自然科学・身体運動科学分野活動ブログ

2022.11.04

  • 国東農業研修

長廣さんねぎ農家研修 大久保和花 (国東-2022-05)

ブログ投稿者:基礎教育センター 教授 丸橋珠樹(Professor Tamaki MARUHASHI)

 2日目最初の訪問は何十年も前から農業研修を受け入れてくださっている長廣正光さんのねぎ農家研修だ。1日目の豪雨が過ぎさり、穏やかな天気のもと研修が行われた。まず、私達を迎えてくれたのは可愛らしいお孫さん達と優しそうなおじいちゃん、長廣さんだった。まずは講話をということで、長廣さんのお話を伺った。長廣さんは、25アールの広大な土地でこねぎをビニールハウスで作っている。この25アールというのは東京ドーム半分ほどの大きさであり、この広大な面積で一年中こねぎを作っている。
 
 長廣さんがこねぎ農業に携わるようになった経緯は、長廣さんが高校卒業後当時、みかんブームにより、この地域一帯でみかんを作ることが推奨されていた。長廣さんもみかんブームに乗っかってみかんを作り始めた。しかし、しばらくたたないうちにみかんが大暴落し、稼げなくなってしまった。そこから、牛を飼ってみるなど新たな試みをするもうまくいかず、地元にやってきた誘致企業で働いた。だが、長廣さんは農業への熱い思いがあり、やっぱり農業をしたいということで、37歳の時にもう一度農業を始めることになった。その時、大分県が一村一品運動を展開しており、この地域はねぎだったことで、こねぎ農家を始めた。今ではこねぎ一筋40年のベテラン農家さんである。
 
 なぜ普通のねぎではなくこねぎなのか、聞いてみたところ、長廣さんはこう語った。国東市には大分空港があり、ジェット機で運べる作物を作りたいと考えた。その時、3つの条件があり、軽く、高値で、小さいものを考えた結果、こねぎになったそうだ。かつてはこの地区に80人いたねぎ農家さんたちは今では長廣さん一人になってしまっている。その理由は高齢で後継者がいないことで、止めて行く人も多かった。しかし、悪い話ばかりではなく、国東地区にはねぎを作っている新規就農者が36人いるという。長廣さんがねぎスクールを開設し、新規就農者を育てているようだ。
 
 しばらく話を伺ってから近くの水路や井堰を見学した。水路は人の手で整備されていて、それを使って取水井堰から約2キロ離れたこの田に水がやってくると聞き、その技術力や仕組みに驚いた。次に長廣さんのこねぎハウスを見学させていただいた。ビニールハウスごとにこねぎを育てており、成長順になっていた。中には青々としたこねぎが生えており、愛情をかけて育てられているのを見て、長廣さんのこねぎに対する愛が伝わった。こねぎ農家をやってみてよかったことと苦労されたことを聞いたところ、長廣さんはこう答えてくださった。良かったことは、こねぎは先ほども言ったように一年中栽培収穫ができるので、一年中収入が得られ、安定すること、そして、もしダメになっても植え替えることができることだ。収入のほうも大きな売り上げがあり、長廣さん曰く、自分のやる気さえあれば続けていけるとのこと。自分で働いた分だけお金がもらえる、しかも、慣れてくれば自分でスケジュールを管理できるとおっしゃっていた。
 
 確かに、都会で会社の規則や社会のマナーに従って少ない給料で狭い暮らしをするより、農業のほうがおっしゃっていた通り自由でやりがいを感じやすいのかもしれないと思っている。逆に苦労していることは、一年中栽培をしているので、休む暇がなく毎日仕事をしなければならないこと、そして、気候に左右され台風などの時大変だということ、農薬や肥料の管理が難しいことなどを挙げてくださった。味にこだわるとやはり苦労はつきものだとおっしゃっていた。また、収益がたくさんあるのはいいが、毎日働かなくてはいけないので、その貯金を使う暇がないとおっしゃっていた。様々な苦労を聞いて、私は結構つらいことだと思ったが、それも笑い話にするほど農業を誇りに思っている長廣さんに尊敬の念を抱いた。
 
 最後に、この農業で一番大切なことは何か聞いた。そうすると、思わぬ答えが返ってきた。それは楽しんでやること、それが一番だとおっしった。私はそれを聞いてとても清々しい気持ちになった。こんなに自分の職業を誇りに思ってそれを成し遂げ、実際に自分で体現している方がいらっしゃるなんて、なんだか自分も誇らしい気持ちだ。たくさんの貴重なお話や体験をさせていただきありがとうございました。最後には、奥様方が作ってくださったお弁当やお土産をいただいた。このサプライズには研修生から笑みがこぼれた。そして、遂にお別れとなってしまった。最後に記念撮影をして、こねぎ農園を後にした。
  • 写真1:長廣さんの集落前を流れる武蔵川の最上流に築かれた砂防ダム建設の経緯を聴く。撮影日時: 2022:09:02 10:36:53
  • 写真2:このねぎ種子は南米のチリ産と話す長廣さん。年間通じて供給できることと他のねぎとの交配で種の遺伝的性質が変化しない地域を選んで世界各地で種子採取栽培がおこなわれている。撮影日時: 2022:09:02 11:11:39