リベラルアーツ&サイエンス教育ブログ

2017.12.04

  • 野外実習/実験

ドングリの秘密

ブログ投稿者:基礎教育センター 教授 丸橋 珠樹

武蔵大学キャンパスには、数多くの木々が茂っています。学園が創設されたのは、95年前1922(大正11)年4月でした。当時、畑や田がひろがる郊外の田園を学園敷地として購入したとの記録があります。当時、今のすすぎ川周辺は田でしたが、ほんの1メートルほどでも高い場所は、用水が確保できず畑となっていました。購入した敷地全体に対する畑の面積比率は80%以上、田が約4%、屋敷と林が残りでした。武蔵野台地の田園風景が拡がっていたのでしょう。
東京地方では、二度台風が通過していきましたが、11月15日でもまだまだ沢山のシラカシのドングリが青空の中、枝先に残っていました。
人々が長く暮らしていた場所ですから地目として元墓地と記載されている場所もあり、3箇所ほどが記録されています。建設初期の航空写真を詳細にみると、90数年前にも大木だったケヤキはわずか3本が確認できるだけです。今、茂っている木々はその後、植樹してきた木々なのです。今では、多くのドングリの木も混じっています。
毎年結実量を調査しているシラカシの下に設置しているドングリトラップ。毎週トラップから回収して数や重さを継続調査しています。
武蔵大学は文化系大学ですが、化学、物理、生物の実験科目も開設されています。生物実験では、武蔵の構内の生物多様性を材料としています。先回のブログで報告したドングリもその材料の一つで、一本のシラカシの結実を毎年、調査しています。葉が茂り、花が咲き、結実する部分を樹冠と呼びますが、写真にあるように、樹冠下にトラップを設置して毎週、回収しています。
武蔵に多いドングリは、マテバシイとシラカシです。常緑のシラカシのドングリは比較的小さいく、食べると非常に渋いものです。一方、マテバシイは、大きなドングリをつける常緑樹で、生で食べても十分食べれます。学名でもedulisという名前がついています。今年の生物実験では、マテバシイの木ごとにドングリの重量に差があるか?あるとすれば、どのような要因が考えられるか?を調査項目の一つにしています。
  • シラカシ(左の2列)とマテバシイ(右の2列)のドングリには、大きなサイズ差がある。
  • マテバシイのドングリ調査、兵馬俑のように一列に10個ずつ並べて個体識別しています。一個一個の重さを計測して、平均値や標準偏差などの統計の基本を学ぶ材料としています。

さて先回のブログで「ドングリの豊凶」の謎解きをしますと書きました。以下はその代表的な考え方の一行解説です。1) 捕食者飽和仮説は、不昨年にドングリを食べる昆虫の密度を低下させ、翌年の豊作年には虫が食べきれないほどの実をつけて、捕食から逃れようとしているという考え方です。2) 受粉効率仮説は、一度に沢山の花をつけると十分効率が上がり、より沢山の種子を結実させることができるという考え方です。捕食者仮説と連動している考え方です。3) 資源要因説は、資源を蓄積する年には凶作とし、貯まれば一度に消費、つまり豊作年にするという考え方です。4) 気象要因説では、豊作の引き金となる気象条件があり、沢山の花芽がつくられるという考え方です。

 

ドングリは熊などの多くの生物の餌資源となっているので、ドングリ類の豊凶が予測できれば、動物の保護管理にも、あるいは、人との軋轢も減らすことにも役立つに違いありません。ドングリの降る日があるという、あるいは、今年はドングリが多いなあと身近な自然の営みと進化について目を向けてくれることを願っています。