案できたケースもありますし、再発明だって立派なデザインです。大事なことは、何かを解決するためには、当初漠然とイメージしていたよりもはるかに緻密で、はるかに多岐にわたる考慮をしなければ、デザインが成立しないという体験によって、多くの学びが得られるということです。それによって、今社会にある多くのメディアが、普段考えているよりもはるかに複雑な構築物としてデザインされていることを想像できる力が身につくのです。
 
1)ジャーニーマップを使って課題を整理する様子
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2)作成中のジャーニーマップ
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3)作成したペーパープロトタイプ
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4)プロトタイプをテストする様子
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