自然科学・身体運動科学分野活動ブログ

2022.11.04

  • 国東農業研修

七島藺学舎での学び 若菜絵莉 (国東-2022-12)

ブログ投稿者:基礎教育センター 教授 丸橋珠樹(Professor Tamaki MARUHASHI)

 七島藺農家の松原さんの工房を訪問した後、私たちは七島藺学舎へと向かった。七島藺学舎ではスリッパや部屋の飾りなど建物内のあらゆる部分に七島藺が用いられており、その美しさと繊細さに驚きを感じた。
 
 七島藺学舎では、まず七島藺工芸作家の岩切千佳さんにお話を伺った。岩切さんは、国東地域の名産である七島藺を用いて工芸品やアクセサリーを製作されている。様々な作品を製作されている岩切さんだが、一番気に入っている作品はミサンガだという。ミサンガは漢字を当てると「美山河」となる。この「美山河」は両子山をはじめとする美しい山と川に囲まれた自然豊かな国東半島にぴったりだと感じたそうだ。また、ミサンガには、大怪我をしてしまった岩切さん自身に対する復活の願いと東日本大震災被災地の復興への祈りとの二つを重ねているとおっしゃっていた。
 
 岩切さんの想いを知った後、私たちは実際に七島藺でミサンガ作り体験をさせていただいた。独自の染色方法で赤や紫、青などカラフルに染められた可愛らしい七島藺を前に、私の胸は高鳴っていた。私は紫、赤、ピンクの七島藺を選択した。二人一組でペアになり、七島藺を編んでいく。七島藺は紐とも植物とも違う独特の触り心地で、編むのは難しかったが、その分面白さを感じた。
 
 岩切さんのワークショップを受けた後、私たちは七島藺ミサンガを腕に付け、国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会長であり、農家でもある林浩昭さんから七島藺産業と世界農業遺産についてのお話をいただいた。
 
 宇佐と国東半島地域は、2013年に「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」として世界農業遺産に登録された。この登録のために尽力されたのが、林さんと立命館アジア太平洋大学のヴァファダーリ・カゼムさんだ。この地域の農業の世界的な価値を科学的な根拠から証明することには苦労されたという。
 
 その後、七島藺産業が直面している現状や七島藺産業を守る取り組みに関してお話を伺った。七島藺は、カヤツリグサ科の植物で、主に畳表に加工される。以前は国東半島でも多く栽培されていたが、作っても儲からない「貧乏草」と呼ばれ、農家も次第に減ってしまった。国東半島にしかない七島藺の魅力を伝えるために、農業体験や工芸品作りなどが積極的に行われており、最近では湯布院に2022年夏に開業したリゾートホテルの装飾に岩切さんの七島藺作品が使われているそうだ。七島藺という伝統産業が現代的価値において評価されるように、林さんをはじめとした国東の人々は今後も努力を重ねていくという。
 
 岩切さんと林さんのお話に共通していた点は、「七島藺の価値を落とさない」という考え方だ。私たちは普段、消費者として買い物をする中で「なるべく値段が安い方がいい」と考えがちだ。確かに、七島藺の値段を下げれば、より多くの人に手を取ってもらえるかもしれない。しかし、国東にしか残っていない七島藺産業と農家の方々の生活を守るためには、七島藺の価値をむやみに落とさない事が大切だという。お二人のお話を聞き、物を買う時は消費者としての視点だけでなく、生産者や製品の持つ背景を考える事も必要だと感じた。また、値段だけで測れない「価値」の大切さを守る必要があると感じた。
 
 七島藺学舎では、七島藺産業や国東の農業に関してだけではなく、今後の人生において大切な考え方も学ぶことが出来た。林さん、岩切さん、貴重なお話をありがとうございました。
  • 写真1:七島藺の伝統的な分割作業について語る林さん。分割作業で使うピアノ線を「大分のまさに琴線」と表現されていたのが印象深かった。撮影日時: 2022:09:03 14:43:43
  • 写真2:林さん、岩切さんと記念写真。作成したミサンガは武蔵大学に帰ってからも大切に身に着けており、研修後も国東と自分とを結ぶお守りのような存在だ。撮影日時: 2022:09:03 14:14:39