自然科学・身体運動科学分野活動ブログ

2022.11.04

  • 国東農業研修

平田井堰、広瀬水路と鳥居橋 大久保和花 (国東-2022-15)

ブログ投稿者:基礎教育センター 教授 丸橋珠樹(Professor Tamaki MARUHASHI)

 4日目宇佐市で午前中に訪れたのは、平田井堰と広瀬水路だった。晴天の空の下、美しい緑と川の流れの音を聞きながら、松木さんの解説を聞いた。平田井堰の歴史は古く、伝承によると、平田公通という当時の宇佐神宮神官が、神様から啓示を受け、ここ平田井堰付近の川で箱を開けたところ、なんと中から黒い蛇が12匹出てきて、12匹は並んで這っていったのだそうだ。途中蛇たちは一匹ずつ別れていった。蛇が這ったところに水路を引き、今の平田水路になったのだという。大分県随一の米生産量を誇る広大な宇佐平野を潤している平田水路の驚く特徴はその勾配であり、1キロ進んでもわずか1.5メートルしか下がらない、つまり、ほとんど水平といっても良いほどである。当時の測量技術の神業がこのような伝承となったのかもしれない。
 
 松木さんは、これは伝承に過ぎず、当時の有力者が農民に水路を作らせて、自分がどれだけ功績があるか伝えるために書いた作り話に過ぎないという。確かにこんな蛇が出てくるのはおとぎ話の域だ。築造後、数百年間に渡って、この井堰は改良されてきたとはいえ、今もしっかりとしており、サイズの整えられた石が順番に並べてあり、作り手の努力がうかがえる。平安時代後期から現在までこの水路で田んぼに水を送っているそうだ。今も昔も重要な水を灌漑してきた平田井堰の歴史と美しい造形に、感銘を受けた。
 
 博物館のある駅館川右岸の広大な台地面は、平田用水で灌漑されている宇佐平野よりも数十メートルも高くなっている。この畑作中心だった宇佐台地への用水工事は、江戸時代宝暦元年1751年に開始され、何度も試みられたが、完成することはなかった。五度目の工事、1860年から南一郎平が取り組み、1870年に総通水式が行われ100年の時を超えて悲願が達成された。その後、彼は明治政府の土木部門で働き、明治の三大疎水、安積疎水(福島県)、那須疎水(栃木県)、琵琶湖疎水(京都府)の工事に深くかかわった。
 
 大分歴史博物館の後、広瀬井路を訪れた。田んぼに挟まれ一段高くなっている水路は、道路で途切れていた。道路を越えるためにサイフォンとなっているとのことだった。水路には水が大量に流れ、道路の地下を通る構造だった。松木さんによると、ここの水路はここら辺一体の稲作を支えている大事な生命線だという。この水は、平田井堰よりもずっと上流、駅館川の支流津房川から流れてきている。広瀬水路の取水口は院内広瀬村に設けられていて、鳥居橋の後、松井さんの案内で大きな橋から井堰を確認した。
 
 この水路によって、宇佐台地に広く満遍なく用水が供給され、広大な水田が広がっていた。その後、調べてみて分かったことだが、この井路はこの地域の用水受給状況が厳しいため、170を超える分水工や用排水路の工夫があるらしい。また、そのために水の取水時間規制は、細かく分単位で行われているようだ。水は農業をする上でとても大事だということをこの研修で学んだので、この井路の工夫が全て人々の知恵や努力によるものだと分かる。この工夫が過去から受け継がれていくように、形を少しづつ変えながらも、今の時代に適した形で残り続けて欲しいと思った。
 
 県立歴史博物館の後に行ったのは、鳥居橋だ。ここは、やや山沿いにあって、アーチ形の石造りの映画に出てくる魔法の橋のようなそんな情緒あふれる橋だった。松木さんの解説を聞き、この橋は川で分断されていた二つの地域をつなぐものだということが分かった。元々もっと古くに作られた橋があり、それの名残の橋脚穴もあった。この橋の橋脚構造は、下流側が平らで、上流側が三角形になっていた。流木や流れてきた石などが引っ掛からないようにするための仕組みで、うまく受け流す仕組みになっているそうだ。また、この鳥居橋のようになぜこのように多くの石橋が宇佐市にあるかというと、院内町の地形が深い渓谷を形成しており、川の流れが急なこと、岩石が豊富に取れたこと、優れた石工職人がいたことなどがあげられていて、これらの要素が合わさって、鳥居橋のような頑丈な橋がたくさんできたという。
 
 この駅館川にみられるこれらの構造物は昔の人の知恵や今の人がこれらを誇りに思い、大切にしているから現存し、今私たちが見ることや行くことができるのだと感じ、人の知恵や想いのすばらしさに改めて気づいた。解説してくだった松木さん、どうもありがとうございました。
 
  • 写真1:国東地域とは全く違った地質を反映した深い谷となっている駅館川上流部。この写真の最も奥の部分にはT字型の沈下橋がみえている。撮影日時: 2022:09:04 12:12:22
  • 写真2:石橋の貴婦人ともよばれる美しいアーチを描く院内を代表する鳥居橋。撮影日時: 2022:09:04 12:17:44