リベラルアーツ&サイエンス教育ブログ

2019.03.19

  • 国東農業研修

前入り研修 2日目 農作業体験 古谷凪沙(2018年実習-33)

板の上に作業靴が括り付けられている。これを履くことで、畑の上を歩いても土がでこぼこにならない。古谷凪沙撮影
2日目の午前中は長廣さんが作っているねぎのビニールハウスを見せていただいた。奥行70メートルあるビニールハウスが全部で23棟並んでいた。ハウスの中のねぎの状態はすべてが同じなわけではなく、種を植えたばかりのビニールハウスやねぎがかなり成長しているビニールハウスなどそれぞれであった。ねぎは1年の間いつでも何度でも作ることができるため、ハウスごとに成長段階をずらすことで常に出荷ができるように作っているのだそうだ。1年中できるといっても季節により成長スピードは異なるため、季節を考えて種まきの時期を調整したり、まく種の量を考えたりする必要がある。当然のことだが、ただ種をまけばいいということではない。このねぎを育てる土壌作りも大変な作業である。ハウスの土には大きな石がないが、これはねぎを育てるうえで邪魔なため土を作る段階ですべて取り除いている。そもそもハウス内で奥行き70メートルもの土を盛るだけでも大変な作業なのだが、そのほかにも土をすく作業や植物の種や虫を殺すための消毒を行う必要がある。
種まきの機械。菜々子と書いてある真っ黒な部分はねぎの種が入っている。古谷凪沙撮影
この日は種まきの様子を見せていただいた。ねぎの種はとても小さいため種まき専用の機械を使って行う。機械を転がすと自動で種が出て、さらにその後ろのローラーが土をかぶせ、均すという仕組みだ。機械は種をまく幅を自由に調節することもできる。畑と聞くと盛り上がった列がありそこに作物が植わっている風景を想像するが、この小ねぎは真っ平らな土壌に種をまく。でこぼこしていると発芽しにくくなるからだ。そのため、種まきの時も人間が歩いた跡ができないようにするため、木の板の上に長靴を括り付けたものを履き、歩いても跡がつかないようにしていた。また、水やりも実演してくださった。ハウスの両端と中央の上部に通っている鉄パイプは水やりをするためのものであり、ここからシャワー状に水が放出される。人の手での水やりと違い、ムラなく一度に水をまくことができる。
昨年は長廣さんと横山さんの作業を体験させていただき、調整作業や根洗いの作業は行ったが実際にハウスに行くのは今回が初めてだった。作業について話を聞いたことはあったが、実際に自分の目で現場を見てたくさんの工夫や設備に驚き感心し、なによりたくさんのねぎがハウスの中いっぱいに育っている姿を見て感動した。私たちが毎日食べる農作物は本当にたくさんの手間と労力と工夫が詰まっているのだなと改めて思った。そう考えると調整作業で落としてしまう葉に対して、せっかくここまで育ったのにもったいない!という気持ちが強まる。
  • 芽が出たばかりのねぎ。小さくひょろっとしていて道端に生えていたら雑草と区別がつかない。古谷凪沙撮影
  • 種をまいたそばから鶏に食べられてしまう。古谷凪沙撮影
厚田さんの牛舎。写真に見える牛は全てメスの牛である。古谷凪沙撮影

ハウス見学のあと、長廣さんの同級生で畜産農家の厚田さんの下で酪農の現場を見せていただいた。厚田さんと息子さんの健太郎さんが説明をしてくださった。牛舎に入ると中にいるたくさんの牛に思わずたじろぐ。野生の牛は集団で行動をしているため、少しでも見知らぬ顔があると警戒する。たくさんの牛が私のことをじろじろ見ているのは野生時代の本能が働いているのだ。

 

牛舎の牛は全部で78頭、ほとんどがメスの牛である。牛乳はメスの牛からしかとれず、そもそも子供を産まなければ乳は出ない。こう聞くととても当たり前のことだが、恥ずかしながら私はその話を聞いてそうなんだ!と驚いてしまった。なんとなく、全部の牛からいつでも牛乳はとれるというようなアバウトなイメージが頭にあった。こんなことも気が付かなかったのかという驚きが隠せない。最近、魚は切り身の状態で海を泳いでいると思っている子供たちが多いと聞いて、いやいやそれはさすがにないでしょう、なんて思っていたが、全く同じことである。生産の現場を何も知らずにただ消費することの恐ろしさを思い知った気がした。実際に自分の目で見て理解することの重要さを改めて感じる。

