自然科学・身体運動科学分野活動ブログ

2022.11.04

  • 国東農業研修

三の宮の景と田染荘小崎 渡戸貴臣 (国東-2022-13)

ブログ投稿者:基礎教育センター 教授 丸橋珠樹(Professor Tamaki MARUHASHI)

 七島藺学舎を後にして田染荘小崎へと向かった。両子山を水源とする桂川に沿って走っていると嫌でも奇峰が目に入り、すごいなと思っていたら車を止めて松木さんが案内をしてくれた。この奇峰は凝灰角礫岩や溶岩などからなる谷の浸食によって形成されたもので、田染地域周辺にいくつもあるこのような奇峰はまとめて田染耶馬と呼ばれる。その中でも田染三の宮八幡神社の前にあるこの奇峰は三の宮の景と呼ばれ、田染耶馬を代表する景勝地となっている。そそり立つ奇峰は圧巻で、春は桜・初夏は新緑・秋は紅葉を楽しむことができる。「耶馬」というのは中津市にある新日本三景の耶馬渓という渓谷になぞらえて名付けられたもので、国東には田染耶馬を含めて8つの耶馬があり、そのうちの3つは国指定の名勝となっている。大分県は壮大で美しい自然が多くあるのだなと実感しながら車に戻った。
 
 田染荘小崎に着き、棚田に沿って軽く歩いた。田染荘小崎は田染荘を構成する9つの地区の1つだが、中世の荘園景観を地域の方たちの努力もあってほとんど変わらず残していることから国の重要文化的景観に選定されており、田染荘の歴史を振り返るうえで重要な場所となっている。これは元禄時代に描かれた田染荘の村絵図からもよく分かることで、集落や水田が数百年前のものを引き継いでいるのだ。田染荘小崎の水田は地形に合わせて形成されているため大小様々な形をしていたり棚田の段差が緩やかであったりすることが特徴的であるが、注目すべきは景観だけでなく水利にもある。近代は用水路から排水路へ全ての水田を等しく通るよう水を流しているのに対し、田染荘小崎では田越しと呼ばれる灌漑方法で水田に水を供給している。田越しは水田で使った水を排水路に流さず下の水田に水を伝えていくというものだ。昔から水不足に悩まされていた田染荘小崎に適しているうえ、田染荘小崎は水温が低いため水温を温めながら田全体に供給できるというメリットもある。先人たちの知恵の詰まった灌漑なのだ。
 
 道路から水田を見ていると奥のほうに小さな鳥居が確認できる。この雨引社と呼ばれる神社の脇には湧き水や雨水による水流があり、水が不足しがちである田染荘小崎の守り神として地域の人達から深く信仰されている。伝承では雨引社の水流を元に水田開発が始まったとされており、今でも付近の水田はこの水を使用している。
 
 国東半島・宇佐地域が世界農業遺産に登録される際、田染荘小崎は非常に重要な役割を果たしている。地域で協力して町を作るということが全ての根本であるため大切であることを再認識した。
  • 写真1:三の宮の景。河川敷は整備されているので散歩もできる。撮影日時: 2022:09:03 16:40:15
  • 写真2:宇佐駅で5人と別れ大分空港へ帰る前、もう一度田染を短時間訪問した。写真は登れなかった夕日観音の岩峰。撮影日時: 2022:09:05 15:12:19