人文学部ゼミブログ

2021.07.27

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  • 日本・東アジア文化学科

私が「実技」にこだわる理由

ブログ投稿者:日本・東アジア文化学科 教授 漆澤その子

完成した着付けマニュアル。ゼミ生それぞれの個性が光ります。なかには、説明用の画像を自撮りした頑張り屋さんもいます。

「伝統文化実技演習」は、人文学部で唯一の「実技」を主体としたゼミナールです。例年前期のゼミは、既存のマニュアルを元に浴衣の着付けや帯結びを実践しながら、最終的にゼミ生各自がオリジナリティ豊かな着付けマニュアルを作成しています。

なぜ私がこのようなユニークなゼミを担当しているのか、疑問に思う人もいるでしょう。それには、主に2つの理由があります。ひとつは、浴衣を身に付けるという「実技」を通して、着物を日常的に着用していた時代を生きた人々の身体感覚を追体験してほしいと考えたからです。追体験という実感をともなうことで、歴史史料を読み解いていくさいの新たな視点につながることを期待したのです。

もうひとつの理由は、着付けマニュアルの作成を最終目標にすることで、他のゼミナールや卒業論文への橋渡しをしたいと考えたためです。ゼミ生は、オリジナルの着付けマニュアルを完成させるために本やインターネットから様々な情報を集め、取捨選択し、よりわかりやすいものにしようと試行錯誤を重ねます。こうしたプロセスは、テーマや資料の違いこそあれ、他のゼミでの発表や卒論の作成と変わりません。にもかかわらず、このゼミのゼミ生たちが、着付けマニュアルの完成に向けて毎回とても熱心に「実技」に取り組むのは、浴衣を着ることができる非日常感や彩り豊かな浴衣によるのかもしれません。

そんな「伝統文化実技演習」ですが、昨年度そして今年度は、「実技」を主体としているからこその困難に見舞われました。原則オンラインでの授業となり、どのようにゼミを行っていくべきか、どうしたら例年と変わらないゼミができるだろうかと思いを巡らせました。その結果、ゼミ教室が「密」にならないように、大学へ来て対面でゼミに参加するグループと、自宅からオンラインで参加するグループとにゼミ生を分けてゼミを行いました。いわゆる、ハイブリッド授業です。また、オンラインで参加するゼミ生に向けては、ゼミ教室にカメラを2台設置して、「実技」のライブ感を様々な角度から伝える工夫もしてみました。こうした試みが、着物を着た時の立ち居振る舞いなどを実践する後期のゼミにどのような変化をもたらすか、今のところ明確な展望はありませんが、このゼミ自体が新たな展開を迎えながらますます活性化していくように思えてならないのです。

  • 文庫結びです。羽根(リボン)の部分を下向きにすることで、可愛らしい雰囲気になります。絞りの浴衣地が涼しげですね。
  • 貝の口という帯の結び方です。今年度は男子学生もゼミに参加してくれたので、男女問わずこの結び方を扱いました。バッチリ習得できているようです。
  • 今年度のゼミ風景。ゼミ生同士が「密」にならないように間隔をとり、壁や黒板のほうを向いて「実技」に取り組みます。「実技」に集中しているので、私語をかわすことはありませんでした。