リベラルアーツ&サイエンス教育ブログ

2012.11.02

  • 武蔵One Point自然観察

性転換するヤツデ

ヤツデと知らなくても、天狗のうちわといえば、皆さんも思い出すでしょうか?武蔵の学内にはたくさんのヤツデが咲き始めています。濃い緑と大きな裂けた葉は、この植物の進化の歩みの手がかりです。
 
この樹形をみれば、少ない弱い光を大きな葉で受ける進化が見られます。葉の配置にそれは如実に示されています。毎年、最初の葉は長く茎を伸ばし面積が大き く、だんだん短く小さな葉が、順繰りに配置されているのです。まるで、大きな巨大な葉を広げているかのようです。芽生えたばかりのまだ小さなヤツデも、葉 の数は少ないですが、配置は同じです。
  • 性転換するヤツデ
    すすぎ川の最上流部に咲き始めたヤツデ。この写真では、2012年の葉と2011年の葉そして2010年の葉がが、三段となって配置されているのが分かります。つまり葉の寿命は三年にも達するのです。
  • 性転換するヤツデ
    今年芽生えたばかりのヤツデも葉の配置は、大きな木と同じです。よく見ると、下の方に小さな丸い葉が二枚、続いてその上にヤツデのように裂けていない本葉が二枚、さらに若々しい三裂した葉が見えます。成長するにしたがって、葉の形も変化しているのです。
性転換するヤツデでは若い花は、雄花です。しばらくすると、雄花のおしべや花弁は落ちて、真ん中にあっためしべが三本に分かれてぐいっと伸びてきます。この段階になると、いかにも果実となりそうな形へと変化します
  • 性転換するヤツデ
    咲き始めの若い花は雄花です。この日は寒くて、飛ぶ虫はいませんでしたが、小さなアリが蜜を集めていました。
  • 性転換するヤツデ
    手前はめしべが伸びた雌花段階の古い花です。背景には雄花段階の花が写りこんでいます。
つぼみの配置もまた興味深いものがあります。下の写真の説明を読んでいただくと、二回の性転換に備えたつぼみの配置となっています。花序全体が真っ白で、 濃い緑の大きな葉を背景にコントラストが強くなっていて、色は識別できないが白黒のコントラストは判別できる昆虫を惹きつける色彩になっていると考えられています。
  • 性転換するヤツデ
    大きなヤツデでは、花の配置は二段階になっていて、写真に見える小さなつぼみのシリーズは、大きなつぼみが雄から雌へと咲き終わってから咲き始める。
  • 性転換するヤツデ
    ヤツデの伸び始めた花序を横からみたところ。花のつぼみには二段階があり、先に付く大きなつぼみの下に小さなつぼみが左右に二つついているのが良く分かる。
花粉を媒介する昆虫は、ハエやハナアブの仲間です。11月半ばの気温ともなるともうミツバチたちは働くことがでず、冬こもりとなっています。冬に向かい資 源が乏しくなった時期に、盛んに甘い蜜を出すので、色んな昆虫が訪れます。暖かい日に、花をみていると写真のような、ハエやアブばかりでなく多種類の昆虫 をみることができます。
  • 性転換するヤツデ
    冬に向かって咲くヤツデの花には、ハエなどの昆虫が盛んにやってくる。足の長さとおしべの長さが丁度釣り合っていて、授粉するのに適している。この花は雄花段階の花です。
  • 性転換するヤツデ
    ハナアブが止まって花粉や蜜を採食していた。
ヤツデが生産する蜜量を調べるためには、袋かけという操作をします。文字通り、昆虫たちが訪花できないように袋をかけておいて、その間に溜まった蜜量を測定するのです。花の蜜量はごくわずかですから、マイクロピペットという細い毛細管を使って計量します。
 
ヤツデの蜜の出し方は独特で、ドーム型に膨らんだ部分のあちこちから湧き出してきています。これは、ハエなどの昆虫の口の構造や形態に合致しているのです。花粉を運んでもらう報酬の支払い方の工夫、進化です。
  • 性転換するヤツデ
    3日間袋かけをしていたヤツデの雄花には、きらきらと沢山の蜜をみることができます。 撮影日時: 2012:11:23 15:08:19
  • 性転換するヤツデ
    袋を開けたときには小雨が降っていたので、水滴もついています。若い花には、雄しべと花弁もついています。 撮影日時: 2012:11:23 15:09:58