人文学部ゼミブログ

2012.09.20

  • 人文学部
  • 日本・東アジア文化学科

江戸人の祈願やおまじない(福原敏男)

江戸人の祈願やおまじない(民俗宗教論演習)
 
民俗宗教、民間信仰、民俗信仰、庶民信仰などなど名称はさまざまですが、経典なし、教義なし、教祖なし、教団なし、体系なしの迷信や俗信の類のことです。長い間「民間信仰」と呼ばれて研究されてきました。一方、人に災厄をもたらし、あるいは幸福を与える呪術や魔術という考えがあります。民俗宗教は超自然的存在に畏怖を感じ、それに守護を求めて受け入れるのに対し、黒呪術・白呪術とも、人間が超 自然的存在に対して積極的に働きかけるイメージがあります。例えば、呪い(のろい)となると、かつての祈祷師や陰陽師ならともかく、一般庶民の信仰風土にはあまりなじまないような気がします。
 
「民間信仰」は宗教学者姉崎正治が1897年に初めて使用し、堀一郎が体系的に論じて長い間使用さ れてきました。1970年代あたりから英語のfolk religionにあたる「民俗宗教」に代替されるようになりました。本ゼミの前任担当者、逝去された宮本袈裟雄氏はまさにその同時代の研究者でした。
 
民間信仰は従来、仏教やキリスト教などの創唱宗教、外来宗教と対立するものとして、体系性を欠いた信仰と捉えられてきました。それに対して、その両者は必ずしも対立して存在するのではなく、むしろ習合・融合しているのが実情であり、その動態を包括的に捉えるものとして「民俗宗教」という語が使用されるようになりました。例えば、民俗宗教としての日本土着キリスト教にマリア観音信仰がありますが、大陸伝来の仏教や道教なども、本国とは異なり日本化した民俗宗教 となっているのが実態なのです。
 
本ゼミでは1838(天保9)年に出版された神田雉子町名主が書いた江戸年中行事、寺社歩きガイドブックをゼミ生と輪読、発表、討議しています。
 
一神教とは異なり、言葉や書物などではなく、参詣など日常生活ともなっていた行為(身振り、しぐさなど)によって信仰心をあらわした江戸人の祈願やまじないを汲み取ることを目的としています。
 
外国で「宗教は・・」と聞かれて口ごもる多くの現代日本人は、表層的には自らを無信仰・無信心と感じています。私たちは宗教的な通過儀礼や年中行事をファッションのような流行として、あるいは贈答文化、成長記念行事として受け入れている側面があります。一神教徒から見ると、節操が無いと感じるかもしれませんが、アバウトでフレキシブルな「ユーザーの日本宗教」の原点の一つを江戸人の民俗宗教に発見することを目的としています。