自然科学・身体運動科学分野活動ブログ

2022.11.09

  • 国東農業研修

研修後レポート 横田仁 (国東-2022-33)

ブログ投稿者:基礎教育センター 教授 丸橋珠樹(Professor Tamaki MARUHASHI)

 関東で生まれ育った私にとって、九州や四国は、馴染みのない土地だ。また、家族は農業と無縁で、農作業はほとんどしたことがない。つまり、国東半島農業研修に参加することは、日常とは正反対の体験をすることに他ならない。
 
 私事だが、今回の農業研修がはじまる3日前から、私は旅へ出ていた。東京から大分までは、飛行機で約1時間半。普段の電車通学と同程度の時間であることを考えれば、あっと言う間だ。しかし、それでいいのか考えた。そこで、往路は列車とフェリーを使って大分を目指した。いわば、事前旅行だ。この旅行の目的は、研修前に見知らぬ土地・人と触れあうこと。寝台列車で東京を出た私は、翌朝、四国へ上陸した。そこから列車で西へ向かい、最後はフェリーで別府へ。その間、私は四国の方々と話し、お世話になった。見るからに旅行者である私に、気さくに話しかけて、その土地の話をしてくれる四国の方々。「おれ、イケてるやろ?写真撮ってくれや~」と話しかけてくるおじさん。どれも、東京では出会えない。
 
 大分空港で他の参加生徒・丸橋先生と合流した時点で、既にお腹いっぱいだったが、大分の方々もまた、人情味あふれる存在だった。初対面の私たちに対して、親身に接し、質問にも答えてくださるみなさん。ねぎ農家の長廣さん宅では、帰りに昼食のお弁当まで持たせてくださった。これはもちろん、長年の付き合いがある丸橋先生の力もあるのだが、根底には大分の方々の人情があるのだろう。
 
 七島藺農家の松原さんの作業場で、学生から国東半島の感想を話す機会があった。そこで私は、九州や四国の方々の、心の距離の近さを話した。人間関係が希薄な東京では、考えられないことが多い、と。私の話を聞いた作業場のみなさんは、納得した様子だった。埼玉県の比較的田舎に暮らす私から見ても、みなさんの温かさは、段違いだと感じた。
 
 ふと考えてみると、東京の異質さに気づく。それは、普段東京都市圏で暮らしていると意識しないけれど、外から眺めてみて、はじめて意識できる。具体的には、東京には人が多い。車も多い。歩く速度が速い。そして一番は、道ゆく人がみな、余裕がなさそうだ。時間的にも精神的にも、余裕がなさそうだ。
 
 「田舎には何もない」と言う人がいる。たしかに、電車の本数は少ない(いや、そもそも路線がない)し、お店も少ない。あっても、営業時間が短い。しかし、東京にはないものが、そこにはある。忙しくて夫婦旅行に行けていないという、ねぎ農家の長廣さんであっても、(僕の目から見ると)幸せそうだ。
 
 その理由を考えてみて、自分なりに答えを出してみた。それは「志」だと思う。ウーマンメイクの平山さんは、母親として・女性として、より良い農業の形を求めて努力している。上原さんや長廣さんは、アプローチは違えど、良いねぎ作りの為に働いている。七島藺農家の松原さん夫妻は、七島藺を絶やさずに、若い世代へと繋ごうと努力している。名前を挙げればきりがないが、今回の農業研修で出会った方々は、みな「志」を持っている。就職を意識し始めて、私はつい、賃金や休暇のことを考えてしまう。しかし、幸せは、時間やお金だけで決まるわけではないと、学んだ。他人に誇れる「志」を持つことは、幸せに生きるために、とても大切なのだと感じた。
  • どんな場面でも、カメラ片手に研修活動を記録していた横田君。撮影日時: 2022:09:05 13:41:17