人文学部ゼミブログ

2026.01.22

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西洋美術史ゼミのご紹介

ブログ投稿者:ヨーロッパ文化学科 助教 久保 佑馬

 私が担当している「専門ゼミ」(学部3年生を対象とした演習)では、春学期および秋学期の約3分の1で英語文献の講読を行っています。2024年度及び2025年度は、ネーデルラント、ドイツ、フランスを中心とした、いわゆる「アルプス以北のヨーロッパ」の15~16世紀ルネサンス美術に関し、英語による概説書を教員と学生の皆さんで一緒に講読しました。
この専門ゼミには、私なりに二つのコンセプトがあります。一つは、誰もが知る有名作品ばかりでなく、必ずしも日本ではよく知られていない、ルネサンス美術の意外な側面にも魅力を見出してもらうこと。日本でルネサンス美術というと、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロといったイタリア盛期ルネサンスの巨匠たちや、彼らの作品に注目が集まりがちかもしれません。しかし「ルネサンス」と総称される文化現象は、西欧の広域にまたがり、短く見積もっても200年以上の年月をかけて進展しました。学生の皆さんには、絵画ばかりでなく、建築・彫刻分野の動向も見据えながら、深くかつ幅広くルネサンス美術を学び、自分なりの興味関心を培ってもらいたいと願っています。
もう一つのコンセプトは、芸術家や美術作品ばかりに着目するのではなく、その作品が生まれた同時代社会や歴史的経緯にも目を向けてほしいということです。美術史は、基本的には作品の美的価値を論じることに一定以上の比重を置く学問で、作品を歴史資料の一つとして扱うことも多い歴史学とは、異なる部分があります。しかし、美術館でふと足を止めて美しいと思った作品、あるいは逆に、一見して特に美しいと思わなかった作品でも、制作当時の歴史的背景を知れば、一度の鑑賞では気づかなかった一段と奥深い魅力に気づくことも多々あります。ルネサンス期の社会、宗教、時には政治情勢にまで目を配るようになると、芸術家の思い描いた作品世界を複合的にとらえる視点が養われます。
ただ、以上二つのコンセプトを満たすことのできる教材は、今の段階では、まだ日本語では限られているのが率直な現状です。そのような理由から、この専門ゼミでは英語のテキストを皆さんと一緒に講読することにしています(もっとも、英語そのものはそれほど難しくありません)。
そうした文献講読のお陰もあってか、秋学期の残り約3分の2で実施している卒業論文に向けた個人発表では、履修生全員がそれぞれ独自の視点を持ちながら、興味を抱いたテーマについて自由に探究し、自分なりの議論を展開してくれています。デューラー、アルトドルファー、ブリューゲルといった、15~16世紀ドイツ、ネーデルラントのルネサンス美術に関するテーマが多いのが今年度の特徴ですが、ボッティチェッリ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエッロ、ジョルジョーネ、ティツィアーノなど、王道のイタリア・ルネサンス美術でも、婚姻画、工房制度、寓意主題の解釈史など、独創的な切り口で研究に取り組んでいる発表が多いのが嬉しいところです。
 
本ゼミでは春学期と秋学期に一度ずつ、都内美術館での見学会を行っています。今年度は、7月と12月に国立西洋美術館の企画展「スウェーデン国立美術館 素描コレクション展」および「オルセー美術館所蔵 印象派展」を訪れました。7月の素描展は、デューラー、グリューネヴァルト、ホルバイン、ブリューゲルといった、英語テキストでおなじみの芸術家たちによる素描作品が並び、スウェーデン王家の美術コレクション形成史を学ぶ格好の機会にもなりました。12月の印象派展は、必ずしもゼミテーマと強く関連していたわけではありませんが、1年間の演習を通じ、作品への着眼点が変わってきたように感じる学生が多かったのが特に印象的でした。鑑賞後、屋外と室内での光の表現の違いや、衣服を描く際の筆触に関して感想を述べてくれた学生が少なくなかった一方、ジャポニスムに影響を受けた工芸作品に関心を広げた意見も目立っていたのが、教員としては興味深かったです。
1年間の専門ゼミを経て修得した研究手法、着眼点をもとに、来年度、大学生活の集大成となる素晴らしい卒業論文を執筆してくれるよう期待を寄せています。