社会学部ゼミブログ

2020.12.15

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リモート授業ならではの「豊かさ」

ブログ投稿者:メディア社会学科 教授 奥村 信幸

震災の翌日に発行された壁新聞のことを話す、石巻日々新聞・元編集部長 武内宏之さん
リモート授業は、そんなに悪いことばかりではありません。かえって多彩なゲストを呼ぶことができるのです。離れていたり、忙しかったりして大学に来てもらえなかった人もオンラインでなら話が聞けます。

 

12月9日、宮城県石巻市の「石巻日々新聞」の元記者、武内宏之さんが3年生ゼミに来てくれました。2011年の東日本大震災の時、手書きの壁新聞を作り、避難所に貼り出し。世界的に有名になった新聞社です。彼は当時の編集部長、記者をまとめる責任者でした。

 

3年生のおくむらゼミでは毎年、石巻市や仙台市などを訪ね話を聞く研修をしてきました。この大学の学生のほとんどは東京周辺の出身で、被災地をよく知らずに育ちました。現地のメディアや語り部の話を直接聞くことで、復興の苦労を理解したり、自らの防災意識に役立てたりしてほしいと思い続けてきたものです。

 

しかし、新型コロナウィルスの影響もあって、ことしは直前でキャンセルしなければなりませんでした。しかし武内さんにお願いしてZOOMに初挑戦してもらいました。

震災当時、輪転機が水没し新聞が発行できなくなった際に、無事だった新聞用のロール紙を切り取って手書きの新聞を作り、避難所に届けたという、ジャーナリズムを体現した活動の当事者から直接話を聞けるということに加え、それから10年が経っても、「こころの復興」という大きな課題があるという話が印象的でした。

 

お年寄りが仮設住宅からマンション型の復興住宅に移ったら、玄関の出入り以外に全く人と顔を合わせることがなくなり、かえって孤独感が増してしまったとか、東北の人特有の「我慢強さ」で、長らく津波などのトラウマを隠していたため、今でもフラッシュバックに悩み続ける人の話など、地元に寄り添って取材してきた記者ならではのエピソードがたくさんありました。

 

2011年3月11日の石巻は雪の後、一面の星空が広がり、かなり冷え込みました。新型コロナウィルスの感染が一段落したら、現地を訪れ、あのときの寒さを思いながら、改めて話を聞ける機会があればと願っています。

毎日新聞運動記者の丹下友紀子さん。 横に赤ちゃんを寝かせながら話してくれた。
11月10日の1年生ゼミには、毎日新聞でスポーツを担当する丹下友紀子記者が来てくれました。入社10年目で取材に大忙し、なかなか大学で話してもらえるようなまとまった時間が確保できませんでした。彼女は現在産休中なので、育児の合間をぬって福岡からのZOOMです。

 

彼女は私の元の勤務先である京都の大学で、私のゼミに所属してニュース映像制作などに取り組んでいました。現在ライフワークにしているサッカーで、材料が乏しいと思っていたJ2のチームに、男性のチアリーダーがいることを発見し、フィーチャーした記事を示して、取材のポイントを発見するためのヒントをたくさん提示してくれました。

大学では「自由にテーマを決めてごらん」と言われて、途方にくれてしまう学生も多くいます。高校までは学ぶ範囲も目標も決められているからです。ネタ探しに苦労した、「同じ経験を持つ、少し年上の先輩」から聞くアドバイスは大きな効果があるのです。

 

ゼミの卒業生が、こうしてコーチになってくれる機会をもたらしたのも、リモート授業だからこそ、とも言えます。