リベラルアーツ&サイエンス教育ブログ

2019.01.31

  • 国東農業研修

9月5日火曜日の研修内容 並木(2017年実習-19)

河野さんから椎茸栽培のお話

 

農家民宿おふじでの忘れられない二日間の夜を思い出しながら、未だ眠気の残るまぶたをこする。居間へ向かい、丸橋先生と忠臣さんと洋子さん、それぞれに朝の挨拶をすませると、各々朝食の支度を手伝う。今朝の献立は鯖だった。軍鶏の卵をおいしく頂きながら、忠臣さんのしいたけ話に傾聴する。

 

中には、しいたけの品評会で、自分の作った覚えのない質の悪いしいたけが何度取り除いても上辺に置かれていたことがあり、それは実は業者が仕入れ値を抑えるためにこっそりやっていたのではないか、という話など、手塩にかけて育てる生産者であるからこそ語ることのできる、面白いお話もあった。

 

そして忠臣さんは最後に、私達に向けて「色々なことを経験しなさい」と教訓をくださった。そのとき私は、本当だなと、顧みて思った。国東半島を訪れてたったの四日間だったが、一生を懸けても得ることが出来なかったかも知れない出会いや経験が、今この胸にあると思うと、この研修旅行への参加を決めて本当によかったと感慨してならなかった。朝食後、手早く荷造りを済ませて、忠臣さんと洋子さんに別れを告げ、おふじを発ち、車窓から見えた、風に揺れる田染の棚田が、とても貴く感じられた。

 

宇佐八幡宮呉橋 並木

 

安心院地域へ向かう途中、宇佐神宮へ立ち寄った。西参道には、屋根付きの木造橋である呉橋が、お堀に囲まれた境内へと架かっている。その昔、天皇の使いが通ったとされ、鎌倉時代以前より存在するというこの橋は、大分県の指定有形文化財に登録されており、通常は閉鎖されている。ふりかえると、そばには大きな沓石があり、見事な鉄鳥居がそこに設けられていたものの、大戦中の金属類回収令により、供出されてしまったことが立て札に書かれていた。

 

平田井堰 並木

 

平田井堰に到着。先日の大雨により、平田井堰に平行して架かる沈下橋の桁が損傷し、車両が通行止めとなるトラブルがあったが、無事、宇佐市安心院支所グリーンツーリズム推進係の松木郁夫さんと合流する。雄大な駅館川に設けられた平田井堰の最大の特徴は、その幅もさることながら、用水路は1km進んで約1.5m下るという、ほぼ水平の勾配となっている。平安時代末期に宇佐神宮の大宮司公通によって築造されたこの平田井堰は、およそ8世紀もの間、この宇佐平野に水を分けてきた。そして、これからもきっと、そうであっていくのだろう。

  • 平田井堰の大きさとその云われには深い歴史が刻まれている。事前研究資料、水土の礎に書かれていた田を拓く執念を感じることができる。撮影日時: 2017:09:05 11:15:04
  • 宇佐神宮へ遣わされた勅使だけが通行を許される呉橋を見学。撮影日時: 2017:09:05 10:35:18
広瀬井出 並木

 

平田井堰が駅館川の左岸側に水を供給していたのに対し、台地である右岸側に水を供給せんとするのが、広瀬井出(水路)である。松木さんの案内によれば、この灌漑水路の建設は江戸時代中期より試みられてきたものの、これまで三度にわたり挫折してきた難工事であったそうだ。なかでもトンネルを掘っていくことが難題で、掘り進める過程で発生する石屑を処理しやすくするため、トンネルの途中で谷へむかって垂直に横穴を作ったことなど、その跡を指さしながら説明していただけた。

  • 和尚山の岩盤をトンネルで抜けていく最難関工事区間を対岸から遠望しながら、広瀬水路の歴史を聞く。撮影日時: 2017:09:05 11:31:23
  • 上流に見える井堰が広瀬水路の取り入れ口。ここから宇佐平野へと岩山をトンネルで抜けて流れていく。撮影日時: 2017:09:05 12:04:31
鳥居橋 並木

 

大分県地域は、阿蘇山の噴火によって大量の石材が資材として利用できたこともあり、数多くの石工職人が腕を鳴らしていたそうだ。かれらの代表的な建造物が石橋で、特にこの宇佐の院内では75基もの石橋が残されている。そのうちの64基がアーチ橋でこれは全国で最も多い数である 。中でも5連のアーチが特徴的な鳥居橋は、「石橋の貴婦人」と称されており、とてもおよそ百年前に築かれたとは思えない美しい佇まいだ。

 

松木さんの案内で、内心恐ろしくなるような渓流を橋から見下ろすと、橋脚が槍の刃先のように上流側に突き出している。これには、流木などが引っかかって、橋に必要以上の負担がかかることを防ぐ機能があるそうだ。これまで幾度となく、洪水におそわれても、石橋という言葉のイメージよりずっと細いその脚が、むしろその細さによって石橋を支えてきたのだ。

  • 石橋の貴婦人と称される鳥居橋は、9万年前の阿蘇山の大噴火で出来上がった深い岩谷に架けられている。撮影日時: 2017:09:05 11:45:19
  • この解説板に貼られている洪水時の写真には驚いた。水勢を逃がす工夫がこんな希なでも確実に繰り返される大雨のときにこそ役立つ。撮影日時: 2017:09:05 11:55:24