リベラルアーツ&サイエンス教育ブログ

2017.04.21
- 国東農業研修
2016年国東研修(4)萱島酒造
午後にお邪魔したのは萱島酒造というお酒を造る工場だ。このときはお酒を造る準備をしていたので、工場の隅々まで案内していただけた。
社長は現在5代目で、初代が明治6年に創業した現在で143年目になる日本酒の老舗だ。日本に大吟醸酒という、高級な日本酒の概念をもたらしたのが、この萱島酒造だという。大吟醸酒を売り出した当初、720mlで1000円という高値は民衆に全く受け入れられず、さっぱり売れなかったという。入り口にはお酒の品評会などで獲得した数々の賞状と、西関と刻まれた大きな看板。西は関西、関は相撲の当時の最も強い位、大関を意味し、西日本で一番になるという意味を込めた看板だそうだ。日本初のお酒の品評会は明治40年に行われていて、その時の賞状も飾ってあった。明治27年に建てられた建物は、国の文化財として登録されている歴史ある建物である。現在は使用していないが昔使用していたという古めかしい井戸があり、戦争を乗り越えて残っている煉瓦の煙突には戦闘機に撃たれた跡が残っている。この煙突は八角形をしており、八角形を成形するために作った煉瓦で作られているため角に継ぎ目がない。面白い構造をしている煙突である。


お酒を造り始めるのは10月中旬以降からで、原材料となる米はできるだけ大分県産の米を使っている。佐賀県産、福岡県産、広島県産や岡山県産のお米も使うそうだ。米は釜場で洗ったり、蒸したりする。米に水分をとらせて、均一に、ムラのないようにし、一つの鍋に750kgの米を入れ、50分間蒸す。最盛期は2tもの米を使うという。お酒造りに使う水は両子山に源をもつ、軟水の甘い地下水を使用している。国東半島は岩盤なので水質がよいうえ、地震に強い。そのため、先の熊本大地震の際も、そこまで強い揺れを感じなかったそうだ。この水を飲ませていただけたのだが、水道水なんかと明らかに違う、えぐみがないまろやかな水だった。
次に見せていただいた建物は冬の仕込み中に使う建物。夏場は貯蔵庫となる。大正3年に作られた、工場内で最も大きな建物だ。縦の柱がない特徴的な構造をしており、虫に強い松の木を使ってできている。さらに柿渋を塗り建物を守っている。屋根には1万3000枚の瓦を使用している。
貯蔵庫に収まりきらなかったお酒は外にあるタンクに入れ保存する。1タンクに、一升瓶5万本分のお酒が入る。掃除をする際は、あまりに大きく上から注ぎ入れることが難しいので、タンクの側面にあるドアから中に入って掃除をする。夏は、地下水をかけて温度を保つことで、気温の上昇により品質が変化しないようにしている。私達が見学した際も、タンクの表面を水が伝っており、タンクの周りは覆いで覆われていて、太陽光が直接当たらないようになっていた。
仕込み蔵には100個のタンクが置いてあり、このタンクは先ほどの物よりも少し小ぶりだ。1タンクに一升瓶1万本分のお酒が入る。各タンクには横書きで3列数字が印字してあり、上から順に、タンク番号—リッター数—検査日、となっている。お酒を混ぜる櫂は竹製。混ぜることで、もろみの発酵を促すのだ。ただぐるぐる混ぜるのではなく、引き上げるようにして、お酒をひっくり返すように混ぜる。タンクの中は発酵による二酸化炭素で満ちていて、もしタンク内に落ちたなら苦しむ間もなく即死するという。
約1か月でお酒になるが、3回に分けて米、水、米麹を入れるので、3段仕込みという。ただし厳密に回数を定めておらず、味のバランスで仕込みの回数は変わる。4回仕込むなら4段仕込みという。管理には非常に気を配っており、アルコール分析などを毎日行い、24時間体制で作るのだ。非常に厳しい労働なので、同一人物が続けてやることはさすがになく、10日に1度、交代する。しかし総責任者には休みがない。夏休みは3ヵ月あるとは言っていたが、言い換えれば9ヵ月間休みがない。
お酒は売る前に一度炭素でろ過し、余計なものを取り除く。次に68℃で火入れして殺菌し、別のタンクに入れ、空気が入って酸化しないよう、バンド、ゴムを使いぴっちりしっかりとめる。アツアツの酒を入れることで真空状態を作り出せるのだ。

歴代のお酒を保管してある保管庫も見せていただけた。私たちが生まれる前に作られたお酒も多数あった。保存してある最古のお酒は1963年に作られたものだ。なんと50年以上前で、お酒は琥珀色で中国の紹興酒のようだと仰っていた。
お酒造りの機材は、当然、汚れるので洗浄する。洗剤を使うと臭い移りなど品質が変化する恐れがある。だから洗剤を使わず、なおかつ決して臭いと菌が残らぬように、人手で繰り返し、何百回と洗う。洗浄作業の現場を見学したが、洗っている物は決して小さくなく、3人程で繰り返し、繰り返し洗っていた。おいしいお酒はこうした努力を欠かさないからこそ作れるのだと思い、同時に、思いもよらないような努力があるのだと学んだ。

お酒を搾る機械はアコーディオンのようになっており、ヒダの間に粕がたまり、お酒が下に出てくる仕組みになっていた。この機械で粕を除かず絞らないお酒のことを濁り酒と呼ぶ。
お酒は完成した後、夏を超え、10月ごろの秋に飲むとおいしいという。冷やおろしともいうが、萱島酒造では秋あがり、という。あがり、という方が縁起よく聞こえる。お酒は熟すことで日本酒らしいくさ味と甘みが増す。新酒は1月や2月に売られる、本当にできたてのお酒のことを指し、1年前のお酒はもう古酒に分類されるのだそうだ。吟醸酒、大吟醸酒はタンクではなく瓶で熟成させる。
お酒にここまでの手間がかかっているとは全く知らず、目から鱗が落ちっぱなしだった。私が魚だったのなら、鱗をはがされた魚どころか綺麗におろされ、寿司にされていただろう。そのくらい知らなかったことが溢れていた。とてもいい体験ができたと思う。そして、20歳でお酒を飲むことがより楽しみになった。