リベラルアーツ&サイエンス教育ブログ

2013.11.29
- 野外実習/実験
文化財の科学にチャレンジ
ブログ投稿者:基礎教育センター 教授 藥袋 佳孝

ただし,「もの」は自らについて語ることはありません.無言で不動の文化財から我々が何かを読み取って行かなければならないのです.「もの」を研究対象の軸に据えた時,どのように文化についての情報を得るかは,人間の知恵と技術に依る所です.例えば,土器の分類や編年は人による緻密な観察に基づいた形態解析で初めて可能になりました.そして現代では,理工学で使われて来た最新鋭の分析機器も博物館等で普通に利用されるようになり,文理の壁を越えた学際領域としての文化財研究(文化財科学)が展開されています.
「文化財リサーチプロジェクト」は,総合科目として2013年度から開講のゼミ形式科目です.専門科目として開講の「文化財科学」は講義形式です.これを補う形で文化財の調査・研究の実践に取り組むのが,この新科目の目標です.専門ゼミではありませんが,武蔵のゼミ理念に基づいた授業です.
2013年度は,「年代」,「ガラス」,「刀」,「ボール」の4グループに分かれて,調査・研究活動を進めています.活動内容は以下の通りです.
・ 「年代」.炭素-14年代測定による古文書の作成年代の決定.
・ 「ガラス」.ステンドグラスの着色技術の変遷.一部を再現実験.
・ 「刀」.日本刀の製作技術の推移.たたら製鉄技術の再現の調査.
・ 「ボール」.ボールの変遷がもたらしたスポーツ自体の変化(野球の場合).
学外施設の利用も含めた実験研究から,資料収集に重点を置いての調査研究に至る幅広い内容に,それぞれがチャレンジしています.各グループの成果は報告書としてまとめられ,頒布・保存の予定です.
文理融合型のテーマ設定での実践的少人数授業は世界的にも珍しいものと思います.調べるべきことも多い上に,余りなじみの無い分野の知識も必要になりますから,参加する学生の皆さんは結構大変かもしれません.しかし,人文学の研究対象はさらに広く複雑になろうとしています.また,文理融合型テーマに直面するのも,研究者としては当たり前のことになっています.参加の学生の皆さんが,異分野と触れ合いながら伸びて行くのを見ると,大変頼もしく思えます.
私自身もこの授業から多くを学んでいます.師弟がともに学ぶ場が大学とすると,その原点に戻った気がします.それこそが武蔵のゼミの魅力なのでしょう.