社会学部ゼミブログ

2008.07.27

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18歳にも投票権を!?

ブログ投稿者:社会学科 中西祐子

18歳にも投票権を!?

このところ、日本でも「成人年齢を引き下げたらどうだろうか?」という議論があること、みなさんは耳にしたことがあるでしょうか?
現在日本では「成人」といえば20歳のこと。これを18歳あたりに引き下げるべきではないか、という議論があるのです。

さて、今年度前期、私が担当していた1年生の社会学基礎ゼミでは、「“20歳成人”を問う」をテーマにディベートを行うことから始まりました。

社会学基礎ゼミでは、社会学の基礎的な知識を学びつつ、「ゼミの武蔵」で4年間勉強するために不可欠な、ゼミでの発表、議論、司会などのスキルも習得します。
その回のゼミでは、あえてゼミのメンバーを「成人年齢を18歳に引き下げること」に「賛成」のグループと、「反対」のグループの2つに分け、それぞれの立場からその理由を論じてもらう「ディベート」と呼ばれる方法で議論に取り組んでみました。

1 年生のゼミですから、メンバーのほとんどが18~19歳。つまり、現在の日本の法律の下では「未成年」となります。まだ投票権を持ってないだけでなく、お 酒も・タバコもダメ、さらにいえば、悪いことをしても成人とは異なり「少年法」で裁かれるという微妙な年齢でもあります。
こうした、ちょうど議論の対象になっている年齢層にあたる人たちが、いったいどんな意見を持っているのか、私のほうも楽しみにしながら、議論の進行を見守っていました。

まず「賛成派」の意見から紹介しましょう。
①高校を卒業したら就職し社会人になる人もいるから、18歳から投票できるようになるのは良いのではないか?
②諸外国でも、18歳ですでに投票権を与えている国がたくさんある。
③最近、未成年の凶悪犯罪が増えている。成人年齢を引き下げて、刑を厳罰化することが良いのではないか?

続いて「反対派」からは次のような意見が出ました。
①年齢別投票率を見ると、20歳から投票できる現在でも、20代の投票率は必ずしも高くない。18歳に投票権を拡大したところで投票に行く人は少ないのではないか?
② 諸外国では、小中学生のころから、実際の国政選挙を素材にした授業が行われたりするらしい。一方、日本では、社会科の授業で知識として扱われてはいるけれ ど、それは教科書にかかれたことを丸暗記しているに過ぎない。投票権をもらった18歳に、十分な判断ができる知識があるだろうか?
③お酒やタバコは身体に悪い。なにも18歳から許可する必要は全くない。

さて、ここからディベートで重要なことが始まります。それぞれの立場(意見)は決まっているわけですから、どちらがどれだけ自分の立場を論理的に説明し、相手に自分の立場を納得させることができるかが勝負になります。

と ころで、この授業の間でも、「成人20歳を問う」といった場合、それが選挙権のこと、少年法のこと、お酒・タバコの禁止年齢のこと、とテーマが多方面に拡 散していきかねないことがわかってきました。実は、全てのことがらに同じ年齢基準を当てはめて議論をする、ということは意外に大変で、何のことを取り上げ て「賛成」「反対」なのかを整理する必要があるのです。
そこで、以下では、ゼミの中でも議論の中心となった「選挙権」のみについて取り上げ、その後のディベートの流れを紹介しましょう。

まず「反対派」は「賛成派」の最初の意見に対して、次のような発言をしました。
・18歳といえばまだ一部は高校生である。高校生の中で、投票ができる人とできない人が混ざっていると、学校内でも混乱が起きないか?

これに対して「賛成派」は、「反対派」の2つめの意見に対しても含めて、次のように発言しました。
・まだ一部高校生である18歳に選挙権を与えることによって、逆に高校の授業などでは、選挙についての勉強が行われることになるだろう。だから、制度を変えれば、教育内容が変わって、みんなが知識を持てるようになり、結果的に投票率が上がることにもなるのではないか?

続いて「反対派」は次のような事実も見つけたと、報告してくれました。
・ ヨーロッパのある国でも、昔、選挙権が20歳からだった法律を18歳に変えたことがあったらしい。しかし、これは当の若者たちが選挙権を求めて運動した結 果だったという。これに対して現在、日本で行われている議論は、大人からの「押し付け」で、若者たちの投票意識が高いわけではない。単純に諸外国の真似を すればよいというわけではないのではないか?

一方、「賛成派」は、次のようにも言いました。
・自分たちが見つけたある調査では、10代の若者に「選挙をしてみたいか?」と聞いたところかなり多くの若者が「してみたい」と答えたらしい。つまり、現在投票権がないものの、「投票をしたい」、と思っている若者は多いのである。

これに対して、「反対派」は次のようにも反論しました。
・自分たちが見つけた10代後半に聞いた調査では、「選挙権を18歳に引き下げるべきか?」と聞いたところ、かなり多くの若者が「その必要はない」と答えたらしい。

・・・こんな感じで1時間、双方譲らず、ディベートは進行したのでした。。。

(な お、最後の2つの「調査結果」の矛盾は、双方の調査の方法、対象、質問の仕方などが微妙に異なることが生んだものと考えられます。その原因を確かめるため の「社会調査リテラシー」もまた、社会学科の学生たちが4年間を通じて学んでいく知識なのですが、ここではその説明については省略します。)

さて、高校までに経験してきた「学級会」とは異なり、ゼミというものは、議論が平行線をたどり、時間内に結論が出ないことが度々あります。ゼミを初めて体験する1年生には、これが結構ストレスにもなるらしいのですが、ゼミでの議論というのは本来、そういうものなのです。
も ちろん、意見が一方向にまとまっていく日もあります。ですが、議論が多方面に広がってしまい、収拾がつかなくなるゼミになることのほうが多いかもしれませ ん。しかし、議論を通じて、参加者一人ひとりが、多様な「ものの見方」があることに気づき、次に自分で考える機会につながれば良いものなんだろうと私なん かは思っています。

今回の基礎ゼミでは、ディベート形式で行ったこともあり、最終的にみんなの意見が一つにまとまるというものではありませんでした。

ですが、こうしたことは、今後、社会学をやっていく上で、非常に重要な体験でもあるのです。人と自分が異なる「ものの見方」をしてること、最初は「なんとな くこんな感じじゃない?」と思っていたことを、実際に調べていくうちに、どんどん異なる事実が発見されることもあるということ。「知れば知るほどほど、下 手なことは言えなくなる」と口にしていた人もいました。

社会学を始めたばかりの1年生は、こうしたゼミでの議論を積み重ね、少しずつ、「社会学的なものの見方」を身につけていっているのかもしれません。

ところで今回のテーマ、「成人を18歳に引き下げるべきか否か?」についてですが、ディベート終了後、あらためてみんなの「本音」を聞いてみました。そうしたところ、私のゼミでは「投票は20歳からで良い」という人がかなりを占めていました。
「やれるもんなら、投票してみたい」ってはっきりと宣言していた人はたった1人だったかな?

結構、みんな、消極派だったんですね・・・(笑)

さて、このブログを読んでいる皆さんは、どう思いますか?

※ 下の写真は、前回、2004年秋のアメリカ大統領選挙の時、ある大学キャンパス内に設置された投票所の入り口にあった案内版です。アメリカの大学生は、自分の大学のキャンパス内で、授業の合間に投票をしに行っているみたいでしたが・・・ もし、武蔵大のキャンパス内に投票所があって、20歳以上の先輩たち が投票している姿を目にしていたりしたら、1年生たちの意見はどうなっていたんでしょうね?