リベラルアーツ&サイエンス教育ブログ

2019.01.31

  • 国東農業研修

前入り研修 長廣さんねぎ 古谷(2017年実習-31)

午後はまず栗剥きに取り掛かった。山積みの栗を包丁を使って剥いていく。あまり料理をしない私にとって包丁での栗剥きはとても難しく、何度も手を滑らせて手を切り、そのたびに悲鳴をあげていた。徐々にコツをつかんでスムーズに剥けるようになったころには約三時間ほどが経過。結局すべての栗の皮をむくことはできず途中で次の体験に代わることになった。栗の皮むきはただただ練習あるのみ!!また、私と平野さんで栗の皮をひたすら剥いている間、途中で抜けた渡戸さんは長廣さんと共にねぎの調整所へ。そこでは様々な人々が持ち寄ったねぎを一斉に調整作業を行う場所だという。

 

皮むきの作業を終えた後は長廣さんの畑になっているスイカを運び出す作業を行った。スイカはずっしりと重く坂道をあがるのも一苦労。スイカの近くには飾りカボチャもなっていた。そして種を植える作業では、キャベツ・白菜・ブロッコリー・きゅうりの種をプランターに植える。指で土に一センチほど穴をあけ種を三粒落とす。芽が出た後一番丈夫なものを残して畑に植え替え育てるそうだ。穴は深すぎると芽が出ず、浅すぎると水をかけた時に流れてしまうため適度な深さが大切だ。長廣さんから「早ければ二・三日で芽がでるよ。」といわれ、いくらなんでもそれは早すぎだろうと思ったが実際長廣さんのお宅を出発した三日後にはすでにたくさんの芽が出てきていたので驚いた。生命力の強さを感じた。

 

例年では研修二日目の午後に長廣さんご夫婦に教えていただきながら食文化体験をしていたが、今年は事情があり例年通りの予定ではできなくなってしまった。そのため前入りメンバーが食文化体験をすることになった。前入りをしていない皆さんに申し訳ないという気持ちもあったが昨年の先輩方のレポートを読んで楽しみにしていたためとても心躍る。私たちはうどん作りを体験した。うどんの生地の作り方はとても簡単そうに思えた。小麦粉に塩と水を入れてこねるだけである。しかしこれが難しい。生地はべちゃっとしていてなかなかまとまらず、手はまるで粘土で塗り固められた様になってしまった。途中で長廣さんにバトンタッチ。手を洗っておいでと言われ水道で手にこびりついた小麦粉を落として帰ってくると、なんと、さっきまでベチャッとしていた生地がまるで別物、綺麗に一つにまとまっていた。私があれだけこねてうんともすんとも言わなかった生地が一瞬にしてこれである。なんでも昔はどこの家庭にもうどんを作る機械があり、うどんを作って小分けにするまでが子供の仕事だったそうだ。当時の子供たちはみんなうどん作りのプロだったのだ。

 

さて、こねた生地を三分割し力強くこねた後は製麺機の出番である。製麺機はハンドルとローラー、歯車がついた小さな機械で、これ一つで麺を伸ばしカットするまでできてしまう優れものだ。昔は各家庭に置かれていたらしい。平たくした麺をローラーにセットしハンドルを回すと薄く延ばされた生地が出てくる。これを数回繰り返すと生地は薄く長く伸びる。これを今度はギザギザしたローラーにセット。回すと生地が麺状にカットされる。できた麺は一食分ずつにまとめてトレーの上に並べる。これを茹でればうどんの完成だ。そしてうどんの完成後、素早い慣れた手つきでもう一度小麦粉をこねはじめる長廣さん。なんでも「やせうま」という郷土料理を作っていただけるらしい。名前から全く想像がつかないこの謎の料理に三人の頭上には?マークの羅列だった。晩御飯でのお楽しみ、という事で午後の研修も終了した。ちなみに「やせうま」とは大分県の郷土料理で、うどんの生地を平らに伸ばし茹でたものをきなこで絡めたものである。

 

