社会学部ゼミブログ

2018.03.02

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  • メディア社会学科

公共広告を制作して身につく力とは?

ブログ投稿者:メディア社会学科 教授 中橋 雄

2017年度、2年生のナカハシゼミは、公共広告CMの制作に取り組みました。なぜ社会学部メディア社会学科にCMを制作するゼミがあるのでしょうか? CMクリエイターを養成するため?・・・ではありません。たしかに、ゼミで興味をもちCM制作会社に就職した学生もいますが、授業の目的は別のところにあります。授業内容を紹介するので、どのような力が身につくのか考えてみてください。
制作活動は4人1チームで行います。まず、自分たちで公共広告のテーマを決めます。社会学部では、社会問題について扱う授業も少なくありません。現代社会において、誰に向けて、どのようなメッセージを発信することに意義があるのか考えていきます。「ゴミのポイ捨て」といった以前からある問題だけでなく、「ブラックバイト」「スマホ依存」「セクシャルマイノリティに対する理解不足」といった現代的な課題に注目し、詳しく調べるチームもあります。
テーマを決めたら絵コンテ(CMの設計図)を描き、企画コンセプトを論理的に説明できるようにします。ゼミの仲間で相互評価して企画に磨きをかけていくだけでなく、広告会社に勤務するゲスト講師(実はナカハシゼミの卒業生)を招き、プロの目で評価してもらいます。一線で活躍するプロのアドバイスからは、仲間から得られるものとは異なるものの見方・考え方を得ることができます。
その後もチームで議論を重ね、企画を磨きあげた上で映像を制作します。デジタルビデオカメラでの撮影、アニメーションを作るための描画、ナレーションの録音、BGMの制作など、企画に応じて素材を揃え、コンピュータで映像を編集します。CM形式30秒という短い時間の中で、見た人が記憶して行動に移すほどのメッセージを構成することは、簡単なことではありません。何度も仲間と話し合い、試行錯誤して映像を制作していきます。
ゼミ生の作品からひとつ紹介します。急いで目的地に向かっている主人公。道中、道を尋ねられたり、自転車が倒れているのを発見したり、迷子と遭遇したりするのですが、「他の誰かが解決してくれる」と考え、無視して走り去ります。そうしているうちに自分が転んで立ち上がれなくなってしまいます。まわりに助けを求めるのですが、まわりの人も「誰かが助けるだろう」と考えて誰も助けてくれません。最後に「誰かって誰ですか?」というメッセージが表示されます。困っている人を助けるということが、人と人との関係性の中でやりにくくなる時があり、一歩踏み出す気持ちが大事だということを伝えようとする作品です。
公共広告は皆が暮らしやすい社会を目指して公共的なメッセージを発信するものです。公共広告を制作する経験は、あたりまえになってしまって普段は気づくことができない身の周りの問題について深く考える機会を与えてくれます。また、その課題解決のために、公共広告のようなメディアがどのように構成され、影響力を持ちうるのか体験的に学ぶことができます。このゼミの学習目標は、公共広告制作を通じて社会問題が生じる構造を読み解く力を養うとともに、メディアの特性について学ぶことにあるのです。