社会学部ゼミブログ

2018.07.13

  • 社会学部
  • メディア社会学科

新雑誌創刊というハードル

ブログ投稿者:メディア社会学科 教授 小田原敏

方法論ゼミは、旧名称では制作実習といっていた。大学の実習は、単に何かができるための使い方や技術だけを修得する、というものは実は少ない。この方法論ゼミでも、単に写真撮影の他に、PhotoshopやIllustratorの使い方を修得するという部分は、全体のごく一部に過ぎない。多くは、雑誌メディアの実状をきちんと把握し、そのジャンルの代表誌をいくつか試買して内容分析をし、どのような特色を持ったどういう雑誌があり、新たに出版するとすればどういうものが可能なのか、まず現実的にリサーチ、分析し、企画を立てるところにある。

そうした現実の科学的な分析の上に、自分たちの企画が成立するかどうかをシビアに検討し、その先にはじめて広告出稿獲得を想定した創刊準備号の制作があるわけだ。学生たちは、雑誌の「制作(実習)」を選択したつもりで始めるが、最初の調査や企画の大変さ、厳しさに驚き、「こんなはずじゃ・・・」と半分後悔する。しかし、現実の雑誌の成り立ちや、マーケットの変化、お金を払ってまで見てもらえるものは何なのかと考え続け、この企画ならいけそうだと制作に入り、表紙の撮影や画像処理など頭と手を組み合わせて動かすようになると「なんか、おもしろくなってきた」と感想をもらす。それは、面倒な作業からおもしろい作業に移ってきたというニュアンスではない。手を動かすだけのままごとではなく、まるで実際の出版社でインターンでもさせてもらっているような緊張感、現実感や、制作自体に意味のようなものを感じ始めた、というふうなものだ。

企画会議で評価の高かったものを紹介すると、

「俺の育児」:育児雑誌は女性向けがほとんどで記事中に男性があったとしてもメインではない。この雑誌は最初から男性(パパ)をターゲットとし、書店の男性誌コーナーに置かれることを目指す。「俺の離乳食」や、「平日、子供とできるおうち遊び」などの特集記事を想定。

  • 「JOBWAY」:新感覚おしごとマガジン。どんな仕事にどんな人が携わっているのか誰もが知っている職業から、意外に知られていない仕事まで徹底調査。創刊準備号は「佐川男子」を特集する。
  • 「レトロ」:「懐かしい」を探しに行くマガジン。学校給食、駄菓子屋さん、老舗レストランなど、大人が子供になれる時間を提供する雑誌。

このほか「アニメ聖地巡り」もあるが、こちらは最初の企画(単純にロケ地めぐりを中心とした雑誌)そのものズバリが事前リサーチ後に発行されていたことが判明し、急遽路線変更したもの。こういう紆余曲折も現実社会での創刊を前提としているからこそあったトラブルであり、得られた教訓は大きい。

ここに掲載した表紙案は、企画段階でイメージを共有するために提出されたもので、これを元に各グループは写真やアニメを用意してきた。現在は、丁寧に撮影された写真、時間をかけて作成したオリジナルロゴを組み合わせて、創刊準備号(表紙)制作の終盤となっている。

  • 「制作も最終段階で多くの作業をこなさなければならない」
  • 「Jobway」:手書きのイラス トにPhotoshopで彩色した
  • 「Animation Japan」外国人向 けの聖地巡り専門誌
  • 「Retro」:実際のレトロ ショップを取材撮影した
  • 「Papa Mama Life」:最初は 「俺の育児」という完全男性 向けだった