リベラルアーツ&サイエンス教育ブログ

2021.09.08
- 武蔵One Point自然観察
イチョウ雄花の豪雨 (Now 武蔵の自然 No-40)
ブログ投稿者:基礎教育センター 教授 丸橋珠樹
秋に黄色く紅葉するイチョウを知らない人はいないし、落ち葉を拾って遊んだ人も多いことでしょう。でも花を知っている?と聞けば、え?と思うに違いありません。イチョウには男木と女木があり、雄花は途方もない数咲き、ひと時に落下します。花粉は虫ではなく、風にのって散布されるので、確実に受粉するには花粉数を増やすことになります。



雌花は秋に実るので落下してくることはまずありません。花といっても花弁があるわけではありません。花粉を受けるとその内部に取り込んで、夏までじっとすることになります。イチョウは松、杉、モミノキなどが含まれる裸子植物です。ほとんど全ての裸子植物は花粉で受精しますが、イチョウやソテツは精子が形成されて受精します。この植物学上の大発見を成し遂げたのは明治時代の日本人でした。初夏になり若い果実が膨らんでくると果実内部に水がほんの少し溜まり、その中に取り込まれていた花粉から生成された精子が放出され遊泳し卵子と受精するのです。



イチョウの精子発見を論文にしてヨーロッパの学術雑誌に投稿したのですが、最初は疑われてしまいました。裸子植物の受精に関しては、それまで数多くの観察と研究が積み重ねられ、誰一人として精子を観察した人はいなかったのですから。しかし、日本の研究者の指摘通り精子が発見されたのです。次いでソテツの仲間でも精子発見が報告されたのです。
植物が上陸する以前の進化段階の植物では、水へ放たれた精子が卵子へと移動して受精します。陸上植物へという進化の大躍進以前の姿を未だに残しているのがイチョウです。明治期に大発見がなされたイチョウの木は、今も小石川植物園に残されているので、ぜひ一度訪ねてみてください。

木肌は樹種を知る手掛かりの一つです。イチョウの樹皮は触れるとふかふかした感じとても暖かく感じます。きっと剥げ落ちないで、長年月樹皮として積み重なっているのでしょう。木の肌に触れてみてください。
お寺や学校にしばしば植えられているのは、火災の際、イチョウは燃えにくく延焼を防ぐ効果があるためです。落ち葉も燃え上がるというよりは、白い煙をあげながらくすぶるくらいです。また、美しい樹形と燃え盛る紅葉は、多くの人が集まる場所にふさわしいシンボルです。銀杏の匂いが嫌われて街路樹には男木が植えられています。