リベラルアーツ&サイエンス教育ブログ

2019.03.19

  • 国東農業研修

研修旅行レポート はじめに 丸橋珠樹(2018年実習-01)

ブログ投稿者:丸橋珠樹

ラパロマの中野さんたちと工房で記念撮影。撮影日時: 2018:09:01 12:37:23

今年の研修旅行では、研修全体よりも一日早く国東に前入りし、都留さんの案内で国東芸術祭のサイトを幾つか訪問しました。トレール沿いの彫刻や岩陰遺跡と一体化した作品などをみせていただきました。集落をドライブしていて、お蚕さんを飼う施設にしては小さいが、屋根に小さなでっぱりがついている建物があったので教えてもらうと「たばこ乾燥小屋」とのことでした。次々に農産品も移ろいながらムラの歴史が土地に刻まれていることを納得しました。他所でも少し見かけました。見えるようになると見えるということです。学生たちにも、この研修を通じて、新しい体験や経験を深め、色んな事柄について、見え始めて欲しいと願っています。

 

雨のなか、陶器・ガラス工房の中野さんを訪ねました。村おこしのプランニングのお話のなかで、小さな集落単位で共有される「しこな」というムラ歴史や営みが刻まれている地名を、生産されるお米のラベルに付けているということを教えてもらいました。ムラの井堰の名前も同じように、お米の生産には欠かすことのできない、生きている世界と歴史を貫く基盤情報ともいえます。少ない水を賢く使う水路体系・分配システムとその社会的管理技術がムラの社会関係の礎となっています。

昨年も書きましたが、国東半島宇佐地域は、平成25年(2013年)に世界農業遺産に登録されました。そのコンセプトは「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」~森の恵みしいたけの故郷~です。千年の時を刻む「田染荘小崎の農村景観」は、平成22年(2010年)に国の重要文化的景観に選定されています。学生たちには聞きなれない、これら二つの意義と歴史的背景を学ぶとともに、現代農業のなかでの生産者の生き方を知ろうというのがこの農業研修の目的です。

 

今年の研修期間中は、台風が九州地方を襲うこともなく、天気に恵まれました。とはいえ、研修期間中の台風は関西地方に、かつてない大被害をもたらしました。お聞きすると、研修まで雨が少なく、昔だったら旱魃といってもよいくらいとのことでした。地球温暖化の影響なのかも知れません。

 

前入りした学生がぜひ乳しぼりをしてみたいということで、厚田さんの牧場にお邪魔しました。毎年、食体験ではここの牛の濃い牛乳をいただいていますし、何年か前には、学生たちと牧場で研修したこともあります。わずか一人の学生、そして、突然のことに親切に対応していただきありがとうございました。

 

里の駅むさしでは、藤原さんから「平成29年度6次産業化推進協議会から奨励賞、資源活用アイデア賞をもらった」と教えていただきました。有機栽培トマトを主体に生産し、「トマトカレー」は人気メニューとなっています。今後は、施設を増築し加工品にもっと力を入れていくとのことでした。生産、加工、販売などの流れの中で、活発に斬新なアイデアを創り出しながら事業を進めていました。「そろそろ後継者に引き継いで、自分の人生を豊かに暮らしたい」ともおっしゃっていました。

 

西の登呂遺跡、東の安国寺遺跡と言われる弥生時代の代表的な集落遺跡にある体験館を訪問しました。鏡を磨き、銅鐸を作りました。藤本啓二さんによる鬼の講話は、国東特有の信仰の一つとして、学生たちの心に深く残ったことでしょう。

 

丸小野集落、長廣さん方での交流会には、三河国東市長さんも加わり、学生たちとも気軽に意見を交換していただきとても感謝しております。翌日には市役所に表敬訪問にうかがい、市を牽引し変革しつづける力強い施策を聞かせていただきました。

 

米から酒をつくる工程のお話を萱島酒造平野さんから聞かせていただき、試飲も楽しみました。萱島酒造は、吟醸酒、古酒という新しい日本酒文化の発信源であることを教えていただきました。

 

七島藺生産農家松原さんを訪ね、昔使っていた割き器を使う作業を体験しました。乾燥場で、刈り取ったばかりの七島藺や乾燥した畳表のさわやかな香りに包まれて、産業を復活させた思いとこれからについて、色んなお話を聞かせていただきました。この産業に新規就農した淵野さんから、動機とその後の展開についてお話をしていただきました。お別れには、奥様の手作り細工の小さな馬と作業場の方々が料理した石垣餅を沢山お土産にいただきました。

