リベラルアーツ&サイエンス教育ブログ

2017.09.19

  • 国東農業研修

2016年国東研修(18)河野忠臣さんのホダ場と畑

五日目の朝に、食事の席で度々話題にあがっていたシイタケのホダ場(シイタケを栽培する場所)に連れて行っていただいた。ホダ場は山中にあるので、おふじからホダ場まで行くのに山道をしばらく登った。道中では時折サワガニや小さなヘビの姿を見かけ、隅々まで豊かな自然に満ち溢れていることを再確認した。

 

シイタケは高温性・中温性・低温性と栽培時期によって三種類に分けることができ、河野さんは主に中温性のシイタケを栽培している。中温性のシイタケは五月から十月にかけて栽培される。また、シイタケを栽培する全ての工程には二年以上もの年月がかかる。

 

シイタケを育てるうえで、昼間と夜間の温度差が十度以上あることが必須だとされている。しかし去年はその温度差があまりなく、そのため今年は全国的に不作で値段が高騰する年になってしまったと河野さんは語っていた。

img_1358
ホダ場を前にして説明してくださる河野さん。撮影日時: 2016:09:05 09:50:31
シイタケにはいくつか栽培方法があるが、河野さんは「河野式」という栽培方法を用いている。これはその名の通り、河野忠臣さんその人が生み出した手法であるというのが非常に驚きであった。「河野式」の手はずとしては、クヌギの木を伐採した後、枯れるまで乾燥させ、乾燥させた後は種駒(たねこま)というシイタケ菌を木に植えつける。この状態の木が「ホダ木」と呼ばれている。ホダ木の準備が整ったらそれらを重ね合わせて、あとは成長するのをじっくりと長い時間をかけて待つのだという。もちろんただ待っているだけではなく、頻繁に様子を見に行き、成長具合によってはホダ木を動かしたりしてシイタケの成長を促す。また、害菌被害もあり、害菌の中にはわずか一日でホダ木のシイタケ菌を食らいつくすほどに強力なものもいるという。それらも踏まえて、農家の人はシイタケ菌が少しでも住みやすい環境づくりをする必要があるのだという。

シイタケ栽培は江戸時代から始まったとされているが現代ではその技術は大きく進歩している。種駒も現在では種類がとても豊富になり、質の良い種駒も増えた。しかし同じ種駒をずっと使用し続けることは不思議なことに不可能だそう。シイタケ菌は年を経るとだんだんボケてきてしまい、そうなるとまた新しい種類の種駒を探すのだという。

 

シイタケは見た目からは想像もできないぐらいに繊細な面を持っており、ただただ驚かされた。
しかしそんなシイタケも長い時間をかけて丁寧にじっくりと向き合っていけば、農家さんの思いを受けて立派なシイタケに成長する。そしてそれらが品評会で優れた評価を受ければ時には値段が通常品質の三倍にも跳ね上がり、高い利益を得ることができる。

 

しかし品評会で良い評価を受けるシイタケの多くは、ご進物用にもなる見た目が良いシイタケだという。これはシイタケ以外でも、これまで訪れてきた多くの農家さんが口にしていた悩みだった。やはりどの農業でも消費者が持つ意識が農家さんには意外と大きく影響している。消費者が持つ意識を少しずつでも変えていかないと、農家さんや農業の新たな道は開かれないのではないかと感じた。

img_1376
丸々とした立派な米ナス。夕食で味わった味噌田楽を思い出した。撮影日時: 2016:09:05 10:15:37
ホダ場を後にした私たちは、山道を下っておふじまで戻り、忠臣さんの畑を見せていただいた。私は最初の夕食でいただいたナスの味噌田楽がとても美味しかったので印象に残っていて、畑でナスがたわわに実をつけている様子を見て、少し嬉しくなった。ナスと一口に言っても忠臣さんの畑では色々な種類のナスを育てていて、一般的にスーパーで出回っているナスの黒曜や長ナス、そして普段はお目にかかることはなかなかないであろう、米ナスや水ナスの姿がそこにはあった。私は最初米ナスと水ナスの見分けがつかなかったが、忠臣さんが言うには、米ナスと水ナスは葉っぱに大きな違いがあり、またナスの実も水ナスより米ナスの方が丸いとのことだ。

畑の横には飼育小屋があり、中には鶏や烏骨鶏がひしめき合っていた。私が小さい頃に幼稚園でこれらを飼育していたことがあったが、十数年ぶりに見てもやはり鶏たちは迫力があった。そして朝食でいただいた新鮮で美味しい卵はここで取ったものであったと知った。

 

忠臣さんのホダ場を見学させていただいたことで、普段の生活では考えることもなかったシイタケ栽培の現状を知り、農家さんが抱える問題に自分なりに向き合うことができた。そして畑や飼育小屋の姿を目の当たりにしたことで、食への感謝の気持ちが一層深いものとなった。ありがとうございました。