好奇心を信じて挑戦!
文系から理系への転身と
研究の日々

経済学部 経済学科
井之上 直也さん
2004年4月入学

#経済学部 #進路・就職 #卒業生
2008年に武蔵大学経済学部を卒業後、理系大学院へ進学を経て、現在、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)先端科学技術研究科で准教授として「自然言語処理」について日々研究をしている井之上直也さん。
文系の経済学部から、どのようにして理系へ転身し、JAIST准教授になったのか、お話をうかがいました。

武蔵大学ではどのようなことを勉強していたのですか?

JAIST言語推論研究室 (RebelsNLU)のメンバーと井之上さん(右奥の青いシャツが井之上さん)
経済学を中心に学んでいましたが、中でも特に面白いと感じていたのは、人の意思決定を数理的にモデル化するゲーム理論や、実際の経済データを数理的に分析する統計学系の講義です。ゼミではエクセルを使って回帰分析を行い、データを分析することの面白さを実感しました。後に人工知能に興味を抱くようになった自分にとって、こうした経験は共通する面白さを見出すきっかけになったのかもしれません。また、寮生活では、各国からの留学生と一緒に話したり遊んだりする機会が多く、多様な文化や価値観に触れる楽しさにも目覚めました。3年次には交換留学制度を利用して韓国の高麗大学に1年間留学し、各国から集まる留学生と学ぶことで国際的な視野を大きく広げることができました。

学業以外は、どのような学生生活を過ごしましたか?取り組んでいたことや思い出を教えてください。

小学校3年生の頃、家にあった本をきっかけにプログラミングにハマり、大学でも続けていました。コールセンターでのアルバイトで業務を円滑化するためのアプリを作ったり、趣味でゲームを開発したりしていました。ゲームプログラミングでは、自律的に動くエージェントを作る場面が多くあり、当時は単純な規則ベースで実装していましたが、「もっと賢くしたい」という思いから、技術系のウェブサイトや本を読み漁っていました。…もちろん、プログラミングばかりでなく、夜に寮の卓球場で卓球をしたり、誰かの部屋に集まって映画を見たり、江古田駅の近所で友達とよく飲み会をしたり、一晩中カラオケをしたりと、今思えばものすごい体力だったなと思う楽しい思い出もたくさんあります。

何がきっかけで理系の道に進むことを決めたのですか?

ゲームプログラミングを調べる過程で「人工知能」や「機械学習」といったキーワードに出会い、その未知の可能性に夢や面白さを感じたことが、研究の道に進む大きなきっかけとなりました。また、自分が面白いと感じていた講義が数理モデルに深く関係し、人工知能や機械学習とも密接に結びついていることに気づいたことも大きな要因です。ですが、今振り返ると、最終的な決定打は、「もっと深く知りたい、新しい発見をしたい」という知的好奇心だったと思います。留学生の多い環境で多様な価値観に触れてきた経験も、その決断を後押ししたのかもしれません。

理系大学院に進学するためにどのような取り組みをされましたか?大学院進学後に大変だったことやご苦労はありましたか?

JAISTの研究室からの眺め
人工知能を扱う研究室を探し、実際に見学に行ったことで、研究の面白さと同時に数学力の不足を痛感し、微積分や線形代数を参考書と問題集で繰り返し学び直しました。一度、とある大学院の入試に落ちて挫折しかけましたが、文系出身者も対象とした奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)に運良く巡り合い、入学することができ、その後は東北大学大学院に移り、無事に博士課程を修了することができました。

大学院では、知識不足を痛感することはもちろんありましたが、NAISTには情報科学の基礎を体系的に学べるカリキュラムがあり、あまり大きな問題ではなかったです。それ以上に、「現状を調査・整理し問題を発見する力」「議論を通じて研究を育てる力」など、これまで鍛えられていなかった能力を必要とする研究活動そのものをこなすのに苦労しました。

今振り返ると、成功・失敗にこだわらず「これは自分の能力を鍛える筋トレだ。ある程度準備をしたらとにかくやってみる。やったら振り返りをしてまた挑戦すれば成長するはず。成功か失敗かは自分ではなく他人が決めること。気にしなくて良い」という意識を持ち続けていたことが、精神的にも肉体的にも大学院生活を乗り切れた秘訣だったのだと思います。こんな私を暖かく見守ってくださった指導教員の先生方には本当に感謝に気持ちでいっぱいです。

現在のお仕事について、分かりやすく教えてください。

海外での講義の様子(中央左デニムのシャツが井之上さん)
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の准教授として研究室を運営し、「自然言語処理」という、人の言葉を計算機で処理する仕組みを研究しています。日常的には、学生さんの研究指導、外部の研究者・研究機関・企業との共同研究、講義や学会発表など、忙しくも充実した日々を送っています。自然言語処理の分野では、ChatGPTに代表される大規模言語モデルが近年大きな成功を収めましたが、その内部計算が人間にとってどのような意味を持つのか、研究者ですら十分に理解できていない部分が多くあります。まるで脳神経科学のように、「言語モデルはどのように言語の情報処理を実現しているのか」という問いに答えるため、基礎研究を日々進めています。

進路の選び方に迷っている受験生や武蔵生へメッセージをお願いします!

進路を選ぶ上で大切なのは、「得意かどうか」ではなく「興味を持てるかどうか」だと思います。私自身、文系から理系への転身は簡単な道ではありませんでしたが、「人工知能を究めたい」という思いがいつも支えとなり、現在につながっています。武蔵大学は、自分の可能性を広げるための素晴らしい環境です。どうか自分の好奇心を信じて挑戦を続けてください。その先には必ず、新しい世界が広がっています。迷った時は「とりあえずやってみる」ことをおすすめします。その経験が必ず次の一歩につながります。