リベラルアーツ&サイエンス教育ブログ

2019.03.19
- 国東農業研修
研修後の個人レポート 木村渉吾(2018年実習-25)

私は小学校から高校まで、農業とは「大変な力仕事だから、食事ができることに感謝しなければいけない」と教わってきました。「農業のような第一次産業は、私たちが生きるために必要な食を支える仕事である。一方で、それに携わる人口は年々減少していて、日本の生産力は深刻な状況である」と聞いていた私は、農業に対してあまり良い印象を持っていなかったと思います。今までの私にとって、農業とはきつい労働だから働こうとする人が少ないというイメージでした。実際に、私は研修では農業体験をすると聞いていたので、体力的に付いていけるかが心配でした。腰をかがめた姿勢で作業したり、重い荷物を運ばされたり、服が汚れたりなど、嫌なことばかりなのだろうと勝手に想像していました。
しかし、実際に研修へ行き、農業体験や農家さんたちとの会話を通して、私にとっての農家のイメージは一変しました。訪れた農家でお話しを伺ったところ、ほとんどの農家さんが、農業は力仕事ではなくなってきたとおっしゃっていました。今日の機械化が進んだ時代では、農業は体力を使うのではなく、頭を使う経営仕事がメインだそうです。もちろん、全く体力を使わないわけではないですが、田植えや収穫などの田や畑においての、いわゆる「地味にきつい」仕事は、ほとんどが機械に取って代わられています。主な農家の仕事はというと、気候の変化と、時代の変化に、常に敏感に対応することではないか、と私は考えます。農家民宿おふじの一室に飾られていたミレーの「落穂ひろい」に描かれているような肉体労働は、もはや時代遅れなのです。
農業は天候に大きく影響され、特に台風は農家に大きなダメージをもたらします。今年の夏は台風が頻繁に発生していて、私が国東半島を訪れた時期も、ちょうど台風が来るというタイミングでした。どの農家さんも台風のことを心配していて、既に被害にあってしまった畑も多いようでした。ビニールハウスが少しでも破けてしまえば、その中のものはすべてダメになってしまうそうです。台風だけでなくとも農作物は、気温や湿度の些細な変化にでさえ影響されてしまいます。だから農家の仕事は、天気予報を毎日チェックし、それに合わせて行動することでもあるようです。しかし、やはり天気予報だけでは正確な情報が得られるとは限らないので、長年鍛えられた農家さんの気候感覚が大事になってくるのです。私はこれ以降、台風が日本に来た時には、電車の遅れを心配するだけでなく、農業への被害はどれくらいかということも頭によぎってしまいます。
もう一つ農家の仕事に、時代の流れに適応するというものがあります。例えば関税の問題で、昔は大分で盛んだったオレンジ農園が、今では跡形もなくなってしまったということもあります。農作物は時代とともに変化しますが、そこには消費者の動向が大きくかかわると思われます。私は、どの農家さんも共通して、消費者のことを第一に考えている、と感じました。特に農産品の見た目は重要で、消費者に手に取っていただけるように、形の悪いものや虫食いのものは一切ないように慎重に作業が行われています。こういったお客様第一の考えは、ある意味では当たり前のことのようにも感じられますが、生産者からすれば、加工・流通・販売の過程を通り越した先の、顔の見えない消費者の思考は想像しにくいのではと思ってしまいます。
消費者のニーズに合わせた作物を考えることは、時代の流れをよく理解し、最新の情報に常に敏感でいないと難しいのではないでしょうか。さらに、事前研修の段階で私が驚いたのは、生産者が、加工から消費者への販売までしてしまう、第6次産業という新しい農業形態があることです。このように、生産が消費に近づこうとしている構図は、当然のことのようで、新鮮にも感じられます。さらに、情報社会である今の時代、我々はネットやスーパーの売り場から、農家さんの顔を知ることができます。楽天やふるさと納税などを利用すれば、農家から遠く離れた場所でも、直接取引が可能です。このように現代の農業は、情報社会にも適応しています。また、私たちのように、東京から来る人たちを、農家民泊として受け入れている農家さんも多いです。これによって、東京に住んでいる人たちに農家の暮らしを知っていただくことができます。現代は、生産者と消費者の距離が密接な時代といえます。