人文学部ゼミブログ

2012.02.15

  • 人文学部
  • ヨーロッパ文化学科

ヨーロッパ文化基礎ゼミナール(平野千果子)

唐突ですが、みなさんは戦争のない状態が、平和なのだと考えていませんか。
それでは、戦闘はないけれど米軍基地が集中している沖縄や、大災害に見舞われた東北の現状は、「平和」だと言えるでしょうか。
 
この1年生向けの演習は、大学での基本的な勉強の仕方を学ぶ場ですが、私の授業ではこのような問いから発して、「戦争、平和、人権」といったテーマを素材に進めています。
 
ヨー ロッパの端正な街並み、華やかな芸術・・。みんな「ヨーロッパ文化」の美しい面に関心をもって希望を胸に入学してきます。「それなのに、なんでこんなこと 勉強しないといけないの!!」口にこそ出しませんが、多くの学生さんは最初はこう憤慨するようです。それが授業の終わりが近づくと、「でもね・・・」と後に言葉を続けてくれるんです。
 
ヨーロッパは長いこと、戦争を繰り返してきました。征服や支配の歴史もあります。他方で「人権」という概念も、ヨーロッパは作り上げてきました。それは当初からすべての人に適用されたわけではありませんが、徐々に練り上げられ、深められてきたのは確かです。
 
そうした諸々のことは、私たちの日常生活からはひどく遠くに感じられ、まして思い描いていたヨーロッパ文化とは何の関係もないように見えるでしょう。入学当初のみなさんが「げっ」と思うわけです。でも勉強していくうちに、決して自分自身に無関係のものではないことが、少しずつですがつかめてくるようです。そ れは一地域の文化といったものでなく、もっと異なる、何か・・・です。
 
何が「平和」なのか、「人権」とは何なのか、平和とは守るものなのか、作るものなのか、あるいは日本は平和なのか・・・。授業では、日本の「平和」憲法や死刑制度についても、みんなで議論します。この憲法は日本だけの問題なのでしょうか。また、たとえばEU加盟国は死刑を廃止しています。皆さんはこうした問題についてどのように考え、どのような答えを出していくでしょう か。
 
答えは一つではありません。またみんなが納得できる「正解」というものもありません。正解のない問いについて考えるのは、骨が折れることです。でもこの世の中も人生も、正解のないことばかりではないでしょうか。
 
こうした問題を通して、歴史上起きたことも、現代社会で起きていることも、一方から見ていたのではその姿の全体は見えないのであり、様々な方向から多面的にアプローチする必要がある、そのようにして考える姿勢が大切だ・・・。そんなことに少しでも気づいてくれれば、大学生活で学んでいく基礎は十分です。一人一人がそれぞれの関心から、小さな学びを少しずつ育ててくれればと願っています。