経済学部ゼミブログ

2010.06.28

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増税で経済成長を促進?

ブログ投稿者:経済学科 伊藤成康

「知人にこんな偉い人がいる」と自慢するのは程度の低い人間がすること。かくいう自分が一番この例にあてはまるのは情けない話だが、わたしが担当する講座の先任者たちのなんと錚々たる顔ぶれであることよ。南部鶴彦、高山憲之、牛尾吉昭、そして菅政権のブレーンとなった小野善康の各教授。各先生の偉大な業績に因んだ話はまたいつか。
 
実は、こんな枕でお出まし願いたかったのは小野先生。「増税しても雇用創出・景気回復」とは胡散臭いと、早速噛みつくイエロー(失礼!)経済ジャーナリズムの面々もおられるようだが、マクロ経済学の初歩で教わる「均衡予算乗数」と似かよった発想と考えれば、まったくオーソドックスな政策提言といえる。均衡予算乗数命題とは、追加的財政支出の財源を増税で賄ったとき、景気への効果はプラス・マイナス・ゼロになるのではなく、プラスの所得創出効果が残るというもの。教科書で取り上げられるのは所得税の場合がほとんどであるのに対し、今話題になっているのは消費税だから、類推で訳知りな物言いをするのは危険だが、(おカネが流れる)詰まったパイプの流れをよくしてやろう、というのは確かに自然な発想だ。小野理論という尊称があるほどだから、もっと奥の深い理論武装がなされているはずで、矮小化しすぎてしまっては申し訳ないとも思うが、目から鱗が落ちるとはこのことで、素朴ながら含蓄のある乗数理論の真価をあらためて学んだ気がした。一度、ゼミで「消費税バージョンの均衡予算乗数」問題を考えてみることにしよう。
 
せっかくゼミ・ブログに書かせていただく光栄に浴したというのに、これでは申し訳ないので、貧乏性のわたしはもう一寸書きますよ。一番売れているマクロ経済学の教科書、福田・照山『マクロ経済学・入門』(有斐閣)では、所得に依存しない一括定額税を想定して、「均衡予算乗数=1」という命題を導出しているが、輸入などの乗数プロセスからの漏れがなければ、所得の1次式で表される租税関数を想定しても「均衡予算乗数=1」となる。しかし、輸入が内生化されると「均衡予算乗数=(1-限界消費性向)÷(1-限界消費性向+限界輸入性向)」となって、絶対値は1より小さくなるがプラスの乗数効果は残る、という結果が得られる。あとは波及効果のリンクがどれだけ途切れずに繋がっていくか、クラウディング・アウトや円高を食い止められるかが所得創出効果の大小を左右する。「均衡予算乗数=1」なら可処分所得も減らないからいいことずくめなのだが、う~ん、まだ考える余地がありますねぇ。
 
高校生のみなさん,以上の議論はむずかしく見えるかもしれませんが,経済学の基本的な考え方を押さえれば大丈夫。私のゼミで,こうした時事問題についても理解を深めながら,一緒にディスカッションいたしましょう。