人文学部ゼミブログ

2011.10.10

  • 人文学部
  • 日本・東アジア文化学科

日本・東アジア文化学科:近世史演習1(丸山伸彦)

このゼミの“売り”は、生の歴史に触れ、それを体験することにあります。「生の歴史」とは原典に当たることです。考古学なら発掘品、美術史ならば作品を基 点として研究が始まります。しかし、歴史学の場合、史料は活字や図版となっていることが多く、なかなか当時の“本物”に触れる機会には恵まれません。そこでこのゼミでは、原典の史料、原本に文字通り「触れる(さわる)」ことからスタートします。テキストとするのは寛文6年(1666)に出版された『紺屋茶 染口伝書』という本です。
  • 日本・東アジア文化学科:近世史演習1(丸山伸彦)
    (fig.1-1)寛文六年(1666)刊『紺屋茶染口伝書』(上巻)目次
  • 日本・東アジア文化学科:近世史演習1(丸山伸彦)
    fig.1-2)寛文六年(1666)刊『紺屋茶染口伝書』(下巻)奥付
これは版本として最古の染色の技法書で、茶系を中心に萌葱色や木賊色などの染め方、染料の抽出の仕方や媒染(※)の方法、小紋や型鹿子の染め方などが記されています。もちろん活字化もされている史料ですが、この本の原本、350年ほど前に出版されたそのものが、なぜか私の手元にあるのです(その理由はまた別の機会に‥‥)。おそらく現存しているものは数冊。通常は博物館などでガラスケース越しにしか見られない代物です。
 
やはり原本の迫力は相当なものです。薄くても強靭な和紙の肌触りや墨版のかすれ具合、虫喰いの様子など、内容以外の情報から時を経たものの重みを感じ取ることができます。最近の子供のなかには、切り身の状態で魚が泳いでいると思い込んでいる子がいるといいますが、同じように、歴史の事象は知っていても時代を伝えているものの具体的な姿は意識されていないように思われます。
 
歴史資料の具体像を存分に味わったら、いよいよ内容の理解です。江戸時代の版本ですから、表記はもちろんくずし字です。くずし字がはじめての人にはちょっと 難しいかもしれませんが、そんなにくせのない素直な字体なので、基本的な読み方を習得すれば、ほどなく八割方読めるようになります。この内容が実に面白いのですが、ここでは紙面の都合で割愛。もう一つの“売り”である「体験」の説明に移ります。
日本・東アジア文化学科:近世史演習1(丸山伸彦)
(fig.2)鉄媒染で「けんぼう(黒)」に染めた木棉(左)と絹
ここでいう「体験」とは、『紺屋茶染口伝書』 に収載されている染色技法を実際に行ってみるということです。赤を染める蘇芳や茶・黒を染める山桃など、比較的入手しやすい材料を用いて、江戸の技法通り に染めてみるのです。生地は木綿と絹。余談ですが、本来のゼミの目的を忘れてしまうほど、模様のデザインに凝ってしまう人もいます。10数センチ角くらいの小さな染色の実験ですが、実際に染めてみるといろいろなことがわかります。山桃のタンニンが鉄の媒染剤でたちまち黒に発色する様などは感動的ですらあり ます。
以上、「近世史演習1」のほんのさわりのご紹介でした。歴史に興味があって、その時代の生の感覚を掴み取りたい、という意欲のある人は是非参加してみてください。
 
※染料を定着・発色させるために必要な工程。