 

その後、伝統工芸士岩切さん指導で、ミサンガを作りました。私たちへの指導が終われば、直ちに、ななつ星in九州の列車内で工芸体験指導をすることになっているとの、スケジュールの合間を縫ってのことでした。七島藺学舎細田さんから、七島藺生産の歴史、文化についてのお話をしていただきました。今年は、三浦梅園資料館をたずねる時間がとれず申し訳ありませんでした。ここで、国東市全域での研修に同行し、様々な支援をしてくださった越名さんと別れました。毎年、ありがとうございます。

 

田染の定宿「おふじ」に二晩泊まり、河野忠臣さんの詩吟や民謡の歌声が山端にひびいて夜が更けていきました。真夜中に学生たちは満天の星空を見上げ、宇宙のひろがりを感じていました。

 

田染の夕日観音、朝日観音に登り眼下に広がる棚田をみつめていると、人々が心に描くムラの風景とスケールを感じることができました。富貴寺では若い御住職から、寺のなりたち、信仰と修行、戦時中の爆撃のお話など、阿弥陀様を見つめながらゆったりとお話を聞かせていただきました。国宝大堂の畳は七島藺でできていて、心地よかった。

 

宇佐八幡宮にも参拝し、そのスケールの大きさに感嘆しました。廃仏毀釈が猛威を振るった極楽寺の址を抜けて、屋根のかかった勅使が通る呉橋で記念撮影をしました。お昼を食べようと大窪さんのねぎ焼き屋を訪ねたら、イベント準備で臨時閉店ということで残念でした。

 

大分県立博物館では、先哲資料館学芸員の櫻井さんから直接、多様な展示解説をしていただき、歴史と残されたものとの関係などを理解することができました。展示されていた長洲の御殿灯篭には驚きました。その後、平田井堰で平安時代の巨大土木工事を見学し、宇佐八幡など信仰拠点が持つ底力を感じました。今のような細分化された分業と違って、学問と実践と信仰とがあいまって存在した時代を感じました。

 

これまで田染で毎年、地元の歴史についての深いお話を聞かせていただいている河野了先生からは、かぼすをいただきました。学生たちが作った、おふじの河野忠臣さんご夫妻に残す色紙には、工夫がこらされ「\#平成最後の夏」と記されていました。時代が過ぎていくなあと、私も自らの年齢も振りかえる研修の日々でした。

 

最終日には安心院を訪ねました。翌日に最も大きなイベント「安心院ワイン祭」をひかえ、てんやわんやの松木さんに案内していただきました。中山ミヤ子さんが経営する船板昔ばなしの家では、ゆったりと昼食を楽しみました。ジビエや野菜、どじょうなどの美味しいご飯をいただきながら、戦争の話、農家民宿の経緯などについて、人と人とのまじわりのエピソードにも心を打たれました。

 

研修後、旅を続ける学生たちを見送りに杵築駅に到着すると都留さんと全く偶然、ばったりと出会い、感謝を述べることができて、奇縁を感じました。国東半島での農業研修を終え、その夜は武蔵大学同窓会大分県支部の方々と懇親会を大分市で楽しみました。研修を終えて旅を続ける学生3人と毎年お世話になっている大分県立先哲資料館の櫻井さんも加わり、同窓会の役員の方々と昨年卒業し大分で就職している若者が参加しました。地方にも多くの武蔵大学同窓生が活躍している姿を現役の学生が知る良い機会となりました。

 

毎年続けていても、毎年新しい発見のある研修旅行です。それだけ国東半島の歴史と人々の営みが深いのだと実感しています。また、来年も新しい学生たちの成長の種をいただきに訪れますが、旅へのご支援とご協力をお願いいたします。

  • 煙草乾燥小屋のことを教えていただいた。撮影日時: 2018:09:01 15:18:11
  • 過ぎ去った農産物、たばこ栽培の最盛期の記憶を残す乾燥小屋。撮影日時: 2018:09:01 15:18:08
  • 国東半島芸術祭の展示の一つ、成仏岩陰遺跡の芸術作品。撮影日時: 2018:09:01 15:58:23