人文学部ゼミブログ

2020.10.21

  • 人文学部
  • 日本・東アジア文化学科

「面白い!」を大切に…

ブログ投稿者:村山絵美

日本・東アジア文化基礎ゼミナールは、本学科に所属する1年生全員が履修する必修科目になります。通称、基礎ゼミと呼ばれていますが、このゼミではこれから4年間大学で学ぶための基礎知識を習得することを目指します。具体的には、発表の仕方やディスカッションの方法、情報検索の仕方、図書館の使い方、レポートの書き方など、大学で学ぶうえでどれも欠かせない知識が挙げられます。それらを、担当教員の専門に即したテキストを使いながら習得していくのです。基礎ゼミを担当するのは、本学科に所属している約半数の教員です。今年度は、6名の教員が芸能や文学などそれぞれの専門性に引きつけながら、基礎ゼミを担当しています。

 

私の専門は日本民俗学なので、基礎ゼミでは民俗学関連のテキストを読んでいます。今年度のテキストは、民俗学者の柳田國男が記した『遠野物語』を選びました。『遠野物語』は有名な作品なので、名前を聞いたことがある方も多いかと思います。ただ、実際に手にとって読んだことがある方は、少ないのではないでしょうか?今年度の履修生も、『遠野物語』や柳田國男の名前は知っているが、実際に読んだことはないという方が大半でした。

 

『遠野物語』は、明治期に柳田國男が岩手県の遠野郷(現:遠野市)に伝わる民間伝承を遠野出身の佐々木喜善から聞き、まとめた作品です。ひとつひとつが短い話で、全部で119 話が収録されています。『遠野物語』は文語体で記されているので簡単には読めませんが、柳田独特の文体で世界観が形づくられ、何度読んでも味わい深い文章になっています。基礎ゼミでは、ひとつひとつの語句や民俗語彙を専門辞書や事典で調べながら、テキストを読み解いていきます。

 

『遠野物語』に収録されている話はさまざまです。昔話や伝説だけでなく、幽霊に関する話、狼と人が格闘した話、親殺しの話などの世間話も含まれます。短い文章ですが、じっくり読み解いていくと、その行間を通して、江戸期から明治期を経た山間部に住む人々の暮らしの様子がうかがえる内容となっています。一見、現代から見ると遠く感じるような話も、丹念に読むことでその根底にある民俗社会の価値観が、現在にも脈々と流れていることを感じとることができます。その一方で、今とは異なる価値観に触れ、民俗社会の想像力の豊かさに驚かされることもあるわけです。

 

履修生からは、「読む前は難しい内容なのかと思ったが、意外と身近なテーマがたくさんあり、興味深く読めた」という感想や、「ゼミを履修しなければ手にとることはない本だったけど、読んでみたら面白かった」という感想が寄せられました。

「面白さ」は、自分の世界を広げてくれる大切な鍵です。一見遠くに見えるものも、調べてみると、自分自身とのつながりが見いだされ、興味が湧いてきたりします。大学ではいくつもの鍵を手にとり、自分と社会をつなぐ回路を見出してもらいたいと思います。