晩御飯には私たちが剥いた栗やうどん、やせうまが食卓に並んだ。奥さんが作ってくださったからあげは玉ねぎが入っており、さくっとからっととてもおいしかった。さすが大分県、家庭のからあげも美味しい!そしてご飯を頂きながら長廣さんのお話を伺う。百万円稼いで百万一円使う人よりも五十万稼いで一円残した人の方がよいといった生活力についてのお話や、カット野菜ではなくしっかり日の光を浴びて育ったちょっと硬めの野菜をたべなさいと言った話など様々なお話をたくさんしてくださった。どのお話も私の胸にぐさっと突き刺さるようなものであり、農業は何もないところから物を作りだせるものだというお話など、新たな面から農業について考えることができる夜だった。

 

遂に翌日は研修メンバーが全員そろうという事で久しぶりにみんなに会えることを楽しみにしつつ眠りについた。

  • 栗の皮むきのコツを教わっている。撮影:渡戸
  • 栗ご飯にやせうまは食体験で自分たちが下ごしらえしたもの。美味しい唐揚げやゴーヤの炒め物など、食体験の品々が並んでいる。撮影:渡戸

長廣さんメッセージ

研修旅行の出発前に、新聞社から武蔵大学広報室にこの研修の取材素材が欲しいとの依頼がありました。そのため、長廣さんに以下の二つの質問に答えていただきました。

 

Q. 学生の受け入れについて

A. 27年間の受け入れになりましたが、我が家では年中行事になっています。学生を受け入れる事では多くの人たちにお世話になり協力をもらい、恐縮もしていますが、丸橋先生の学生たちに少しでも多くのことを体験して学んでもらいたいという熱心さもあり、また、学生たちには国東を知ってもらう事と、短い時間ですが、農業体験を通して、農業のことを理解してもらえればと思っています。今後、生活して行く中で、思い出して少しでも役立つように願っています。

 

Q. 学生にどんなことを伝えたいか?

A. 毎年、新しい学生達が農業体験で農業を知ろうという目的で国東に来ていますので、私たちとしては、作物を栽培(作る)するとはどんな事をしているのか、又、出荷前の収穫、調整作業に約7割以上の時間をかけて消費者(お母さん方)のために、安心安全で見た目で美しく新鮮な野菜に仕上げています。出荷されないものも沢山出ますよ、そんな事で価格も高くなりますよ、と伝えています。

皆さんの健康のためには、出来るだけ太陽の光をいっぱい浴びた少し硬目の野菜を自分の家で調理して食べた方が良い。カット野菜はだめよ、ミネラルいっぱいの野菜は将来、女性には健康なこどもができますよということも伝えています。

地球上では現在、限りある資源をほとんどの産業が使い続けていますが、農業は何もない土の上に種子を播いて、育てて、多くの大事な食物を作りだしています。他の産業は資源を使い尽くすのでは等と話しています。日本は多量の仮想水も輸入している事も話しています。

 

 

この研修から学んで欲しい事柄 丸橋メッセージ

国東農業研修を通じて、食べ物は文化だと理解して欲しい。それだけでなく「良い人は皆親切だ」と社会への安心感を持って欲しい。そして、チャレンジする人物の情熱、その道の達人の人生の軌跡、信念を持つ人物と語ることを通して、世界は多様な事柄と人間で作られていることを知り、「自ら調べ考える」力を養って欲しいと願っています。

 

この研修を行うにあたっての希望というか狙いは以下の10点です。

1) 自ら参加し「自ら調べ考える」学生が学びたいと思う場を提供する。

2) 研修後、大学での学びへの強い動機付けに寄与する。

3) 人生のモデル「あんな人になりたい」人たちとの出会いの機会を与える。チャレンジする人物の情熱、その道の達人の人生の軌跡、信念を持つ人物と語る。

4)「良い人は皆親切だ」と社会への安心感を持って欲しい。

5) 「自然からしか学べないないこともある」自然との関わりに謙虚さが不可欠だと気づいて欲しい。

6) 時と場所を超えて人類社会はフラクタルな構造を持つことを理解し、世界で行動できる人材となって欲しい。

7) 人と語り合い、人を説得し、納得させる、言葉の力を磨いて欲しい。

8) 家族や友人に自信をもって語れる体験をして欲しい。

9) 研修を通じて「感謝と挨拶、協力と交流、責任と自覚」をもつ学生になって欲しい。

10) 研修を通じて生涯の新たな友人を得て欲しい。