人文学部ゼミブログ

2021.08.26

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画面共有しつつ読む

ブログ投稿者:ヨーロッパ文化学科 教授 桂元嗣

対面授業時に扱っていたフェーリクス・ザルテンの小説『バンビ』(1923)。ディズニー映画と比べて読んだときに、動物たちの人間に対するまなざしが映画と異なる点に注目が集まりました。

 6月21日、新型コロナウイルス感染症拡大による3度目の緊急事態宣言が解除され、私たちの専門ゼミナールも久しぶりに対面授業を行いました。とはいえ、ようやく授業も軌道に乗ったかなと思ったのもつかの間、4度目の緊急事態宣言が発令されました。前期最後のゼミはまたしてもオンラインとなりました。

このゼミは、これまで大学で学んできた語学力を生かし、ドイツ語圏の詩や小説の抜粋を原語で読み解き、内容を議論します。ここ数年は講読テクストを12冊じっくり読むのが通例でしたが、年間を通じてオンライン授業を行った昨年度の経験は、ゼミという授業形態で学べることについて考え直すよいきっかけになりました。

今年度意識しているのは、「読む」という行為をいろいろ体験してみようということです。例えば「風船」という主題が共通する複数の散文を読み比べたり、戦時下のウィーンが舞台の小説の中で子供たちが行う宗教劇を精読して全体とのつながりを考えたり、東ドイツの監視社会を扱った映画で秘密警察の主人公が読む恋愛詩を実際に読んでみたり・・・。あくまで「テクストを精読し、自由に考える」が基本ですが、今年度はさらに、そのテクストをある「文脈」の中で読解したらどうなるか、というプロセスを加えるようにしています。

そもそも文学を読み、議論を交わすゼミ自体、他者の解釈が生み出すひとつの文脈を共有して読み直すことで話が深まります。それによって自分では思いもつかなかった新たな考え方や解釈がその場で生まれる、それこそがゼミの醍醐味でしょう。Zoomを使った授業、例えば発表者による「画面共有」のように、各自が手元で読んでいたページとは違うページを全員で参照しながら議論を交わす作業にしても、一見すると自由に読む行為と相反しているようですが、結果的に「異なる思考を受け入れつつさらに読む」ゼミならではの読書体験を積み重ねているのではないでしょうか。