自然科学・身体運動科学分野活動ブログ

2020.06.07

  • 武蔵One Point自然観察

シイノキー花粉を虫が運ぶー(Now 武蔵の自然 No-09)

満開の桜というと誰でもはっきりとしたイメージとお花見の楽しさを思い起こすことができます。武蔵ではもう一つ満開を楽しめるのがシイノキです。3号館3階から見る花の圧倒的な量感は素晴らしいものです。
  • 満開のシイノキの雄花。撮影日時: 2020:05:16 06:13:03
  • 黒っぽく見えるのは古い葉で、今年の若葉はほとんど見えない。撮影日時: 2020:05:16 06:01:27
普通私たちは木を見上げることはあっても、真横にみることは稀です。武蔵大学の特徴は何?と聞かれて、私が第一に思い浮かべるのは、どの建物も空中廊下で結ばれていることです。このメリットを生かせるのが樹冠観察です。武蔵では木を見降ろしたり、スマホで直接木の花や実を撮影してみてください。この100年間、緑を護る伝統を引き継いできた成果です。

樹冠というのは、木々の生産活動が集中している場所、つまり、葉が茂り、花が咲き虫が集い、果実が実り鳥が来て食べ、冬芽を作って寒さをやり過ごす場所です。木の幹、つまり、材木はこの命の営みを他の木よりも、より早くより高く押し上げ、光競争に打ち勝とうとする進化の結果です。私たちの家や机は、植物の進化の賜物といえます。

  • マルハナバチが着陸しようとしている。雄花は沢山見えますが、全く別の花?枝という雌花は、来年に実る。撮影日時: 2020:05:16 06:04:22
  • 蜜蜂が盛んに花粉を集めて団子を作っていた。撮影日時: 2020:05:16 06:09:40
  • 若枝の先端についているのが雌花で、雄花にも雌花にも花弁はない。撮影日時: 2020:05:16 06:10:15
 シイノキの花には桜のような花弁はありません。雄花はおしべが密集した穂状となり、天に向かって伸びています。ドングリとなる雌花はめしべだけの単純なつくりで、写真のなかで数本だけ黒い細い枝でもないものがそれです。10数個の雌花がパラパラとついています。圧倒的に雄花が多く、花粉生産に偏った性投資となっています。

花粉は昆虫にとってはタンパク質ですから、蜜蜂やマルハナバチが花粉団子作りに精を出していました。香りも独特で、廊下を歩いていると、あの匂いだと思い出すに違いありません。シイノキは蜜を生産しませんが、虫の送受粉サービスへの報酬は、花粉という虫媒花です。

 満開の一週間前には雄花が膨らんで、そろそろ咲きそうだった。わかりにくいかもしれませんが、花序の下のほうに、つんと伸びているのが昨年の雌花です。今年に1.5年かけてどんぐりになる予定です。撮影日時: 2020:05:08 15:02:50
もう一つシイノキの特徴はどんぐりが実るのに1年と半年かかるという、結実期間の長さです。今年の春受精した雌花は、そのまま冬を越し、翌年の花が咲いた後夏前から登熟し始め、秋にドングリとなります。今年の若葉や雄花雌花が咲いている去年の枝先のついている棒状のものが、昨年の雌花というわけです。登学できるようになったら窓からの覗いてみてください。くれぐれもスマホを持つ手を伸ばし過ぎるような危険なことはしないでください。