人文学部ゼミブログ

2011.05.20

  • 人文学部
  • 日本・東アジア文化学科

中国史演習(黒岩 高)その1

「一杯のお茶」
 
去る5月5日、私のゼミで卒論を書き、恩師の移籍先の大学院に進んだ学生が、香港大学の年次大会で学会報告を行った。初めての学会報告が、あろうことか海外で、かつ英語でのものである。好奇心の強い学生で、努力家ではあるのだが、如何せん、極度の「あがり症」である。折悪しく、恩師は当日、国内の学会の年次大会での役割があって動きが取れない。学生が報告するセッションのチェアマンは私のゼミの先輩でもある香港大学の先生が勤めることになっていたのだが、彼は多忙を極めている。
 
今でも、ゼミに時折は顔を見せ、ゼミ合宿にも参加し、後輩の範となってくれる義理堅い学生である。勇姿を目の当たりにしたいというのと応援したい気持ちとのこもごもで、前日から出国して香港大学に推参するつもりでいた。
 
と ころが、震災の影響で当日は出校日となってしまった。せめてもということで、当学で予行演習を行うことにした。部分練習とコメントを挟んで、2回ほど通しでやってもらったのだが、なかなかの完成度である。間の取り方や、分野特有の表現以外は手直しする事がなかった。まあ、少しでも役に立ったかなと思えたの は、彼女がネイティブチェッカーに手直しされた原稿を鵜呑みにしていたのを訂正できたことくらいか。なんとも素直なことで、以下のような感じである。
 
黒:ここと、ここと、えーっと…、この10箇所くらい。なんか、表現が変だよ。あなたのいいたいことと違うんじゃない?K先生にも見てもらったんでしょ?
学:そこは、ネイティブチェックに出したら、直されたところで…。
黒:それで、これでいいと?
学:ここと、ここは少し違うかなとは思ったのですが、ネイティブチェック専門の会社だから、正しいと信じていました。
黒:あのね、ネイティブチェックの会社の人はあなたがどんな人かも知らないし、どんな研究なのかも分かってないんだよ。逆のケースで、あなたが他分野の専門論文をチェックすることを考えてご覧よ。チェックの入った所は全部吟味しなおしてから行きなさい!
 
当日は案の定、ガチガチに緊張したそうだが、報告自体はチェアマンの機転もあってうまく行き、高評価を得て、報告の土台となった修士論文は香港大学の図書館に収めてももらえることにもなった。
 
ちなみに彼女の卒論は武蔵大学の海外研修制度を利用して、香港のPRO(Public Record Office)で収集した行政文書を使ったもので、今度の修士論文も4分の1程度は卒論を土台としている。すなわち、武蔵の提供する制度やゼミ、指導教員 の資質を十二分に活用してくれたケースと言える。日東の一期生からこうした学生を送り出せたことは、幸運であったし、私のゼミからと言うのもちょっぴり誇らしい。
(次回に続く)