経済学部ゼミブログ

2023.08.08

  • 経済学部
  • 経営学科

生成系AIと新しい知識を得るアプローチ

ブログ投稿者:経営学科 教授 竹内 広宜

写真1:「ハクチョウが白いことを証明するには?」という問いへのあるチームの考え。「直接(さまざまな白鳥を)観測する」という帰納的アプローチだけでなく斬新なアイディアも・・・。
私の専門は先進情報通信技術(世の中に浸透しつつある、人工知能:AIも含みます)の活用です。ですが、理系の学部ではなく経済学部ですので、ゼミでは、あまり細かい技術の詳細にとらわれず、AIスピーカー、スマートライト、スマートディスプレイ、ARプログラミング、ドローンなどに触れ、技術に関する様々なテーマについての課題をグループで取り組んでいます。1年生春学期のゼミ(以降、教養ゼミと呼びます)では、その一端を垣間見ながら、ゼミという授業形態(といってもその進め方は担当者によって異なりますが)に慣れてもらうことを目的の1つとしています。
2023年度の教養ゼミでは、生成系AIを題材として取り上げました。生成系AIの1つであるChatGPTは社会でも大きな話題となっており、利用経験のあるゼミ生もいました。教養ゼミでは、まず各自がChatGPTを導入し、例題を試しました。そこでは「自分よりきちんと書ける」「課題ができてしまうのでは?」といった感想が出ました。その後、高校の世界史で出てくる経済関係トピックの課題を提示し、ChatGPTが出した回答を別途配布した資料を使って吟味するグループ活動を行いました。各グループ、「ここが間違っているのでは?」「本来ならば回答でこれを言及しなければいけないのでは?」といったやりとりを通して、「安易にツールを使うと痛い目にあってしまう」「嘘かもしれないと常に気にしないといけない」という知見に達したことは一つの成果となりました。
さてChatGPTをはじめとした対話を実現する生成系AIでは大規模言語モデルが用いられています。これは、基本的には大量のデータをもとに、ある文章(やその断片)があった時に、その次にどのような語がくるのかを予測するものです。このモデル対話アプリとしてチューニングしたものがChatGPTです。観測された結果をもとに何か新しい知識を得るアプローチは帰納的アプローチと呼ばれ、AIの基盤技術の1つである機械学習で用いられています。ゼミでは、「ハクチョウが白いことをどのように証明するか?」という思考実験に取り組み(写真1)、この帰納的アプローチを理解しました。帰納法はとても有効ではありますが、その欠点の1つに、ブラックスワン※1があります。これについて「これまで体験した各自のブラックスワン」について考えました。

※1:様々な地域で観察される結果から、白鳥は白いと長らく考えられていたが、オーストラリアで黒い白鳥が発見され、鳥類学者の間での常識が覆されたという逸話からくる言葉。「間違いなく成り立つ」と思われていた仮説が覆り、そのことにより大きな影響(大惨事)がおきること。
写真2:これまでのデータから2100年の人口を各グループで予測。多くのチームが人口は今後も増え続け120-150億人ぐらいになると予測。中には250億人と予測するチームも・・・。果たして観測データから導き出した仮説は正しいのでしょうか?
帰納的アプローチの欠点にはブラックスワン以外に、データから間違った仮説を立てる可能性があること(写真2)が挙げられます。ここで、帰納法とは異なるアプローチとして、すでにわかっている事実や公理をもとに推論を進め、知識を得る演繹的アプローチがあります。これは高校での数学などでも触れてきたアプローチで、三段論法の例を通し、前提をもとに正しい論理展開をすれば、正しい結論が得られることを示しました。
写真3:10億人を表す人型アイコンをフリップチャート上に切り貼りし、2015年の年代別人口分布と出生率から2030、2045、2060年での年代別人口分布を各グループで求めました。このチームは論理展開を間違え、世界人口が15年で急に100億人も増えることがありましたが、最終的に演繹的なアプローチを正しく適用でき、2060年の世界人口を100億人と導くことができました。
その上で、「現在の世界の人口」「女性1人が産む子供の数」を前提とし、2100年の人口を予測するためシミュレーション※2に取り組みました。前提をきちんと踏まえて分析を進めないとおかしな人口分布が得られてしまうことを実感するとともに、ゼミ生らが想像していた人口分布(今後も人口は急激に増え続けること)にはならないことが確認されました(写真3)。

※2:ハンス・ロスリング著 “FACTFULNESS”, (2019)をもとにシミュレーション課題を作成した。
経済学部では2年生以降のゼミ(専門ゼミ)で、各担当者の専門領域に沿った研究に取り組みます。その中では、アンケートをとって分析することや、計算機を使ってシミュレーションをすることがあります。今回の教養ゼミで、「観測された事実から帰納的に論証する(帰納)」と「公知の事実や前提をもとに演繹的に論証する(演繹)」の2つを体験し、それらの特徴を学んだことが、各ゼミ生の今後の専門ゼミでの活動に少なからず役立つものとなることを願っています。