これほど細く小さなケースに牛の精液が入っている。見せていただいたのはアメリカ産のもので、証明書がついている。古谷凪沙撮影
生まれたオスの牛は成長すると肉牛として売られることになる。ではどのようにメスの牛たちは出産をするのかというと、すべて人工授精が行われているそうだ。精子は海外から買っている。細長い1本の棒のようなケースに入っていて、まるで詰め替え用の色ペンが入ったケースのようだった。この中にたくさんの精子が冷凍されているなんて思えない。また精子を選ぶ用のカタログも見せていただいた。カタログ内にはたくさんの牛の写真とその牛の品種や家系図、生産者などが事細かに記載されていて驚いた。牛の写真の横に肉の写真が載っているのを見て何とも言えない気持ちになった。

この日はその他にも牛についての話をたくさん伺った。牛の体格の話や牛の目は320度も見えていること、外国産のえさのこと、スーパーの牛肉に書かれている個体識別番号をネットで調べるとその牛の情報が出てくることなど、知らないことだらけで新しい世界にとてもわくわくした。帰り際に毎日朝と夕方、2回の搾乳を行っている話を聞いた。この搾乳作業、時間が合えば見学しにおいでと言ってくださったが、この日の夕方は1日早く国東半島に来ている丸橋先生、市役所の都留さん、いつも研修でお世話になっている越名さんと夕飯を食べる予定があったため見学ができなかった。しかし、どうしても現場を見てみたいという気持ちが抑えられず無理を承知でお願いし、翌日の早朝、ほかのメンバーと合流する前に搾乳の体験をさせていただけることになった。貴重な搾乳体験については3日目の朝の記事として詳しく書く。

 

長廣さんのお家に帰り昼食を食べ終え雨が止むのを待つ間、国東半島で1か月間おもいやり市が開催されることや昔の研修はどのようにやっていたか、武蔵大学の学園祭である白雉祭で昔はどのように農業研修メンバーが参加をしていたのかなどの色々な話をお聞きした。特に驚いたのは、昔のこの研修では研修生にアルバイト代として500円が出たということである。交通費などもすべて当時の武蔵町が負担をしていたらしい。昔のこの研修は毎年20人ほどの参加者がいたから、かかる金額は計り知れない。昔のこの農業研修は参加したことがないためわからないが、少人数で様々なところを回りたくさんの話を聞き体験することができる今の研修形態のほうがより濃い時間を過ごせているのではないかと思う。

 

お話しした後は長廣さんの奥さん、三重子さんとゴマ豆腐を作った。ゴマ豆腐を作ろうと言われたときは、え、豆腐って作れるの?と半信半疑だったが作り始めたらあっという間にできてしまった。やったことはミキサーにかける、火にかけ練る、バットに流す、冷すという作業のみ。材料もくず粉、白ごま、水だけなので驚きだ。あまり料理をしない、できない私でも簡単にできてしまった。火にかけ練っているとさらさらとしていた液体がだんだんねっとりとした重い感触になり思わず、おおー!と声がでた。ゴマのいい匂いが台所に立ち込める。夜ご飯に食べたがおいしいと好評だった。「古谷さんが作ったのすごい!」と皆さんが言ってくださったが、正直あまり作ったという実感がわかないくらいに簡単でおいしいお手軽料理である。ぜひ家でも作りたい。

 

 

雨が止んだので外に出てプランターにキャベツ、白菜、キュウリの種をまいた。苗を育てる専用の土に水を入れ、泥状にする。久しぶりに土に触れて子供時代に戻ったような気分になった。泥状になった土をプランターに詰めたら種を入れる用のくぼみを作るのだが、種が小さいためくぼみが深すぎると芽が出にくくなってしまう。種のことをよく考えずに穴をあけ種をまいたのでかなり深くなってしまい目が出ないのではないかと心配したが、2日後、ちゃんと芽が出てくれて安心した。種まき一つ、よく考えて行わねばならないのだと改めて思った。

 

そして夜、研修メンバーよりも1日早く前入りをしている丸橋先生が長廣さんのお家に到着。夜ご飯は長廣さんと長廣さんの息子さん、丸橋先生だけでなく、毎年研修でお世話になっている市役所職員の都留さん、毎年前半の研修の面倒を見てくださりともに旅する越名さんもいらっしゃってにぎやかなものとなった。

  • 研修前日の夕食会は賑やかなものとなった。三重子さんの美味しい手料理が所狭しと並ぶ。撮影日時: 2018:09:01 18:42:12
  • 長廣さんと息子さんを囲んで都留さん、越名さん、古谷で晩御飯。撮影日時: 2018:09:01 18:42:20